見出し画像

26「詩」鏡

猫を飼っている少女がいる

猫は少女にしか見えないので
少女の猫を見た人は誰もいない

少女の部屋には縦長の大きな鏡と
誰が使ったのかよく分からない古い楽器がある

猫はお腹が空くと楽器をならしてご飯をくださいと少女に伝える

少女は自分の絵を鏡の中に描く
少女の横には猫が必ず描かれていて
猫はその古い楽器を持っているので
絵を見た人だけやっと猫がいることに気付くことができる

古い楽器は猫の爪で音が出る
少しでも強く弾くと弦は切れてしまう
お腹が空いたらいつでも伝えられるように
猫は弾き方をいつも考えている

鏡に描かれた絵は周りの人に
猫がいることを伝えてくれるけれど
猫が注意深く出した楽器の音まで伝えられない

いつか もし
猫の弾く楽器の音に気付ける恋人ができたら
部屋から出よう
両腕に溢れるミモザの花を抱えてその人の元に走っていこう
その人を連れて
春風で編んだ白いベールを被ったまま教会に行く

少女は小さなミモザの苗を大切に育てている
猫は少女の横で
少しでも綺麗な音で楽器を鳴らせるように
爪の具合はどうかごろごろと喉をならしながら考えている


※3月8日ミモザの日(国際女性デー)によせて。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?