見出し画像

失うものさえ失っても

ある友人がわたしに言いました。
誰かが自分の元から去って行ってしまうことがいちばん怖いんだ、と。

独りは怖い。だから誰かに近くに来てほしいはずなのに、今度はその近くにいる人が離れることが怖くなる。
それなのに、つい最近まで肩が触れあうような距離でいた人が突然、指先すら、いや声すら届かない場所に行ってしまう。

小さい頃、かごめかごめで遊んだことがあります。
鬼になった人は真ん中で目を塞いでしゃがみこむ。それを周りの人たちは手を繋いで囲みながら、かごめかごめと歌うのです。
でも鬼になって目を塞いでいると、たまにふと、その歌声が遠くに聞こえるときがある。
わたしは輪の中心にいたはずなのに、もしかしたらいつのまにか一人ぼっちで輪から外れて取り残されてしまうんじゃないかと妄想をして不安になったことがあります。


『人は、失うものがないときと、守るべきものがあるとき、どちらが強いのか』というきっと優秀な学者を何人集めても決して答えが出ない問いがあります。
そんな問題が入試に出てきたらわたしはもう試験会場で真っ青になってしまいそう。
どれだけ前向きになれば、どれだけ強くなれば
あとどれだけ生きればその解答を書くことが出来るんだろう。
仕方がないから、「守ることを諦めた者がいちばん強いと思う。」
と殴り書きで書いてしまいそうです。

来るもの拒まず去る者追わず
なんて言えたらかっこいい。

でも本当はそんなこと、とても難しくて。
去って行く人の背中をいつまでも眺めてしまう。その手を掴んで引き止めてしまいたくなる。
そして、無理矢理その人の嫌いなところを思い浮かべてなるべく傷が浅くすむように、いりもしない理由をつくってみたり。
本当は本当は誰もいなくなんかならないでほしい。
一度受け入れた人たちを誰も離したくなんかない。

それでも、その手を強く握っていたかったはずの人が去って行くなら、せめて最後にさようならと言ってほしい。
どれだけ強い力で握っても、どれだけ追いかけても、かなわない
これが運命だったと思わせてほしい。

結局わたしは友人に、その怖さを取り除けるような言葉を返すことなんかできません。
だって、わたしも怖いから。

だから、代わりにもしもわたしがあなたから去ってしまう運命だとしたら、一度だけそれに抗ってみるから、あなたも一度だけ引き止めてほしい。そんな約束を返します。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?