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眠れない夜の処方箋 月の輝く夜に

「今晩は!

いらっしゃいませ。

ごめんね。

今、満席なんだけど…

ちょっと外のテーブルでもいいかな?」

◇◇◇◇◇◇◇

友人がすすめてくれたカフェを深夜に訪ねると満員御礼だった。

普段の僕なら諦めて帰るんだけど…

何故か、どうしてもこのカフェが気になったので店の前に置かれている二人がけテーブル席で席が空くのを待つことにした。

しばらくすると、店内から出て来た小柄な女性店員がメニューと水を持って来てくれた。

彼女の説明によれば、この席でも注文は出来るらしい。

どうしようか?と悩んだが、店内に入ってマスターと話したいと思っていたので、注文は中に入ってからでよいと伝えた。

◇◇◇◇◇◇

外で夜の空気を楽しみながらぼんやりとしていると店内からゾロゾロと女性が出て来た。

団体客の貸し切りだったのかな?と思いながら僕は少し緊張してくるのを感じた。

実は…このカフェで従業員を募集していると聞いてどんな店なのか見に来たのである。

週に1~2回店主を勤めてくれるカフェオーナー経験者というのが募集要項に書いてあったものだから、ダメもとで応募してみたいと思ったのだ。

僕は数カ月前までは、隣市の学生街にあるカフェで雇われオーナーをしていたのだが、大人の事情で辞める事になり、現在就活中なのだ。

他の業種の仕事をするべきなのかなどと、色々考えてはみたのだがどうしても昔からの夢であったカフェで、働くという仕事を諦める事が出来なかったのだ。

◇◇◇◇◇

しばらくして、先程の女性店員が来て、店内へと案内された。

カウンターの端の席に座るとそれだけでホッとしているのを感じ辺りを見回すがこれと言って内装が変わっているわけではない。

「改めて、いらっしゃいませ。大変お待たせ致しました。

こちらは初めてですか?」

「今晩は。

外で待っている間も楽しませてもらいましたよ。

はい、ここへ来るのは初めてなんです」

「お客様は上級者ですね。

外のテーブルで夜の空気を楽しめるとは中々のモノですよ」

「今夜は月も綺麗だし、いい夜だから…」

僕は注文もしないで話し続けていた。

夜を楽しめるこの店で働いてみたいなと思いながら…

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