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ゲーム業界で正確なスケジュールを立てられない理由

ゲーム業界で働き始めてから〇年。スケジュール通りにゲーム制作が進んだケースはほぼありませんでした。
(リメイクのゲームがスケジュール通りに完成したケース等はありました)

大抵は、当初予定していた仕様をばっさばっさ切り倒したり、不具合を「仕様です」などとわけのわからないことを言ったりして、なんとかリリース日に間に合わせることが多かったと思います。

稀によくリリース日に間に合わないこともありますが……

とにもかくにも、この記事では「ゲーム業界で正確なスケジュールを立てられない理由」を自分なりに考えて書いてみました。

※「正確なスケジュールを組めるようになる」という記事ではないのであしからず。
※じゃあ「スケジュールって必要なの?」と思うかもしれませんが、はっきりいって「必要です!」必要な理由はまた別の機会に記事を書きます。

はじめに

<用語説明>
以下、どういう意味だっけ? となりそうな用語の説明をします。

プロデューサー
予算を調達したり、開発会社やスタッフを手配したりする人。
つまり、仕事とお金をくれる人。
企画の立案、コンセプト決定、広告戦略などにも深く関わっているため、
「熱いゲームにするぜ!」とか「優雅なゲームにするわよ」とかの
方向決めはプロデューサーとの相談無しでは進められません。

マネージャー
スケジュールを管理したり、タスク(作業)を管理したりする人。
プロジェクトマネージャー(PM)とも呼ばれますが、長いので記事では単に
マネージャーと呼びます。

ディレクター
プロデューサーの定めたコンセプトに沿って、ゲームを形にするべく、
各開発スタッフに指示を出し、仕様通りにゲームが仕上がっているか
監修する人。

<この記事で扱わないケース>
プロデューサー × ディレクター × メインプランナー体制
ディレクターがスケジュール管理、タスク管理をし、メインプランナーがゲームの監修をする体制もありますが、職種が違うだけで、やっていることは同じなので省略します。

プロデューサー × ディレクター 体制
ディレクターがスケジュール管理、タスク管理、スタッフへの指示、ゲームの監修、さらには何かしらの作業まで行うケースもありますが……大変ですね。

開発スタッフが企画を立案し開発するケース
実はこういうケースもないこともないです。
ただ一般的ではないため省略します。

体調不良、事故、喧嘩、性格などによる遅延
あくまで「ゲーム業界で」スケジュールを立てられない理由に絞ろうかな、と思ったので省略します。

理由その1 人は他人の頭の中をのぞけない

さて本題です。

企業のゲーム制作プロジェクトはプロデューサーがプロジェクトを立ち上げるところからスタートします。

初期の段階ではマネージャー含む数人の主要スタッフに、作りたいゲームの企画、規模(予算)、期間を提示して相談します。

莫大なお金のかかる話ですから「お金出すから2年後にゲーム完成させてよー」みたいな杜撰な計画ではなく、きちんと段階と審査を挟むような計画を立てます。

つまり……

・プロトタイプ(試作品)を数か月で完成

・審査の後に一定期間をかけてアルファバージョンを完成

・さらに審査の後に一定期間をかけてベータバージョンを完成

・正式版完成

といった具合です。

ですので、プロジェクトが立ち上がってから早い段階で、
「プロトタイプでは〇〇まで実装」「アルファバージョンでは△△まで実装」みたいなスケジュールを立てる必要があります。

そうでなくては、プロトタイプを完成する前にタイムオーバーになり、企画がお流れになってしまうでしょう。

そうなってしまわないように、マネージャーがプロデューサーから目指すゲームの要件を聞き取り、大まかなタスク(作業内容)を洗い出します。

プロトタイプでは「ホーム画面」「バトル」「キャラ育成」を組み込もう。オフラインで構わない。サウンドは仮組でいい。その構成だと開発スタッフの人数は~といった感じですね。

けれども、マネージャーはそれらすべての実装工数(作業にかかる期間)を把握しているわけではありません。

・バトルの企画作成、仕様作成はどのくらいかかるのか?
・キャラの成長システムの企画作成、仕様作成はどのくらいかかるのか?
・UIの検討、組み込みはどのくらいかかるのか?
・キャラのグラフィック作成はどのくらいかかるのか?

