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30歳にもなってシャツも作れないことに気づいたので、作ってみようと思い立った話

きっかけは一冊の本との出会いだった。

【プロローグ】

今年の4月、私は東京から地方の中核市に引っ越し、新たな環境で暮らし始めた。

東京で仕事帰りや休日にしばしば訪れていた大型の書店は徒歩圏にはなく、最寄り駅のビルの中に中型の書店はあるが、職場を中心に自宅とちょうど点対象を描く位置にあるため、退社後に寄っていくのが少し面倒だった。また、4月はコロナ禍で緊急事態宣言発令下のため、その書店は土日祝日は休業、平日は18時に閉店という営業形態となり、定時ちょうどにダッシュで向かっても店内が閉店の準備を始めているというような状況であった。4月に着任したばかりの私は新しい職場の「感染者第1号」になることを恐れ、公共交通機関を利用して離れたエリアの書店に行くこともできずにいた。こうして書店に行くことができない日々が訪れた。それまで当たり前だった「書店に行くこと」が奪われただけで、人間はこんなにもストレスが溜まるものなのだなと驚いた。

5月末、自分の住んでいるエリアの緊急事態宣言が解除された。引き続き、感染には注意しなければならない状況ではあったものの、ハードルが一段階下りたような感覚がして、このままストレスを溜め続けるのも体に良くないと理由を付け、コロナ対応のために出勤した休日の代休を平日に取得し、電車で片道30分ほどの街にある大型書店に行くことにした。平日の昼間なら感染リスクは比較的低いだろう、という判断だった。

初めて行ったその書店は、東京の紀伊國屋などには及ばないものの、十分な売場面積及び冊数を擁しており、「断食」ならぬ「断『書店』」で脳の飢餓状態にあった自分には十分すぎるくらいの規模だった。予想通り、他のお客さんも少なかった。約2ヶ月ぶりの大型書店に興奮してしまった私は、明らかに関心がないと思われるジャンル以外の全ての書棚を左上から右下までじっくり眺め、時に気になった書籍を手に取りながら歩き回り、書店そのもの、そして書店で買い物ができることの素晴らしさを噛み締めていた。結局、2時間ほど滞在してしまった。

その中で出会ったのがこの本だった。

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この本は「裁縫」の書棚にあったのだが、2ヶ月間の「断『書店』」がなければ立ち止まってゆっくり見ることがなかったであろうジャンルで、こういう状況だったからこそ出会えた本であると思う。

私は衣替えの季節が訪れてもしばらく着続けるほど、ジャケットやネクタイが好きだ。毎夏、ジャケットやネクタイをつけていることによって生じるデメリット(暑さ)とメリット(モチベーションの上昇)を比較衡量し、デメリットが上回ったと判断したときにやっと脱ぐ。東京では7月には暑さに負けてしまうが、新しい職場では徒歩数分で職場に着くので満員電車に乗ることもなく、また職場環境も比較的快適で、社内を調整や会議で歩き回るようなポジションでもないことから、ジャケット及びネクタイを着用したまま今夏が終わろうとしている。上司からはすっかり「ジャケットキャラ」として認知されてしまった。また、シャツも好きで、私服もさることながら、腕が比較的長く、普通のシャツでは七分袖のようになってしまい、そこまではならないにしてもうまい具合にジャケットの先から袖が出ないため、職場で着るシャツをオーダーメイドし、ボタンや襟、裏地で遊んだりもしていた。私は「仕事着」が好きなのだ。

この本を手に取り、ふと思った。

「ジャケットやシャツが好きなキャラでいるくせに、俺は30歳にもなって自分でシャツも作れないのか。」

なんだ、お前はその程度の人間なのか、と思ってしまった。

客観的に考えると「30歳(正確には30歳+α)であること」と「シャツを作れること」が当然に結びつく文化を共有する社会には生きていないけれど、自分の中から湧き上がった強迫観念にも似たその思いに取り憑かれてしまい、そのままこの本を購入し、家に連れて帰った。

帰宅して本を開いてみると、シャツやジャケット、パンツ、アウター、ネクタイ等の材料や作り方が掲載されており、また実際に作るのに必要な型紙も付属していた。小学校低学年の時、ゲーム本体を入手する前に購入し、脳内で冒険を繰り広げたポケモンの攻略本のように、このパーツはどの部分だろうか、なぜこのような曲線を描くのだろうか、この処理にはどんな意味があるのだろうかなどと、胸を弾ませてその本を読んだ。

昔見た菅田将暉さんの情熱大陸の1シーンが思い浮かんだ。

作業場としてマンションの一室を借り、時間があるときに男3人くらいで集まってあーでもない、こーでもないと言いながら、自分が着たい服を作っていた。ミシンを凝視しながら作業し、自分が納得する衿に加工された服を手にした菅田さんの顔は生き生きしていた。ラヂオで聞いた記憶があるのだけれど、確か菅田将暉さんのおじいさんは仕立て屋さんなのだそうだ。血なのかもしれない。

また、数ヶ月前からフォローしている「keniamarilia」というブランドも思い起こされた。

着物の生地でスカートやシャツを作って、数ヶ月に1度くらいの頻度で販売される。3万円もするシャツが販売開始早々、次々と売り切れていく様は恐怖すら感じる。これまで3度ほどチャレンジしたが、全然買うことができない。

自分でシャツを作ることができれば、好きな生地を見つけた時にそれを加工することもできるようになるんだ。最高だな。

×+×+×+×+×+

【2020/10/11追記】
10月2日発売分をゲットしました!サイコゥサイコゥ!!

