窓に映る音景色

青い服の人形と赤い服の人形が並んで窓の外を眺めてゐます。

ブルルルといふ音がしました。
郵便屋さんのバイクが家の前で止まり、ポストに手紙を入れました。
バイクは向きを変へて、またブルルルルといふ音をたてて行つてしまひました。

（女の子が出てきて、手紙を取り出したわ）
（誰から来たんだらうね、あの手紙）
（この前も同じ模様の封筒が来たわよ、薔薇の花模様の）
（だつたら、誰かと文通してるのかな）

（わたしも誰かと文通してみたい）
（まづ文字が書けなくちやね）
（文字なら知つてるよ、ほらあの看板〈あおいやさいや〉つて読むのよ）
（それから、言葉をつづつて文章が書けなくちやね）
（わたし、絵のはうが得意かもよ）
（何にしても、送り先の相手がいるね）
（決めてるよ、毎年来てゐるあのつばめさんに書くのよ）
（さう言へば、今年はまだ来てゐないね）
（さうなの、どうしてゐるんでせう）

ガタンといふ音がしました。
この家のお母さんが自転車に乗つて帰つてきました。

（これからお夕飯の支度よ）
（まづご飯を炊くんだね）
（それから、いいにほひいがしてくるのよ）
（その間に、女の子は返事の手紙を書くんだ）

ドスンといふ音がしました。
地震です、景色がぐらぐら揺れます。

（お兄さん、わたし倒れて、落ちさう）
（大丈夫だ、すぐ止むよ）

青い服の人形が斜めに倒れました。
赤い服の人形は仰向きに倒れました。
空が見えて、雀が二、三羽忙しさうにサッと横切つて飛びました。
青い服の人形は、ちよつと下を向いて赤い服をソッと見ました。
その時、窓の下からヒューッとつばめが舞ひ上がつて来て、
窓ガラスをトンと叩いたやうでした。
と、青い服の人形が、パタッと赤い服の上に倒れました。

（お兄さん、大丈夫？）
（うん、どうやつて起きよう？重たくない？）
（ううん、平気よ）

廊下でパタパタいふ音がします。
ドアがパタンと開いて、女の子が入つてきました。