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【『デンタルクエスト』原作者セキアトム インタビュー】~原作者セキアトム先生と探る医療情報へのアクセスの仕方~ 前編

「日本の歯科医療を変えたい!」と言い切る歯科衛生士を主人公とした漫画『デンタルクエスト』は、子どものむし歯で自分を責める母親や、口腔内がんを見落とされた患者など、多種多様な背景を持つ患者とともに織りなす歯科医療のドラマを描いています。この種のコミックは非常に少なく、歯科業界からも大きな注目を集めています。

 私たち歯科医療従事者にとっては日常的な出来事が、また一般の人々にとっても身近な出来事がドラマチックに描かれ、物語が進行するにつれ、私自身もその深い感動に何度も涙がこぼれました。

 そのストーリーが面白いというだけでなく、今回我々が「トンデモ歯゛スターズ」として取り上げる理由は、ストーリー中の医療情報の正確性です。衝撃を受けたのは、原作者の方が歯科医療関係者だと思い込んでいたのですが、実はそうではないと知った時でした。非専門家がどのように医療情報にアクセスしたのか、それは一般の人が医療情報にアクセスする際のヒントになるかもしれないと考え、インタビューの内容を皆様にお伝えしたいと思います。

ーー まず初めに『デンタルクエスト』を書こうと思ったきっかけを教えて下さい。

セキアトム
歯科医師会の広報の先生にお声掛け頂いたのが最初のきっかけです。そこから取材を始めて…という感じです。

ーー 取材を始めて、「これだ、書こう!」と思われた瞬間はどのような時でしたか?


セキアトム
医療漫画がドラマチックなのは「患者が危篤状態になる」など緊迫した状況が起こりやすいからです。でも歯科医療漫画となると、多くの疾患は日々の生活に近いものが多い。一般的な医療漫画のドラマチックさからは遠いところでどう漫画にするのかというのを結構悩みましたね。2年くらい温めてたと思います。
でも取材をしていく中で、ある歯科衛生士さんが話してくれたエピソードに感銘を受けて。歯科医療が患者の人生を変えるということを具体的にイメージできるようになりました。日々の生活に近い医療だからこそ面白いんだと気づいて「あ、いけるかも。これ漫画に出来るかも」ってやっと動き始めた感じです。

ーー そうすると、『デンタルクエスト』を創作する中で一番難しかった点は、ストーリーの作り方だったのでしょうか?


セキアトム
そうですね。漫画にするという観点では、読者の方に当然面白いと思ってもらわなきゃいけないので。ストーリーに力がないと読んでもらえないですからね。あとはもちろん医療の知識です。私は歯科医療に関して全くの素人でしたので…。医療って人の命に関わる分野です。漫画と言っても下手なことは絶対描けない。取材をしていく中で、ひとつひとつ自分の中に知識を積み重ねていく感じでした。そこも難しい所でしたし、時間がかかりました。

ーー  その医療知識の正確性について、特に私が驚き、尊敬する点ですが、どのように医療情報を収集したのでしょうか?


セキアトム
取材ですね。専門の先生に話を聞いて…というのが一番大きかったです。あとは歯科医療の専門雑誌を読んだり、図書館やネットも活用しました。

ーー その際、様々な専門家から意見を聞いたと思いますが、その中でも意見が一致しない場合や、不正確な情報に出会うこともあったのではないでしょうか。そのような情報をどのように選択していたのでしょうか?


セキアトム
そこは結構神経を使いましたね。う〜ん。
変な言い方になっちゃいますけど、全部は信用しないと言うか…専門にやっている方の話でも、その人の視点だったりするわけで。というのも、先生同士でも違う意見を持っていらっしゃる事って結構ありますよね。話を聞いて面白いなと思っても、コンセンサスが取れていない治療法だったりする。それはやはり載せちゃダメだと思うわけです。
センセーショナルなものを取り上げたほうが漫画としては面白いかもしれない。でも今分かっている事・正しいとされている事を第一に、情報を吟味するという視点はすごく大事にしてました。実は校了直前に修正するみたいなこともありました。笑

ーー 中編にへ続きます。

まとめ

 前編では、専門家から情報を得ることはもちろん大切ですが、それを鵜呑みにするのではなく、他の専門家の意見や文献と照らし合わせて情報の信頼性を確認するという視点が重要であるという話題が出ました。これらの行為は、「批判的吟味」と「クロスチェック」と呼ばれます。
 一般の方は取材するわけではないので、一般の方からすると、テレビや雑紙、SNSでの専門家の意見と置き換えて良いでしょう。そして専門家の意見よりもWHO、厚生労働省、日本歯科医師会、などの公的な機関の情報をクロスチェックするというのも大事なポイントといえます。また、情報発信する際には、センセーショナルな内容は興味を引きますが、間違った情報を伝える危険性もあることを改めて認識しました。


中編では、医療情報の収集方法について更に深く掘り下げます。さらに、漫画についての話題歯科業界に対する印象などもお伺いしました。
お楽しみに!


トンデモ歯゛スターズの活動は、基本的に全てボランティアで行っております。本活動を持続可能なシステムにしていきたいと考えておりますので、是非ご支援いただけると幸いです。