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×+×+×+×+×+

本を読んでいて、自分も実際に作ってみたいなとは思ったけれど、必要な道具もたくさんあるし、時間も相当かかるだろうし、技術面でも裁縫なんて外れたボタンやほつれを直すくらいで、ミシンに至ってはおそらく小学校か中学校の家庭科の授業で使って以来触れてすらいなかったので現実的では無いだろうと思い、「作り方を知る」ということで留めていた。しかし、「作り方を知っていること」と「作れること」の間には大きな差があることは確かだった。自分が満たしたかったのは後者だったはずだ。

そして、夏。

一旦落ち着いてきたと思われたコロナは第二波が到来したかのような状況となり、自治体によっては独自の緊急事態宣言を表明するところも出てきた。8月末に1週間ほど夏季休暇を取得することを予定しており、「コロナが落ち着いたらどこか国内旅行に行こうかなー」と呑気に思っていたのだがそういう訳にもいかなくなり、また誰かと飲み行こうにも新しい土地で友人・知人も多くなく、そもそも飲食店に行くこと自体が憚られるという状況で、ただただ空虚な休みを迎えることになってしまった。

せっかくの長期休暇を無駄にしたくない、と思っていたところ、自然と「じゃあ、シャツ作るか」となった。

実際に作ることをイメージして本を読み直すと、ある程度の技術や道具がある読者を想定しており、必要となる道具や、裁縫の基礎知識についてはあまり記載がないことに気づいた。初心者がいきなり手にとるような本ではないので、当然だと思う。義務教育以来、ミシンに触れておらず、また本を読んでいて専門用語らしき単語を見るたびに「?」となっていた私は心許なかったので、人生で前回に続きおそらく2度目となる「裁縫」の書棚に行き、基礎っぽい本を探した。幸いにも最高に基礎っぽい「基礎の基礎」の本があったので購入した。

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この本でおおよそ必要と思われる道具類がわかった。

裁縫用品店は最寄り駅から数駅先にあり、暑い中、かさばる荷物を運ぶのが億劫だったので、ユザワヤのネットショップを利用することにした。休暇が始まる日の4日前の深夜、必要そうなものをカートにぶち込んだ。計15,571円。

・ハトロン紙(下の絵柄が透けて見える薄い紙)
・チャコペーパー(カーボン紙のように模様を転写する紙)
・ルレット(先端がトゲトゲになっている円盤が先っぽでクルクル回る道具)
・ロータリーカッター(先端が円盤状のカッターになっている道具)
・洋裁ハサミ
・三角チョーク(布に印を付けるのに使う)
・まち針
・50cmものさし
・Hカーブルーラー(「Hip(胸囲)」のH。緩やかな曲線のためのルーラー。)
・Dカーブルーラー(「Deep(深い)」のD。急な曲線のためのルーラー。)
・アームホールスケール(襟ぐりなどのカーブを描くためのルーラー。)
・カッターマット
・生地(110cm×260cm)

◯作業1日目

ちょうど良いことに休暇初日の午前中に届く。60cm×45cmのカッターマットのためか、2箱を繋げた大きな段ボールで届いた。暑い中運んでいただき、本当に感謝。

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ひとつ気になったのは生地。選ぶ時には「とりあえずチャレンジ!」という気分で、白の無地のもので、「吸汗・速乾」という文言に惹かれて決めたのだが、なんというかムニムニしていて縦横斜めによく伸びる、体操服などに使いそうな生地で、思い描いていた襟付きのピシッとしたシャツの生地に合うものではなかった。もっとちゃんと商品の説明を読んでいれば良かった。ただ自分がどこまでできるか、生地を裁断するところまでたどり着くかどうかも不透明だったので、すぐに新しい生地を注文することはせず、とりあえずこのまま置いておくことにした。

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いよいよ作業を始めるにあたって、方針を決めた。

・一気に作業し過ぎない
・義務感を持たない
・嫌になったらやめる

人生は短い。今日やりたかったことは明日やりたくないかもしれないし、すべきでないことになっているかもしれない。すべきでないと思われることはきっとその時点でするべきではないことであろうし、そのまた翌日にはやりたいこと、すべきことになっているかもしれない。「人生は短い」に矛盾するかもしれないけれど、別に誰かのための納期があるわけでもなく、自分がやりたいからこそやろうとしていることであるので、長い目線でこのプロジェクトを遂行しようと思った。

作業第1段階は型紙をハトロン紙へ写すこと。3種類の服(クレリックシャツ、ボタンダウンシャツ、ドレスパンツ。今回作るのはボタンダウンシャツ。)の5サイズ(S〜3L)が重ねて記載されたこの型紙から、自分が作りたい服の種類・サイズのものを、この段階ではいまいち何を意味しているかよくわからない印も含めて、ハトロン紙に写しとっていく。

