アイスキャンディ
見慣れたはずの道の先がぼやけて何も見えない。
まるで異世界へ繋がる入り口に向かっているようだ。
格好良く言ってみればちょっとはマシな気分になるかと思ったけど、見ているだけでうんざりする。
そんな陽炎がユラユラするほどの暑苦しい昼下がり。
真っ黒な服は太陽を一身に集めるから余計に暑く感じる。
灼熱地獄の坂を自転車で思いっきり下る。
ユラユラした中に古びた駄菓子屋を見つけた。
もう、無理だ。
どこでも良いから少し休みたいという誘惑に勝てずに自転車を乗り捨てて、その店の扉を開けた。
扇風機だけが細々と回っている店内は外と変わらないくらいのムッとした熱気が漂っていた。でも、直接太陽が照りつけてくる外よりは幾分マシだ。
小さいころ好きだった懐かしい菓子がたくさん目の前に並んでいる。
私の家の近くにも駄菓子屋があって、20円しかポケットに入ってなかった私はいつも真剣に2つお菓子を選んでいた。
あぁ、大好きだったチューイングガムも今ならどれだけでも手に入るのか。
そんなノスタルジックな思い出に浸りながら店内を見渡すと、いや、入ってすぐに目に入っていた「アイスキャンディ」を手に取って、暑そうにしきりに汗を拭くおばあちゃんに渡す。
「はい、ガム2つとアイスキャンディーで70円ね。」
店先のたった一つの青いベンチに座ってアイスキャンディを頬張る。
口に広がる冷たさと甘さに痺れるけど、じりじり照りつける太陽もアイスキャンディに手を伸ばすから、アイスキャンディはポトポト落ちてうっかり私のスカートに染みを作る。
もう、すぐに溶けるんだから。
優しい色のアイスキャンディは私の口内に幸せな甘さを残しながら、すぐに溶けてなくなってしまう。
アスファルトに落ちたアイスの染みはジリジリした太陽の前では何事も無かったかのようにもう跡形も無くなっている。
貴方との恋はアイスキャンディのようだった。
燃え上がるほどの太陽の中で刹那的な甘さを与えてくれた貴方はすぐに溶けて私の前からいなくなってしまった。
ぼんやりして何も見えない道の先にも貴方がいないことだけははっきり分かる。
貴方を失ってからまだ2ヶ月もたってない。
アイスキャンディはとうに無くなってしまったはずなのにポトポトと私のスカートに染みが出来る。
強がりたい私はつぶやく。
道の先がぼやけて見えるのは陽炎のせいだ。
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