DJが知る音楽の持つ魔法

DJを生業にはしていないけれど、いちばん長くつづいていることが誰にあてるでもなく書き連ねる文章だとしたら、その次にはDJをつづけてきた。
いまから書こうとしているのはそのはなしではない。

コロナ渦の前、我が街の毎晩のように過ごしてきた、メキシカンバーで、もはや契約の切れた、wifiがないと繋がらないこのiPhoneを、アンプに繋げてスピーカーから流すDJのことを書こうと思う。

時にはYouTubeから、ときにはiTunesから流すその行為もまた僕にとってはかけがえのないDJだ。
そこには、いつもの常連のメンバーだけでなく、ときおり顔を見せるお客さんもいれば、何年振りかに来店するひともいる。新規の方も多々、いる。
僕はそのバーのいちばん隅っこで、この7、8年、一人で呑んでいた。そしていつしか、ケーブルを持ち込んで、DJをするようになった。
僕のスタイルはそこでも、どこでも変わらない。人前で音楽をセレクトしはじめてから、ずっと。コンセプトはほとんど、ひとつしかない。それは会話の邪魔をしないこと。ライブの合間に組まれたDJもそれは変わらない。DJとしてのいちばんの聴かれ方は、BGMとしてだと思う。良い雰囲気で音楽がかかっていること、ときには、というよりだいたいはそこではDJが誰かという物言いは不要でしかなく、言い方を変えれば、そこに選曲をしている誰かがいるということさえ気付かれずに過ごせる時間、僕はその空間をクリエイトしている。もしかしたらいちばんエゴ、アーティストエゴの強いDJなのかもしれない。
良い塩梅にセレクトされさえすれば、お酒が進む。
当然、気付いたひとにはリクエストをされたりもする。或いは、そこでの会話で、クラプトンのはなしが出れば、クラプトンの曲を混ぜてみる。もちろん、混ぜ方にも、選曲にも工夫や知識がいる。
DJは常に思ってもみない方向へと進んでいく。
そして、割と僕の耳とセレクトの技術と知識は確かなようだ。何のジャンルでもとは言いすぎで、唯一対応出来ないのはクラシック。
それでも、例えば酔っ払って喧嘩が始まりそうなとき、その喧嘩を止めるキラーチューンを知っている。例えば機嫌の悪い女の子を、瞬時に笑顔に変えるキラーチューンを知っている。例えばみんなで明け方大合唱するキラーチューンを知っている。もちろんそのキラーチューンはひとつではない。
或いは、あまりにも音楽とお店の雰囲気とお酒が良くマッチして、その場で出会った男女がホテルへと消えて行ったこともある。
または、セットの流れで、僕のセレクトの流れで、泣き出した女の子を何人か知っている。
音楽の持つ魔法。音楽がいちばん効果を発揮するのは、少なくとも僕にとっては、そうした日々の暮らしのサウンドトラックだ。
もちろん、いつだってかける曲はちがうし、音量に対する配慮は、ほかのライブハウス同様、細心の注意を払っている。
これはもちろん、ヒップホップでいうところのセルフボースティングだ。だけれど、この街にそのメキシカンバーがあること。そして、そこでDJをしている男がいること。いずれ伝説になると思うよ。これはもちろん、自画自賛。
音楽がいちばん効果を発揮するのは、やっぱりBGMとしてだと思う。日々の暮らしのサウンドトラックとしての。
さあ、僕に一曲かけさせてくれないか?。
もちろんDJが僕の人生を救うこともある。
だけれど、お客さんがDJの人生を救うことだってある。
LAST NIGHT A DJ SAVED MY LIFEならぬ、LAST NIGHT YOU SAVED A DJ。
DJ IS THE GODならぬ、
THE GOD IS DJ!。
少々の綴りちがいはご勘弁を。
眠れないいま、より深く、歌とリズムを必要としている。
さあ、僕に一曲かけさせてくれないか?。
大切な友達の、復活後、最初のライブの最後に歌われたあの曲から、今夜が始まる。
美しい日々のはじまりは、連なる記憶の綴られた皺。
僕たちの未来の小さな欠片は、重ねた日々より積み重ねてきたいま。
さあ、手を伸ばせ。
耳を澄ませば、あいつの歌が聴こえてくるよ。
さあ、歌い出せ。
月に向かう道すがら。
あいつの小さくて、凛とした美しい声が聴こえてくるよ。


#DJ

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