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曲線が特に難しい。使い方があっているかもよく分からない中、手探りで2つのカーブルーラーを駆使しながら、できるだけ近い線を型紙に写しとっていく。この日は3時間ほど作業。テーブルの上に置いて中腰の姿勢で作業するため、初日にして腰に来る。なるべく椅子に座って作業するようにしよう。

◯作業2日目【これまでの累計作業時間 3時間】

1日目に引き続き、型紙を写しとる作業。少しずつ曲線を描くのにも慣れてくる。

型紙には縫い代が含まれていないので、型紙の線から+1cmして描かなければいけないが、場所によって多かったり少なかったりすることに気づき、修正をかけつつ進めていく。下の写真(生地を切り出す際の配置のイメージ図)の輪郭のうち、細い線が型紙に記載されている線で、その外側の太い線が縫い代の部分。ところどころに◯で囲まれた数字が特別な幅の縫い代。「なんの数字だべな?」とは思っていた。

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4時間ほどで終了。体の前後を覆う右前見頃、左前見頃、後見頃はともかくとして、袖(2枚目下)の大きさに驚く。大きさを見誤り、先に書いていた右前見頃(2枚目上)を書き直すことになった。自分の腕はこのような形の、これほどの大きさの布に覆われていたのだなと、まじまじと眺めてしまう。

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昔、数学嫌いの母が買ってくれた「数の悪魔」に掲載されていた40面体の展開図を夢中になってスケッチブックに書き写したことを思い出す。

型紙は衣服の展開図なのだ。その描く直線及び曲線は時代を経るごとに蓄積された人類の人体構造の理解、その時々の流行や美意識、工業化・大量生産の時代が求めた効率性とデザイン性の均衡といった歴史を積み重ねた様々な要素が描き出した軌跡なのだ。そんなことを思いながら、ハトロン紙上に広がる自分が写しとった直線と曲線のコンビネーション、何らかの特別な役割を担うであろう幅の違う縫い代、これらのパーツによって組み上がっていくであろう最終形のイメージに胸が躍った。

◯作業3日目【これまでの累計作業時間 7時間】

型紙を写し終えたので、次は生地を裁断する第2段階。やはりムニムニ生地ではシャツは作れないという結論に至り、しかしながらネットショッピングではどのような生地であるか確かめられず、また発送まで待たなければならないので、数駅先にある用品店へ向かった。

しゃっきりとした質感で、涼やかな植物柄の生地にした。型紙を写した時に袖の大きさに驚いてしまったので、本に記載されていた長さより少し長めに300cm購入した。「ダロウェイ夫人」の冒頭が浮かぶ。「ダロウェイ夫人は、お花は自分で買いに行こう、と言った。」花柄を自分で買いに行ったのだった。

また、布に合わせて三角チョークは買っていたもののやはりペン状の方が使いやすいだろうと思ってチャコペン、布のことばかり考えていて思いが至っていなかったボタン、正体がよくわからないが本を読む限りどうやら必要らしい「接着芯」などを併せて買う。全部で5,228円。

・チャコペン
・ボタン(直径1.15cm白(前面及び袖口)、直径0.9cm茶(衿))
・フェルト
・接着芯
・布(110cm×300cm)

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購入した生地にアイロンをかけた後、写しとった型紙をカットする。

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「接着芯」は生地と重ねてアイロンをかけることによって片面についている糊が溶けて張り付き、メッシュ状になった繊維で生地を補強する。袖先や襟元といったパーツは強度が必要なので、生地の裏に接着芯を貼る必要がある。

生地及び接着芯のシートから型紙に合わせてパーツをそれぞれ切り出し、その後アイロンで接着するという方法もあるようだが、絶対にずれる自信があったので先にある程度の大きさの生地に接着芯のシートを貼り付け、補強された生地を作ってからパーツを切り出すことにした。

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この日は裁断する一歩手前まで。作業時間はおよそ3.5時間。

◯作業4日目【これまでの累計作業時間 10.5時間】

型紙に合わせ、生地を裁断していく。裁断に使うのはこのロータリーカッター。スエゾーのような可愛らしい見た目をしているが切れ味抜群で、少し指に触れたくらいで涼やかに皮膚の表面が切れた。かすり傷程度ではあったが。

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最初は慎重に型紙通りに切っていたものの、「そもそもこの外枠って、縫い代分をざっと描いたものなんだから、そんなに厳密にやらなくて良いのでは?」と気づく。裁断後にチャコペーパーやチャコペンで描く出来上がり線や必要な印はきちんと描くようにする。これは前面のボタン穴をあける部分に当たる「前立て」。

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接着芯で補強した生地から表カフス×2、衿、台衿及び前立て、そのままの生地から右前見頃及び左前見頃を切り出す。今見返すと、アイロンが不十分だ。

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作業時間およそ4時間。役者が揃ってきた。

◯作業5日目【これまでの累計作業時間 14.5時間】

裁断しているうちに実際に縫い上げる作業をイメージするようになり、しつけ糸を縫ったり、糸を切ったりと、ミシンだけではできない細かな作業に必要な道具があることに気付く。仕事用の鞄にはスーツがほつれたり、ボタンが外れたりした時のためにソーイングセットは常備しているけれど、あまりに簡素なので、小学校のお裁縫セットほどではないにせよ、もう少し充実した装備を揃えたくなった。