これらの工数を把握するため、主要スタッフが集まり会議を行い、実装工数を確認します。

ここまでの流れをざっとまとめると下記のとおりです。

 1. プロデューサーがプロジェクトを立ち上げる
 2. マネージャーがプロデューサーから
  目指すゲームの要件を聞き取り
大まかなタスクを洗い出す
 3. マネージャーがプランナやプログラマ、デザイナから
  実装工数を聞き取りスケジュールを詰めていく


さて、どうでしょう?


なにがどうでしょう? って話ですが、つまり、これって……


これって、伝言ゲームですね!

誰もプロデューサーの頭の中を正確には理解できません。

まずこの時点で、本当にほしいゲームの完成形が開発スタッフには見えていないのです。

これでは正確なスケジュールは組めません。

理由その2 ゲームの完成形は誰にもわからない1

あるいはプロデューサー自身も初期段階ではゲームの完成形の詳細までは見えていないかもしれません。いえ、たとえ完成形をイメージしていたとしても最終的には異なったものになる、と見たほうがいいでしょう。

それはなぜか?

プロジェクトを立ち上げたあとに開発スタッフが集まってきます。

その中にはとても魅力的な絵をかけるデザイナがいるかもしれません。
プロデューサーが思いもしなかったゲームシステムを考えられるプランナがいるかもしれません。

チームによるゲーム開発というのは、その時、その場に集まったスタッフたちによって最終形が大きく変わっていくものなのです。

その場に集まったスタッフたちがプロデューサーの想像を超える創造をした時、プロデューサーはゲームをさらに良いものへ昇華しようと考えるかもしれません。

結果「仕様を一部変更する」といったことも発生します。

それによりスケジュールの変更も発生するでしょう。

逆にスタッフの仕事がプロデューサーのイメージと悪い意味で一致しないケースもあります。そういった場合も試行錯誤によりスケジュールに遅延が発生するでしょう。

なんにせよ、その時、その場に集まったスタッフにより、完成形は変わりますし、スケジュールも前後するのです。

理由その3 ゲームの完成形は誰にもわからない2

集まるスタッフ以外にも、ゲームの完成形が変わるケースがあります。

よくあるのが(よくあるかな?)
「新しく出たアプリの〇〇のような機能を実装したい」というケース。

ゲームの開発期間って最近は1年では短い方で、1年の間に「これすげー!」といったアプリは出てくるものです。

そんな時にリクエストとして出てくるのが上記のケース。

もちろん何も検討せずに「はい、実装しますよー」とは言いません。

まずは、工数の見積もり。スケジュール内に収まらないなら「何かの仕様を削るしかないですね、何を残しましょうか?」と相談。

ただ、その時の見積もりが甘いと後になってスケジュールが遅延したりします。

理由その4 ゲームの完成形は誰にもわからない3

僕みたいな初心者レベルのディレクターではなく、ベテランディレクターはこの問題は発生しないかもしれませんが、仕様抜けの話です。

ゲーム開発って、ゲームが形になっていない段階から、ディレクター、もしくはメインプランナがゲーム全体の画面遷移を洗い出します。
ダイアログも含めてね。

そして、そこから各画面の仕様をプランナが詰めていくわけですが、割と頻繁に「この仕様どうなってんの?」といった質問がきます。

つまり、仕様が抜けています……

いや、気を付けても意外と抜けてしまうのですよ。僕だけかもしれませんが……

「ミッション画面」とか「お知らせ画面」とか「ヘルプ」とか「バトル画面のどこかのダイアログ」とか。

いや、これらを実際に取りこぼしたわけではないのですが、たとえば、上記のような細かいところは抜けがち。

あと、演出周りも抜けがち。

仕様が抜けているということはスケジュールもごっそり抜けてます。
ごめんなさい!

理由その5 なにか違う

ゲームは何もない状態から作り出されます。

例外はあります。

ベースとなるゲームがあり「〇〇のようなゲームを作って」と言われるパターン。最近ではむしろそのパターンの方が多いかもしれません。

ただ、それでも、どこかで差別化して独自要素を入れないとゲームのウリは立たないですよね。それに同じゲームを作ったりしたら訴えられますってば!

