第11橋 萬代橋(新潟県)|吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」
派手さはないけれど
ずっしりと心に響く橋
借りたレンタカーを返そうと、新潟駅へ戻ってきたときのことだ。信濃川に架けられた萬代橋を渡る瞬間、「ああ、帰ってきたなあ」と妙にしみじみとした気分になった。
橋を渡ってそのまま真っ直ぐ行けば、やがて新潟駅に突き当たる。いまにして思えば、そのときの旅のフィナーレを飾ってくれたのが萬代橋だった。大げさな言い方だが、それぐらい自分にとっては強い存在感を放つ橋だった。
新潟市内を流れる信濃川は、日本一の長さを誇る大河だ。河口に位置する新潟市にはいくつか橋が架かっているが、最も交通量が多いのが萬代橋だという。まさに交通の大動脈といっていい。
新潟市の歴史をひもとくと、この橋が町の発展に寄与してきたことがよく理解できる。現在の新潟市中央区は、元々は信濃川を挟む両岸が別の町だった。前身となる新潟町は川の北側、日本海に面したエリアで、南側の新潟駅を中心としたいまの繁華街が沼垂町である。両町は1914年に合併したが、萬代橋のお陰で川を渡って人や物が活発に交流するようになったこともまたその契機のひとつとなった。
初代の萬代橋が架けられたのは1886年。現在の橋は、1929年に架け替えられた三代目である。戦時中に物資不足から高欄部など鉄材が取り外されたが、2004年に建設当時と同じ姿に復元された。同年には国の重要文化財に指定されている。国道にかかる橋梁で重要文化財に指定されたのは、東京の日本橋に次いで2番目だという。
車ではなく、徒歩でも渡ってみたことがある。都市部の橋とはいえ、川幅が広いこともあり、橋の上からは空抜けの写真が撮れるほど雄大な風景が拝めた。さすがは天下に名高い信濃川だなぁという感想を抱きながら、ゆっくり橋を往復した。
橋の長さは306.9メートル。きちんと両側に歩道があって、行きと帰りで違う風景が楽しめるのもまた自分的には好評価である。
橋の幅は22メートル。片側2車線、計4車線で歩道付きという結構幅広の橋になっているのには理由がある。実は、当初の予定では橋の上を新潟電鉄が走ることになっていて、その軌道敷を踏まえたうえで設計されているのだ。不況により計画は頓挫し、結果的に幅広の橋になった。
橋の両岸、信濃川沿いには遊歩道が整備されている。ランニングをしている人や、犬の散歩をさせている新潟市民に交じって、のんびり散策しながら橋の外観を撮影していった。
6つのアーチが連続する石造りの橋は、重厚感があって絵になる。アーチの頂点にあたる場所の厚さを極力薄くし、大きさを中心から両岸に向かって小さく造ることで橋全体がなめらかな曲線を描くように工夫されている。
デザイン上の美しさだけでなく、頑丈さにも気を配って設計されている。アーチを支える基礎は、五階建てビル相当の鉄筋コンクリートの箱で、水面下15メートル余りの地盤に接している。1964年の新潟地震では、ほかの橋が損傷が激しかったのに対し、萬代橋だけ被害が軽微で、被災直後でも車両が通行可能だったという。
北岸から望むと、河口方面に一際ノッポなビルが立っているのが見えるが、あれは朱鷺メッセだ。展示場や会議室などが一体化したコンベンション施設で、「ホテル日航新潟」も中にある。橋がよく見えそうなので、泊まってみることにした。
橋のそばにホテルがあるのなら、宿泊するのもまた橋旅を楽しむ極意のひとつである。そういう意味では、ホテル日航新潟は橋好きにもオススメできるホテルといっていい。31階に展望室があって、そこからの景色がとにかく素晴らしいのだ。
地上125メートル。市内でも屈指の高層ビルだけに、日本海に面した町並みがパノラマで望める。もちろん、萬代橋もよく見える。
歴史に触れられ、渡って楽しめ、見て静かに感動できる。誰もが喜びそうな派手な観光名所ではないものの、橋好きならきっと心に響くであろう存在に新潟で出合った。
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