ここでふと、いつも買い物に行っている徒歩圏内にある複合商業施設の上階に裁縫用品店があったような記憶が湧き上がってきた。わざわざ電車で数駅先の用品店まで行く必要はなかったのだ。規模は大きくはなかったものの、今の自分のレベルには十分すぎるほどの品揃えの用品店が確かにあった。

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セットを買った(まち針は最初にユザワヤで買ったもの。)。これだけの装備があれば十分そうだ。1,650円。

前日に引き続き、ポケット、後ろヨーク(前見頃、後身頃及び台衿を繋ぐ肩の部分のパーツ)、袖、その他細かなパーツを切り出す。

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これで必要なパーツの裁断は終了。作業時間およそ4時間。この日で夏季休暇は終了。材料を揃えただけで終わってしまった。次回からはミシンの作業(持っていない)。

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〜〜〜ミシンの調達〜〜〜

今後どれくらいの頻度で使用するか分からず、数年後に確実に発生する引越しの際の荷物になることが目に見えていたので、ミシンは購入ではなくレンタルすることにした。数駅先の用品店でもレンタルサービスをしていたようだったが、その店のWebページを見ても詳細がわからなかったので、他の複数のオンラインのレンタルサービスを比較した。

コロナ禍でマスクを自作するために需要が高まっているのか、初心屋用として評価が高いレンタルサービスでは売り切れ状態が多かった。結局、ユザワヤに行き着く。

初心者にオススメのミシンが手配できそうだったので注文。「ミシン糸を一緒に注文するプラン」と「ミシンのみのプラン」があったのだけれど、前者では1ヶ月ほど待たなければならない状況だった。どういうシステムなのだろう。それぞれのプランにミシンの割り当てがあるのだろうか。1ヶ月も待っていられないので、ミシンのみのプランにした。

期間について2週間か1ヶ月かで迷ったが、そもそもミシンを自分がどれだけ使いこなせるかが不透明で、作業途中で返却し、再度借りることになればかえって高くつくので、1ヶ月のプランを選択した。1ヶ月あれば9月末の連休も含まれるので、作業スケジュールがおした場合、この期間に集中してやろうと思った。レンタル代9,000円。

注文した水曜深夜の時点では何日に届くのかわからなかったが、翌日の午前中にはそのまた翌日に届くとのメールがあり、金曜夜には届いた。ミシン糸を手に入れなければ作業できない。

◯作業6日目【これまでの累計作業時間 18.5時間】

休日で作業時間を十分に確保できたはずであるのにも関わらず、午前中はダラダラ、午後は健やかに長時間のお昼寝をしてしまい、気づけば夕方になっていた。まずはミシン糸を買いに行かなければならない。

近所の用品店で白と青のミシン糸を購入。計1,232円。ボタンホールの縁取りだけは青にしたかったんだ。

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ミシンのセット。付属の説明書を片手に、久しぶりに名前を聞いた「ボビン」に下糸を巻き、上糸・下糸を迷路のような経路でセットした。それでもわずかに記憶にある準備作業よりは煩わしくなかった。

まずは布の切れ端で義務教育以来のミシンをテスト。

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案外悪くない感じ。

第1工程であるポケット。まずはパーツの加工から。上部の五角形の部分を縫い付け、周囲の縫い代部分を内側に折り込んでいく。折り目はアイロンでしっかりつける。

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義務教育以来にしては割と上手くできていると思う。

これを左前見頃の胸部分に付けていく。

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ちょっとだけズレて悔しいのだが、下の左前見頃の柄に合うようにポケットのパーツを切り出していたのだった(作業5日目)。鏡で透けさせて柄の位置を確認したり、切った後に折ってあててみたり。

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ただどうしても折ったり縫ったりすると歪みが出てしまうので、まぁこれで十分合格点ということにする。合格点は自分で決めるものだ。

個人的にはポケットのこの角の処理がグッときた。綺麗。

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作業時間は1時間ほど。せっかくの休みだったのに。

◯作業7日目【これまでの累計作業時間 19.5時間】

第2工程、前面を縫う。

左前見頃には、後にボタンホールを開ける部分に接着芯で補強した前立てを巻きつけるように縫い付ける。

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左右で縫い目の幅が違うが、「アシンメトリー」と言えば多分お洒落だ。たぶん。

ボタンを付ける側の右前見頃はそんなに補強しなくてもよいのか、補強していない生地を3枚分折り重ねるだけ。

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第3工程、後ろ身頃を作り、肩を縫い合わせる。

謎の「後ろヨーク」なる4枚のパーツ。

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てっきりこの配置で首回りをぐるっと囲むのかと思ったら、2枚ずつ重ねて両肩の部分になるようで。確かに肩の部分は、シャツの内側も表側の生地が見えるようになってるよね。着ていれば見えないはずなのに、なんでなんだろ。

真ん中を縫い合わせたものを、2セット作る。

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後ろ身頃の真ん中の部分を印にあわせて折り込み、仮止め。シャツの後ろのシュッとなっているところですね。アイロンかけるときにどう処理して良いかよく分かんないとこ。

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この後ろ身頃を、先に作った2セットのヨークで挟んで縫い合わせる。センターに合わせると、

