【人が怖い実話5】ブラインド勧誘の女
ブラインド勧誘:本来の目的を告げずに面会の約束を取り付け、勧誘行為をすること。違法。特定商取引に関する法律第33条の2、第34条、第70条の3、1年以下の懲役又は200万円以下の罰金又はそれらの併科。
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『あした品川まで来れますか? リアルホラーネタがあるのですが』
事の発端は、私に届いたLINEメッセージである。
送信者は、某交流会で知り合った独身女性A。
40歳くらいの自称(元?)看護師で投資家だ。痩せた狐のような風貌である。名刺のサイズが通常よりも小さい。
以前に一度ふたりで会って実話怪談のエピソードをいくつか聴かせてもらったことがある。彼女は、私が怪談収集をしていることを知っているからだ。
なので、今回も、ふたりで面談してお話を聴かせていただけると思いこんでいた。
上記のメッセージを最初に読んだときは、(お、今度は「人が怖い系」のエピソードか)と内心テンションが急上昇した。
話が急で、なぜ品川なのかという若干疑問に残る点はある。
だが、怖い話が聴けるなら、という思いが勝り、指定の場所に馳せ参じた。
道中、わざわざ[東京ばなな]という洋菓子を手土産として購入した。
目的地に向かう途中、『すでに席を確保しました』とLINEが届く。
この時点では、てっきり「飲食店の座席を確保した」という意味だと思い、『あざす!』と返信しておいた。
行った先は、品川駅近くの『品川フロントビル』という複合オフィスビルだ。1階の入口付近でAと合流し、地下1階の大部屋(数百人収容の広さ)に案内された。
会場では、既に数百人(600人だったと思う)の人間が席に座って待機しており、妙な熱気に包まれている。
受付でいきなり「1000円必要です」と言われる。いま思えばこの時点で踵を返せば良かった。
だがこのときはまだAを信用していたので(それぐらい信用していた)とりあえず支払って会場に入室した。どうやら2時間ぐらいの何かのセミナーのようだった。
そして、『確保しておいた座席』までAに誘導される。そこでサラリーマン風の青年を紹介され、その人の隣に座ることになった。
このときAは会場の最後方で立っていたと思う。
「これって何なんですか?」と青年に尋ねると、彼はこう返答した。
「全部聴いてもらってから、良いかどうか判断してもらえればいいので」
質問の答えになってない。
疑念、不信、悪寒が渾然一体となって積もりに積もってくる。
その後、色黒の中年男性が壇上に立ち、話が始まった。お金を増やしましょう的なビジネス(資産運用?)のセミナーだ。
私はビジネスしたいんじゃないんだ。
怪談聴きたいだけなんだ。
蓄積した鬱憤が限界値を越えた。
青年には「帰ります」と一言伝え、席を立ち、会場の最後方に立っていたA氏のもとにずかずかと歩み寄り、「帰ります」と伝えた。「人の時間を何だと思ってるんですか」と声を荒げてしまった。もう少し冷静な対応をすれば良かったとも思うが致し方ない。
Aは終始、不敵にニタついた表情で、何かに洗脳されている印象すら受けた。
最後に手土産の[東京ばなな]をAに押し付け、会場を後にした。
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今回の件で最も腹立たしく、口惜しいことは2点ある。
ひとつは、私が愛する怪談をエサに、品川までおびき出されたことだ。
もうひとつは、信用を利用されたことだ。胸を抉られた気分である。
また、感服したのは、LINE上では一切、嘘をついていないこと。
彼女は『ふたりで会う』とか『彼女自身が怖い話をする』とは書いていない。
私がそう思いこんだだけである。
私がそう思いこむことを計算して書いている。
繰り返すが、以前にふたりで会って怪談を直接提供いただいてるため、なおさらそう思いこんでしまう。
逆に、そう思いこませるために、前回ふたりで会ったのではないかと考えるとゾゾッとする。
待ち合わせ時間前に、わざわざ『席を確保しておきました』と知らせてきたのも、希少性を高めるため、および恩を売っておいて逃げにくくする方策と考えられる。
相当数の場数を踏んでいる、非常に手慣れた鮮やかな手口である。
私をセミナーに招待して参加させた時点で、彼女に何らかの報酬が発生する仕組みなのかもしれない。
以前にAから聴いた怪談エピソードも全てお蔵入りだ。話者が信用できない以上、実話怪談の信憑性も無いに等しい。
なお、このビジネス(資産運用?)セミナー自体は良いものかもしれない。聴いてないので判断できないし、全て聴いたとしても判断できないかもしれない。なので、セミナー自体を否定するわけではない。
13日の金曜日に体験した、些細な『リアルホラーネタ』である。
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