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「明白」

 命はいつか失はれる。そんなことは知り尽くしてゐたはずなのに、心はいつまで経つてもれない。彼女がこの世から、たうの昔に去つてゐたのにも関はらず、私はそれを知るまでの間、何も苦しまずに生きてゐたことをどれだけ悔めばいいか分からない。
 いま、彼女に届けるために書き続けた詩の数々も、写真の数々も、そのすべてが無駄になつてしまつた。悲しみに暮れた日を、夕焼けを、あと何回見送れば良いのだらうか。

 雲間からのぞく晴れ空少しだけ
 分けてなくれそ あの子の心へ

 言葉だけ積り積つて往く先の
 いまは絶えたか 明日は何する

 もしも逢へたのなら、言葉をかけることができたのなら、何度でも引き留めやう。君が笑へないといふなら、くすぐつてでも、道化を演じて馬鹿になつてでも君を笑はせやう。一日の最後に頑張つたと、また明日ねと伝へやう。
 まう遅すぎる。あまりにも白々とした事実が、朝陽のやうに心を差す。知つてゐながら、またこうして、往く宛のない言葉を書いてゐる。
           令和四年十月二五日 

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