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めっちゃ(左肩)、

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ズレてる…(右肩)。

力技で縫い合わせる。

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めっちゃズレてる…(中央)。

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進める。

ヨークに左前見頃、右前見頃を縫い合わせる。

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前面と背面が接続し、羽織れる形になる(ボタンの箇所をまち針で固定)。形になるのは良い。しかし実際に羽織るのは、完成まで我慢することにする。

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この日の作業は終了。作業時間3時間。

◯作業8日目【これまでの累計作業時間 22.5時間】

この日は月曜。ミシンをレンタルしたときには平日は作業できないだろうなと思っていたけれど、いざシャツの幼体に接してしまうと、日中もその成長が気になって仕方がない。いつもは読書に充てている入浴から就寝までの時間で作業することにした。

第4工程、袖に剣ボロと下ボロをつける。

剣ボロはこれ。アシンメトリーなタイプの教会みたいだ。ストラスブールの大聖堂を思い出す。

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これはどの部分になるんだろうなーと本を確認すると、袖先のボタンホールが開けるところだったのだけれど、生地に印がついていない。そもそも写しとったハトロン紙にも書いていない。元の型紙を見ると、写し忘れたボタンホールの印。

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しまっていた転写に使う道具を持ち出して、急いでボタンホールを追記。気づいてよかった。なお、この辺りからしばらく、少し画像がファンタジックに明るくなるエフェクトがかかる。

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下ボロはこれ(この写真は別の日に撮った写真の抜粋なのでファンタジック・エフェクトはかかっていない)。長方形だ。こちらにはボタンの印がある。

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袖のパーツの先に切り込みを入れ、片側に折りたたんだ下ボロを縫い付ける。

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剣ボロも折りたたみ、切り込みの反対側に縫い付け。

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裏側に謎のピロピロがある。

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ピロピロ。

本を読み返すと、「1折る」を見逃していたことに気づく。

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見なかったことにする。「つねに近道を行け。(略)なぜならばこのような方針は、〔労苦や争いや、ひかえ目にしておくとか虚飾を避けるとかいうすべての心づかいから〕君を解放するのである。」とマルクス・アウレリウス・アントニヌスも言っている。哲人皇帝が言っているのだから間違いない。I Shall Be Released !!

反対側の袖も作る。今度は「1折る」を見逃さない。同じ過ちは繰り返さない。

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比較。まぁ、似たようなもんだ。

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というわけで、両袖完成。表から見たらおんなじ。

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この段階で袖のボタンホールをあける。ボタンホールは青にしたかったので、青い糸をボビンに巻いて下糸を作り、この日の作業は終了。作業時間2時間。

◯作業9日目【これまでの累計作業時間 24.5時間】

これまで前面、そして袖口を作りながら、「この白ベースの生地のシャツに白のボタンは埋没してしまい、全体として印象がぼやけてしまうのではないか」という思いがどんどん強まったので、たまらず黒のボタンを買いに行く。計396円。

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ボタンホールには専用のジョイントを使う。

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ボタンホールをあけたい位置の端にセットして、スイッチを押せば自動で縫い上げてくれる。動画を貼り付けようと思ったけれど、できなかった。

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片側にストッパーとしてまち針を刺し、反対側にリッパーを突き刺して裂く。

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両袖のボタンホール、完成。やっぱり黒にして良かった。ボタンホールと反対側にボタンを縫い付けるのはまだ先の工程。

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本当は第3工程に含まれていたけれど忘れていた後ろ身頃、左右前見頃のスソ処理。1cm幅の曲線の縫い代を0.5cm、0.5cmで内側に2回折り込んで、内側から0.2cmのラインで縫うとのこと。は?無理では?

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まち針を小刻みに刺していく。曲線のグラフに接線を引いているようだった。座標によって変わりゆく傾き。微分するんだっけか。

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ミシンのスピードを一番遅くして、折りたたんだ布を押さえつけながらチマチマ縫い上げる。上手くいかなったらパンツにインしちゃおう。普段、そういう着方しないけど。

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曲線部分がエグいけど、これもまたご愛敬、ということで。

集中力をかなり使ったのでこの日の作業はこれくらいにして、明日の衿の作業の予習をしようと本を確認すると、衿のパーツは接着芯で強化したもの(裏衿)と、強化していない生地1枚のもの(表衿)の2つのパーツが必要であることに気づき、急遽、余っていた布から切り出す。

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上の方が小さく見えるのは目の錯覚。多分。

作業時間は2時間。

◯作業10日目【これまでの累計作業時間 26.5時間】

第5工程、衿。

「昨日は作業を始める前にパーツが足りないことに気付いて良かったー!」と思ってこの日の作業内容をざっと確認したところ、もう一つ必要なパーツである台衿も2枚必要だということに気づいたので急ぎ作る。何故、前日に気づかなかったのか。こちらはどちらも接着芯で補強された生地から切り出す必要がある。

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表襟と裏襟を0.2cmずらして重ねて縫い合わせる。ん?2つの合同な図形を底辺を重ねたまま、三方から0.2ずつずらして重ねる?0.2cmたちはどこへ行ったんだ???

