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【服屋の紹介】ONE STEP

今日は服屋の紹介をしようと思う。
店の名前は『ONE STEP』、茨城県日立市平和町1丁目17に店を構えている。

Google Mapsには映らないが、実在している服屋だ。食彩酒屋じゅまるの隣に位置している。日立駅から徒歩9分、正面の道路に駐車スペースが二台分ある。たいがいは埋まっているのでヨーカドーの立体駐車場を使ってもいい。

さて、それじゃいい加減店の中に入ろうか。

初めてこの店に来た時のことをよく覚えている。そのとき俺は茨城大学の工学部日立キャンパスに通っていて、留年して友達もろくにいなくて、適当に漫画を描いたり小説を書いたりしていた。気の合う先輩と映画を見たり、後輩と一緒にリボルテックで遊んだり、ゲームをしていた。今思えば好きなものがたくさんあって、幸せな時代だったが生産性はまるで無かった。
だけど服が好きなのは俺だけのようだった。
俺はユニクロとかライトオンだとか、そういうものに飽きて何か新しいものをこの寂れた地方都市で見出そうとしていた。そこで出会ったのがこの『ONE STEP』だった。
店長である太田淳さんが俺を「いらっしゃい!」と元気よく迎えてくれた。これが俺と太田さんの十年に渡る付き合いの始まりであった。

店に入って最初の感想は男物の服のバリエーションが多いことだ。

そしてかっこいい。水戸の駅ビルとかイオンモールとでよく感じるが、ファッションで男は冷遇されているような印象を受ける。俺がちょっと服を探そうとすると、店の隅に追いやられるような、居心地を悪さを感じるのだ。
その瞬間だけ俺は「ああ、女の子に産まれればよかったな」と思ったりする。だがこのONE STEPで感じたのは「俺が持っているバラバラのジグソーパズルのピースの一つが、ぴったりと嵌まった」ような感じだった。

気に入った服が見つかれば、次に気になるのが値段だ。

「悪いけど、うちの店は1万円台が基本だから」

高い。
きっと誰しもそう思うだろう。俺もそう思った。だがそのとき俺の脳裏に父親の言葉がよぎった。あれは高校に上がる前に電子辞書を買って貰うときだった。俺が安易に安価な電子辞書を買おうとしたとき、父親はこう言った。
「安物買いの銭失いという言葉があるぞ」
高いには高いなりの理由があり、安いには安いなりの理由があるのだ。
この店で取り扱うブランドはメンズなら『G-Star RAW』、『NATIC』の二つだ。レディースは『WORLD』のものを主に扱っている。この記事では主にメンズを取り扱う。着たことがないものはわからない。

G-Star RAW(https://www.g-star.com/ja_jp)

オランダのデニムブランドだ。アイテム数が多く、この店に置いてあるものはその巨大な氷山の一角に過ぎない。世界で初めて立体裁断を取り入れたという。立体裁断と言うのは型紙を使わずに、人体や人台に直接布地を当てて裁断するやり方だ。具体的にどう違うかは是非、この店に来てみて試して欲しい。

NATIC(http://www.natic-marine.com/)

海軍をブランドコンセプトにいた日本のブランドだ。このブランドのポロシャツは俺の長年のお気に入りで、どうしても手放したくないものの一つである。

他にも少し前はPEARLY KINGというイギリスのブランドを扱っていて、俺もシャツを2着ほど買ったが今では扱っていない。わずかな在庫が残るのみである。流通の担当が変わって入らないそうだ。個人的にはまた買いたいブランドである。

「素材感を大切にしている。素材は基本だ」

と、太田さんは言う。
事実、G-Star RAWもNATICも触っていて肌触りがいい。
例えばTシャツ一つとっても着心地が違う。ゴワゴワした感じは一切なく、肌に優しかったりする。逆にジャケットは、そう、荒野に鍛えられた男のワイルドな質感がある。
『ただの布などという布は存在しない』
これは俺が太田さんと出会って得られた真理だ。繊維は縒り合されて糸になり、糸は紡がれて布になる。そこからデザイナーが七転八倒してデザインを考え、裁縫し、そして我々の下へ至る。俺は服に金を払わない。服を作る人の情熱に金を払う。
服と人間との出会いはある種、運命的なものを感じる。本当に来てみたい服は、その人の手に渡るものなのだ。

「服は理屈で買うものじゃない。着てみたいか、着てみたくないかだよ」

今、ONE STEPのような個人営業の服屋は窮地に立たされている。理由は単純に不景気だからだ。特に日立市は人口が年千人単位で減少している。それは顧客の減少を意味している。
それが時代の流れだと言えば、仕方がない―――で、片づけていいのか? というのがこの記事を書いた理由だ。もちろん許可は取ってある。
俺はかなりこの店の世話になっている。単に服を買うだけじゃなく、大学院を卒業してしばらく無職の間、一年半ほど働いてまた一年半ほどまた無職になった間、太田さんはいつも話し相手になってくれた。ろくに服を買わない俺は、だいたい太田さんの出してくれた缶コーヒーを飲んで世間話をして帰るのが常だった。
就職して地元を離れた今も、帰省するときはONE STEPを覗いていく。
現代はネットで大抵のものが帰る時代だ。わざわざ店に行く必要はないと思う人もいるかもしれない。
だがONE STEPの魅力とは、そこではない。服を通して、また別な世界が見えるのだ。
もし記事をみているあなたが日立市に住んでいて、それで特に用事もなかったら、是非、ONE STEPへ寄って太田さんと気軽におしゃべりして、それからちょっと服を見て欲しい。

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