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Vol.1 卒展がオンラインになった、どうする?

月夜と猫が通うカレッジでは、卒業制作展を7月に予定していましたが、covid-19パンデミックの影響で展示はオンラインのみになりました。それまでギャラリー展示を前提にしてテーマや構想を考えていたので、構想を一から練り直さないといけなくなりました。

月夜と猫は、テーマを'Food'に決めていました。以前からFoodは重要なテーマの一つだと思っていましたが、このパンデミックの時期を通して、食べ物の根源的な力や作用について考えたり体験した影響も大きいです。

食べることとアートといえば、フランスのパフォーマンス集団’ilotopie’による2015年静岡市での路上パフォーマンスが強烈に印象に残っています。路上生活者風、シェフ風など様々な衣装のパフォーマーたちが、衣装の下に隠していた食べ物ーーこれが一見、パフォーマーたちの皮下組織や脂肪、内臓に見えるように作られていたのですが、それを鑑賞者たちに「食べてーー!」と分け与える、のがクライマックスでした(当時撮影した写真を探したのですが見当たらず...泣)。食べるという行為に根源的に同居する、「罪」と「犠牲」の観念を非常にわかりやすい形で、しかしユーモラスに表現していたパフォーマンスでした。

「月夜と猫」も、何かの形で食の体験を提供するインタラクティブなパフォーマンスができたらいいなあ、という思いはずっとあって、それを今回の卒展でやろうと思ってアイデアスケッチなどを描きためていたのです。でも、このような社会情勢下ではまず諦めざるを得ません。

考え方を変えて、webサイト上で見せる、いわゆるビジュアル作品を制作することにしました。ちょうど4月、イギリスでは厳密なロックダウンの真っ最中で、stay@homeの日々でした。食材を手に入れるためにスーパーに並ばねばならず、並んで入店しても思うようなものは手に入らず、食生活の維持にエネルギーを使っていた日々です。

私はスーパーで手に入れたコメを一握り、机の上にパラパラとこぼし、夕陽がさす屋根裏のアトリエで米粒の絵を描いてみました。

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米...。コメをテーマに何か作れるかもしれない。

そのとき漠然と、そう思ったのでした。

それから、コメに関する農業や歴史の資料を読んだり、コメについて思いを巡らせる不思議な日々が始まりました。この頃はまだ、自分の作品がどこに向かうのか全くわからず、閉塞的な生活の中で「でも、何かを作らなきゃ...」と焦る日々でした。

一週間くらいして、「米粒の中で眠る子ども」のイメージが降ってきて、版画でこんな作品を作りました。

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自分の中で何が起こっているのかわからず、手が先に動いて何かを作ってしまうことは時々ありますが、この時もそうだたっと思います。

版画のバリエーションを刷りました。

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一旦ここで気が済んでしまいそうになりましたが、「いや、こういうのじゃないな」と思い、違う方向性を考えることにしました。その一方で、版画というメディアが持つ「反復する」という性質の面白さをもっと使ってみたい、という思いも沸いてきました。

というわけで、まだまだここからがスタートです。

続きます。




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