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ここで自分が闘っていたのは2次元ではなく、3次元であったことを思い出す。0.2cmたちは寄り集まってz軸方向へ逃げていった。

しつけを掛けてから縫い合わせる。

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裏返しにして、さらに周囲を縫う。この衿先、先端の丸っこさ、先端へ向かうカーブ、ちょうど花柄が来ているという位置関係等々、総合的に絶妙に可愛い。

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0.2cmたちの総合力でかなりz軸方向に押し上げていて不安になるが、以前買ったオーダーメイドのシャツもこの襟の部分がたゆたゆになっていたので、まぁそういうものなんだろうと思う。

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この衿を2枚の台衿で挟んで縫い合わせる。

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縫い合わせた後、台襟を裏返すとこんな感じ。

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これを丸めると…

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衿!衿だ!エリ!

この辺りから、布きれ達は「恍惚」の対象に変わっていた。脳内は、ショーウィンドウに展示されたシャツやジャケットをうっとりと眺め続けたロンドンの高級紳士服街Savile Row(「背広」の語源という説もあり)にトリップしていた。kingsmanの一員になったような気がしてきた。kingsmanは紳士服店を拠点にしているが本業はスパイであり、実際どれだけ彼らが洋服を作っているかはよくわからない。それでも私にとって仕立て屋=kingsmanだ。スパイは命を掛けたmissionを負っている。自分はこの仕事を完遂しなければならない、との覚悟を強くした。

作業時間2時間。

◯作業11日目【これまでの累計作業時間 28.5時間】

朝、前日の夜に作った衿をまた丸めてうっとりし、昼、丸めた衿の写真を見てまたうっとりした。すっかり衿に夢中だ。愛しの衿。

第3工程までで作っていた本体部分に、第5工程で作った衿を縫い合わせる。

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表台衿(裏)とあるけど、裏台襟と表台襟はどちらも1枚の生地で作った同じ形のパーツなので、パッと見で違いがわからない。表衿は接着芯が付いた生地で、裏衿はついていないので見分けることができる。表台衿には裏衿がついている方で、裏衿(表)と表衿(表)が繋がっている。だから裏台衿(裏)の裏にある裏衿(表)に裏で接しているのが表衿(表)で、その裏にある裏衿(表)が後ろ身頃(表)に接するから…と考えているうちに、「裏」と「表」がゲシュタルト崩壊を起こす。

裏台衿を本体部分に縫い付ける。

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衿を立てて、表台衿も縫い付ける。

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衿が着いて、いよいよシャツっぽくなってきた。

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衿。My Love, So Sweet.

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作業は少なそうに見えるが、およそ2時間。いろんな歪みを整え、ギリギリのラインを綺麗に縫うのに時間を要した。

世のご婦人たちはなぜパッチワークといった洋裁に向かうだろうと常々思っていたけれど、なんとなくわかって来た気がした。自らの手によって一歩ずつ着実に「完成」へ向かっていく作業は、単調な生活にリズムをもたらす。在宅のご婦人であればなお一層だろう。美を作り上げていく行為は尊いものだ。

◯作業12日目【これまでの累計作業時間 30.5時間】

日中も家で待つシャツのことを考えている。他人のシャツを眺め、あぁ、「あの子(シャツ)はうちのと肩の構造が違うな」とか考える。あれ、背中のあそこ…

帰宅して壁に掛けたシャツを眺めていているうちに、ある部分が気になってきた。いや、ずっと気になってたんだ。

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この幅の差、ダセェな。

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前立てを付けたときはそんなに気にしなかったけれど、この部分はボタンホールがあけられて、最も前面に出る部分であるということがシャツの形になったことで明確になった。めぐせ。こぃだばあずましくねじゃ。

というわけで、右側に糸を右寄りに縫い直すことにした。

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元々の縫い跡が気になるけど、時間が経てば目立たなくなるだろう。すっきり!

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さて、第6工程。本体部分に袖をつけていく。

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本ではサラッと書いているけれど、平面図で想像してみて欲しい。

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左前見頃と後ろヨークは「青のア」で、後ろヨークと後ろ身頃は「青のイ」で繋がっている。つまり袖に接する部分は「赤のA」+「赤のB」+「赤のC」の部分になる。一方、袖側の接する部分は「赤のD」。「A+B+C=D」の等式は成り立つだろうか。合う気が微塵もしない。

でも我々が闘っているのは2次元ではない。3次元だ。3次元だとこういうイメージ。

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これでもイマイチ袖の接着部分が描く曲線との一体性を感じられないが、とにかく無理やりにでも合わせにいく。試行錯誤。

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本ではしつけの記載はなかったけれど、あまりに力技で合わせに行ったためにまち針だけでは不安なので、しつけをしてから縫い合わせる。

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よく見ていただけるとわかると思うのだけれど、下(袖)の方が上(本体)よりも1cmほどはみ出ている。次の段階でこの余りの部分を本体側に折り込み、折り込んだ部分を本体側に縫い付けることで、袖側と本体側の両方の布の端を内側に織り込むことができる(下図参照)。本当によくできてるなぁ〜と感心した。計算され尽くされている。こういった構造は各所で見られる。

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例の如く曲線を内側に縫い付ける作業には苦労した。まぁ、内側だし、あまり完成度にこだわらず。

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外側から見るとこんな感じ。

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糸を抜いた跡があるのは、最初にビビって袖側の縫い目に近いラインを縫ったところ、上図のように内側に折り込むべき袖の生地を端が上手く折り込めておらず、やり直したため。内側でもこだわるところはこだわる。

肩の部分で本体と袖がくっついたので、腹の側面、そして脇を通過して袖の下の部分を縫い合わせ、筒状にしていく。

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始めはこの日のうちに両袖できるかと思ったけれど、「A+B+C=D」を解くのが難しすぎたため、この日は左袖のみで終了。

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シャツだ!

