【日本全国写真紀行】68 静岡県榛原郡川根本町
静岡県榛原郡川根本町
空に向かって弧を描くように広がる「天空の茶畑」
川根本町は大井川の上流にある、全域の90%以上が森林という町である。宇治茶、狭山茶と並んで日本三大銘茶の一つとして知られる「川根茶」のふるさと。町じゅうの至る所に茶園が広がっていて、農業生産額のほとんどを生茶と紅茶が占めている。
川根茶は日本茶業界で初の天皇杯を受賞したのをはじめ、品評会などで幾多の栄誉に輝いてきた。全国の日本茶販売店では常に別格視され、高級茶として扱われている。深い山々に囲まれた川根本町の茶畑は日照時間が短いためお茶の渋みが抑えられ、大井川から立ち上る川霧が茶の樹を優しく覆って新芽を包み守り、良質の茶を育むといわれている。銘茶を育てるために最適な自然環境が揃っているのだ。
製茶された川根茶の茶葉は針のように細くて輝いている。これを急須で淹れると、金色がかった透明のお茶になる。香りは爽やかでやや渋みがあり、まろやかな甘みと濃い旨みが口いっぱいに広がる。お茶の味には門外漢の筆者でも、なるほどこのお茶確かに美味しい、と納得する深い味わいだ。
聞くところによると、川根の里の小中学校には最近まで「お茶休み」という年中行事があったという。新茶の茶摘み期に、農家だけでなく地域の人々が、老いも若きも子供までも総出で応援する。まさに地域ぐるみで茶づくりに取り組んできた町なのだ。
さて、見渡せば至る所に整然とした茶畑が見られる川根本町だが、もっとも目を奪われる特徴的な風景は「天空の茶畑」と呼ばれる高い尾根に広がる茶畑である。我々が最初に訪れたのは、町の中でもひときわ高い標高六百メートルの場所にある尾呂久保地区。ここの茶園は、急斜面の厳しい立地を生かした茶畑が住居を取り囲むようにぐるりと広がり、まるで空に浮かぶ茶畑のように見える。
次に訪れたのは、大井川の支流・境川の上流域に位置する下長尾・久保尾地区。クネクネと曲がりくねった山道を延々と登っていくと、突然、目の前に素晴らしい景色が開けて驚かされる。天に向かって弧を描くように茶畑が広がり、そこに埋まるように農家の屋根がポツポツと点在する風景は、思わず見惚れてしまうほどに美しい。
川根本町では、茶畑のことをチャバラ(茶原)と呼ぶ。大井川鉄道沿線に連なるチャバラは、深く濃い山々の緑の中でも際立つ綺麗な緑色で、遮るもののない青空の下、太陽の光を満面に浴びてキラキラと光り輝いている。まさに絶景。これを見ていると、改めて、茶畑は日本が世界に誇るべき眺望の一つだと思う。
『ふるさと再発見の旅 東海北陸』産業編集センター/編より抜粋
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