というわけで、どのようなゲームにせよ、開発前のゲームはまだこの世に存在しないのです。

ディレクターは、プロデューサーからゲームのイメージを企画書や口頭で説明を受けている間に、リアルタイムで頭の中にゲームを構築し、遊びます。

そして、何か問題点や疑問点があればリアルタイムで質問していきます。

「1ステージ当たりのプレイ時間はどのくらいでしょうか?」
「ステージのスキップはできますか?」
「バトルを楽しむゲームですか? 成長を楽しむゲームですか?」

みたいな感じで、質問しながら頭の中でゲームをプレイし、プロデューサーとゲームのイメージに差異があれば、その場で頭の中のイメージを修正していきます。ディレクターとはそういう能力を持っています。

けど、それでも、悲しいかな、ゲームが形になってくるにつれて、思いもしなかった問題が発生してくるのです。

「なにか違う……」
なにか面白くない……」
なにかガチャを回したくなる気がしない……」
なにかわかりにくい……」

もやっとした「なにか」。

実は思いもしなかったわけではなく、こういうのって、検討段階から「なにか」まとわりついていることが多いです。

問題としては企画立ち上げ時からわかっていたのに解決策が見当たらない。そのまま実装を進めていったら問題が具現化して現れる。というように……

つまらないゲームを世の中に出してもつまらないですし、そういう時は関係者を集めて相談です。

「なにか違う」からスケジュールを見直す。これは、エンタテインメントを扱う業種特有の問題ですね。

理由その6 他社の遅延

中規模以上のゲーム開発では複数の会社が開発に絡んでいる状況が出てきます。

A社…パブリッシャー(企画、宣伝、販売など)
B社…デベロッパー(ゲーム開発)
C社…カードデザイン、キャラデザイン
D社…シナリオ

など。

なにかしらの理由で他社の遅延が発生した場合もスケジュールに影響が出てくることが多いです。

D社「シナリオが間に合わないんですよ」

といった場合はシナリオスクリプト(シナリオ組み込み)も遅延しますし、

A社「(リリース時期が売り上げに密接に関わってくるので)
 リリース時期を〇月にずらしたい」

といった場合も遅延が発生します。

理由その7 未知の技術

開発スタッフがこれまで触れていなかったゲームのツールやエンジンが必要になった場合もスケジュールが読みにくいです。

たとえば Live2D を動かしたことのないデザイナ(あるいはプログラマ)がLive2D を使う、Unity を触ったことのないデザイナが Unity を使うなどといったケースです(Unity = ゲームが作れるなんかすごいものです)

仮に表面的に「なんだ、動いてるじゃん!」みたいに見えても、後々になって……そう、こういうのっていつも後々になって、問題が発覚するものです。

「なんか重くない?」「テクスチャサイズ大きくない?」「表示おかしくない?」

といった問題が発覚し気づいたときには多数の修正が必要でした、といったことは稀によくおきます。

理由その8 開発環境のアップデートによる調整

開発で使われるゲームエンジンのアップデートにより、これまで動いていた……(となんでもありません! ただの悪口になってしまう)

理由その9 プラットフォームの規約変更

プラットフォームって要はiOSやAndroidのことですが、規約が変更されることによって、実装する必要のある機能が追加されたりします。

するとそのためにスケジュールが遅延します。

理由その10 iOS審査

iOS版のアプリをリリースしたい場合、気を付けないと審査により、スケジュールが遅延します。リリース時には審査はそれなりに時間がかかるため、審査期間を長めにとっておくべきです。リジェクト(審査不合格)もありますし。あとクリスマスは気を付けて(クリスマス休暇で審査してくれない)

理由その11 バグ

これはそこまで説明しなくてもわかるかなと。バグが直せずスケジュールが遅延します。バグは最終的に仕様になります。何を言っているのかわかりませんが……

まとめ

さて、いかがでしたか?

スケジュールって本当に立てるの難しいです。僕は超絶苦手なので、そういう仕事はマネージャーさんにおまかせです。

他にも理由はありそうですが、とにもかくにも、バッファ(のりしろ)は(さぼらない程度に)多めにとっておくのが大事だと思います。

また、この記事を読んだ方は「スケジュールっていらなくない?」と思うかもしれません。

ところがどっこい、スケジュールは必要だと僕は考えています。

意外でしたか?

それでもゲーム業界でスケジュールが必要な理由について」も記事を書きましたので興味のある方はどうぞ。

ではでは。最後まで読んでいただきありがとうございました!

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