後ろ。

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あー、やっぱり…

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そう、日中に他人のシャツの背中を見て気付いてしまったのだ。

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織り込む位置を間違えて、太くなっていること。確かになんか「あれ、太くね?」とは思ってたんだ…。

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これが正解。

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まぁ、何が正解かなんてわかんないよね。対手とせず。

「ゲゲゲの女房」の向井理さんを思い出すなぁ〜、と思っていたのだが、今、改めて見たら逆の手だった。水木しげるさんは右手で漫画を書いてたんだね。

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片方ではあるけれど腕がつき、まるで人間を作っているかのような気分になってきた。脳内では「I've been making a man」の歌詞に導かれ、「Sweet Transvestite」が流れ続ける。このシャツは金髪でもないし、日焼けもしていないけれど。フランクン・フルター博士になった気分だ!

作業時間3.5時間。結局、平日の月曜から金曜まで、毎日作業してしまった。

シュゥィィィーーーーーーーーーンッ!!(エレベーターが上がっていく音)

◯作業13日目【これまでの累計作業時間 34時間】

もう片方の腕をつける。一度やっているので前日に比べればスムーズにできた。

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縫っているときの写真を撮れるほどの余裕。それでも2時間くらいかかった。

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両腕がついた!遠目で見たらほぼ完成でテンション上がる。

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第7工程、ガゼット。…ガゼット?

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ガゼット。

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ここに付ける。前見頃と後ろ身頃の間。脇腹の下。補強しないと裂けちゃうからね。

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集中力が切れてきて、反対側が雑になっちゃったのは秘密だ。

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日光東照宮の「逆さ柱」的なね。完成させちゃったらそこから崩れていくから。

第7工程、カフス。袖口ですね。

衿と同じように接着芯で強化した生地(表カフス)と、強化していない生地1枚のもの(裏カフス)が左右2セット。

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縫い合わせて裏返す。

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角のカーブがそそる。

袖の先につけていく。

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反対側も。直線であれば、ギリギリのラインを縫うのもかなり慣れてきた。

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ここで白い糸から青い糸への交代式。実は白い糸の出番はこれで最後。下糸もすっかり痩せ細ってしまった。お疲れ様。

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最終工程、カフス、前面そして衿先にボタンホールをあけるとともに、ボタンを付けていく。

カフスにはボタンホールをそれぞれ2箇所。

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前面には7箇所。いろいろあって型紙からずれているので、穴の位置を確認しながらの作業。

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衿先はそれぞれ1箇所。

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それぞれ補強したところに、例のリッパーで次々と穴をあけていく。計13箇所。

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衿のボタンはやや厚みがあり、ちょっとミッチミチだった。

ボタン付けは単純だけれど集中力を要する細かな作業の反復なので、翌日に繰り越し。

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カフスも付いて、なんだか嬉しそう!袖が外側に撥ねていて、ルンルン感を醸し出している。作業時間は6.5時間(!)。すっかり虜。

◯作業14日目【これまでの累計作業時間 40.5時間】

ボタンをひたすらに付けていく。ボタンは2種類。衿元はブラウンの少し小さいボタン、その他は黒くて平たいボタン。

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袖先は3個。

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試しに最初に買った白いボタンを当ててみる。

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白も白で良いけど、黒の方がやっぱり締まって良い感じ。

両方つける。

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ちょっと縒れている気もするけど味だ、味。

前面。前日にあけた穴との位置関係を確認しながら縫い付けていく。どこかで掛け違えてきて、気が付けば一つ余ったボタンが出ないように。

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同じようにして誰かが持て余したボタンホールに出会う事で、意味が出来たらならいいね。

バシバシ縫い付けていく。

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一番上の襟元のボタン。

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ん?なんかズレてる。

でももうボタンホールは動かせないので、型紙通りの位置にボタンをつける。最悪、ボタンは付け直せるし。

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うーん、歪み。

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まぁ、きっと鎖骨あたりがこう、なんかうまくこの部分にフィットするんだろう。多分。

最後の衿のボタン。ここ。

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ここで使うのはこちら。

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この小さな花のかたちのフェルトを使う。

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このボタンは一枚の生地の部分に縫い付けることになるので、フェルトで補強しなければいけないとのこと。普通は小さく丸く切ったフェルト生地を使うようなのだが、うまく切れる自信がなかった中で、用品店でこのフェルトを見て「使ってみよう!」と思いついた。

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このボタンの裏に

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こんな感じ。糸がおしべ・めしべみたいで良い。思っていたよりずっと良い。

この日の作業時間は2.5時間。

と!

いうわけで!

完成!

