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突然の別れ #2

慕っていた職場の兄さんの退職言い渡しから一週間後の最終日、私は冷静さを装っていたが、心はこの一週間ずっと雨が止まなかった。
(何とか最低限、気持ちにケジメを付けたい。)この一週間、ずっと考えていた。

6月8日の薬剤師は兄さんと後任のk君。兄さんは引継の続きをしながら、私の方からも補足を少しさせてもらった。そして、丁度タイミングよく定期配達の依頼がやってきた。「これはk君にやってもらわないと、今日来てくれて本当に良かった。」
兄さんの言葉に私も頷いていた。

12時半も過ぎ、いつもなら交代で昼を取るだろうと思っていると、兄さんは「sさん(私)、あと10分程で部長が来たら交替する。呼ばれていて、もう戻って来ないかもしれない。」
「えっ・・、今日1日ここではないの?」サァーっと私は血の気がひいた。
「それでは困る。だって渡したいものあるんだよ。皆からも・・・」
私の顔色に悲しみが浮上してしまった。もう鳴きそうで、心が折れていて、今言うしかなかった。

「ゴメン、もう泣きそうなのを必死でこらえてて、このところずっと泣いててさ、40も過ぎてるのに、こんな感情全面的に出てきて、情けなくって・・・」

対して兄さんは、気づいていた様で、「いや、感動したらいくつになっても泣いていいんだよ。」と、言ってくれた。

そして、私は奥の部屋に行く兄さんの腕を掴んで、
「Aさんが好きなの!」と、ワァーっと堰を切った様に大泣きしてしまった。
兄さんはゴメンな。と言いながら優しい表情で頭を撫でてくれていた。


私が昼休憩から戻ると、部長が来ていた。
とりあえず穏やかに会話はしていた。
暫くして兄さんが戻り、奥で薬剤師3人が話込んだ。
患者さんが居なかったので、私も途中から話を聞かせてもらった。

「思ったよりも話早く終わったよ。このまま帰ってとは言われなかったから、最後まで居るよ。」と、部長(年下)には「有り難う。世話になった」と言い、部長は店舗を出た。

夜になって営業時間が終わり、皆で片付けを終わらせた。先ず皆さんからの物ですと、品物を渡し、私個人からは、「ソープフラワー。どうしても花を贈りたくて・・・それと言えなかった時のために書いた保険。」連日夜、感情が収まらずに書いた手紙とともに。

その後、兄さんと2人きりになり、笑いながら入社した頃のことや、社内事情など、色々話をしていた。その眼差しはとても柔らかかった。
「きっと10年分泣いたよ。」私がそう言うと、「次に泣くのは息子さんが一人暮らしする時かな?」

「最後にひとつお願いが・・」と、私が兄さんの方に向き直って近距離になり、手を広げると察してくれた。逞しい兄さんの腕がギュッと抱きしめてくれて、心が癒されていくのが感じた。
「ちょっと汗かいてるけどゴメンな。」
「ううん、全然気にならない。平気だよ。」
とても満ち足りていた。

「これってLove?」と腕をほどき顔を合わせて質問してきた。でも私は、寂しさの混じった顔をして、「それではマズいでしょ。」と答えていた。本当は限りなくLoveに近かったと言いたかったのだが・・・・・。

「後のことは頼む。今度、お菓子でも持ってまた会いに来るよ。」と言って荷物を持って出る兄さんに、「有り難うございました。」と先に見送り、最後に職場を出た。












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