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わーーーーーー!!🎊🎉🎊🎉🎊🎉🎊🎉🎊🎉🎊🎉

いやぁ〜、シャツって自分で作れるものなんですね。100%の出来ではないけれど、我ながらよくここまで作り上げたもんだなと思います。思いの外ミシンが難なく使えたことにびっくり。義務教育に感謝!少し針でチクッとしたくらいのことはあったものの怪我もなく、またギリギリまで指で布を押さえたり、アクロバティックな格好で使ったりしながらもアイロンで火傷をすることもなく完成させることができました。

実際に着てみると、語彙が極度に低下して「わー!シャツだ!」という感じで、ずっと「シャツだ!」と言っていました。やっぱり袖は少し短かったのですが、「肩幅はもう少しあった方が良いな」、「ウェストはもう少し絞っても良さそう」などと、想いを巡らすのもまた楽しかったです。

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一通り写真を撮った後、目印を消すために洗濯をしました。バラバラになっていたらどうしようと思ったけれど、しっかり元の形を保ったまま帰ってきてくれました。縫い直すために抜糸した跡も薄くなっていました。

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今は部屋の壁に掛けて、床の間の掛け軸のように味わっています。

◯まとめ

以下、作業時間や費用など。

作業期間:24日(材料を注文してから完成した日まで)
作業日数:14日(実際に作業した日)
作業時間:43時間
費用:計32,461円
   【内訳】
     材料費:8,664円(うち使わなかった布及びボタン:3,138円)
     道具代:14,797円
     ミシンレンタル代:9,000円
夏の思い出:priceless

ちょっと良い1泊2日の旅行ができるくらいの費用はかかってしまったけれど、これで私は「シャツも作れない30歳」から「シャツが作れる30(+α)歳」になることができたのです。またすぐ作るのかと言われると、「ちょっと今すぐというのはご勘弁を…」と思いつつ、私はもう「いざ思い立てばシャツを作れる男」なのです。今までの私とは違う。I’m just a new man !!

新たな知識や技能を身につけることは、新たなものの見方を得ることにも繋がるのだと思います。これまであまり意識しなかった服のパーツや構造の意味に想いを巡らすようになりました。また、服を企画した人、生地を作った人、型紙を作った人、裁断した人、縫い合わせた人、品質検査した人、運んだ人、売った人その他羅列しきれない多くの人たちの仕事によって、この服が今、手元にあるのだということを思うと胸がいっぱいになります。「世界は誰かの仕事でできている。」は本当に素晴らしいコピーですね。全ての仕事に祝杯を!

これからも自分の中から湧き上がった好奇心をバシッと受け止め、自分の能力に昇華し、人生を楽しんでいきたいと思います。











【エピローグ】

プロローグがあるということは、エピローグもある。

ここまで読んで「あれ?あのパーツ、使ってないのでは?」と気付いた方は、日々、相当の注意力を発揮して生活していらっしゃるのだと思います。疲れていませんか。それより僕と踊りませんか。

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謎の小さな長方形。

それは作業7日目。第3工程に進んだ時のこと。

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「後ろ身頃を作り、肩を縫い合わせる 裾の始末をする」???

「ちょっと何言ってるかわかんない」となったのですが、隣のページを見ると全く同じタイトルで、詳しい作業工程が書いていました。

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「あー、なるほど。後ろヨークを縫い合わせていくのねー」と思い、この一連の作業を終えてから「後ろ身頃を作り、肩を縫い合わせる 裾の始末をする」の下にある「ボックスプリーツ」なんちゃらをつけるんだなーと、必死に後ろヨークの作業を進めました。

後ろヨークを介して前後が繋がって羽織れる形となってひと盛り上がりした後、「ボックスプリーツ」なんちゃらのことを思い出し、改めて本を見ました。

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あっ。

先に…付けておかなきゃいけなかったんだね…ボックスプリーツ…。
(※ 写真下部の「P.70の3の②〜⑦」は、隣のページに書いてあった「詳しい作業工程」)

このボックスプリーツに使うパーツが、この小さな長方形だったのでした。

×+×+×+×+×+

【2020/10/11追記】
コメント欄でご指摘いただいたのですが、「ボックスプリーツ」はたたんだ幅が広すぎた部分(作業12日目参照)で、この「小さな長方形」で作るのは「ループ」でした…。改めて本の記述を読むと「ループ(表)」って書いてますね。形も全然「ボックス」じゃないし、めちゃくちゃ「ループ」だし…。完成後もなお、ちゃんと説明文が読めていないことがわかりました。

×+×+×+×+×+

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こうなる予定だったんですね。

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「作業に漏れがないように、はじめに全体の工程を確認する」という大事なことを学びました。「おかしいなと思ったことは、自分を疑ってきちんと確認する」ということも学びました。仕事では意識していても、プライベートではなかなか発現しないものですね。

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ありがとう。そしてさようなら。ボックスプリーツ(にならなかった布)。

×+×+×+×+×+

【2020/10/11追記】
前掲追記のとおり、「ボックスプリーツ(にならなかった布)」ではあることは間違いではないが、「ボックスプリーツ(になる予定もなかった布)」であり、正確には「ループ(にならなかった布)」であって、「ループ(にならなかった布であるのにも関わらず、完成後でもなおその正体がきちんと理解されていなかったために「ボックスプリーツ(にならなかった布)」と称された布)」である。

×+×+×+×+×+

以上、「30歳にもなってシャツも作れないことに気づいたので、作ってみようと思い立った話」でした。「意識の流れ」の手法をうまく取り込んだ文章を書けるようになりたい。

むーん先生の次回作にご期待ください!


おわり