見出し画像

【日本全国写真紀行】41 佐賀県唐津市呼子町

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。


佐賀県唐津市呼子町


イカと朝市でにぎわう風情ある漁師町

 佐賀県北部、玄界灘に突き出した東松浦半島のほぼ突端にあるのが呼子町である。深い入江にある呼子港を抱えており、町はこの港とともに歴史を重ねてきた。
 呼子港は、半島の北側に横たわる加部島かべしまが玄界灘の荒波を防ぐため、古くから天然の良港として知られてきた。江戸時代中頃には、捕鯨の基地としても栄え、鯨で財をなした商家の建物が今も残っている。捕鯨の他にも、アワビ、サザエなどの近海ものもよく獲れ、江戸時代後期には、干しナマコ、アワビ、フカヒレなど唐津藩の特産物の集荷港として大いににぎわった。
 さかのぼって中世には、平家方水軍の主力となった松浦党の根拠地となり、近世には西海航路の寄港地としての役割を果たすなど、呼子は日本の歴史にしっかりとその名を刻んできたのである。
 今では呼子といえばイカだろう。名物料理の「イカの活き造り」を目当てに全国から年間約90万人以上の人がやってくるという。このイカの活き造り、古くからの呼子の名物かと思っていたが、そうでもないらしい。一説によれば今から五十年ほど前、呼子の店を訪れた客の、イカの活き造りを食べてみたいという一言がきっかけになったそうで、その要望に応えて出したのが始まりだといわれている。それまでの呼子の名物料理は「タイの活き造り」で、イカを生きたまま出すという発想はなかったらしい。
 呼子の活き造りの特徴は、その新鮮さ。透き通るような見た目はもちろんのこと、口に入れればコリコリとした食感でほんのりとした甘さが広がる。見てもよし食してもよし。リピーターが多いのもうなずける。
 このイカ以外にも呼子の名物として知られているのが朝市である。毎日朝7時半から昼まで、朝市通りと呼ばれる通りに、50店ほどの露店が並ぶ。とれたての海の幸、山の幸がずらりと並べられ、通りをそぞろ歩きながら、見て、食べて楽しむことができる。威勢のいい売り子の女性の声に引き込まれるように、売っていたサザエを買ってみた。歩きながら食べるサザエの味は、この上なく美味しく、少し離れた店でもまたサザエを買ってしまった。
 朝市を存分に楽しんだら、少し呼子の町を歩いてみるのもいいかもしれない。中世の町割がそのまま残り、江戸時代、呼子が隆盛を極めた時代の建物もほぼそのままに残っている。一歩路地へ入れば、漁師町特有の板張りの家が軒をつらねる。朝市の喧騒はどんどん遠くなり、かわりに路地を吹き抜ける潮風の音が、かすかに聞こえてくる。

※『ふるさと再発見の旅 九州1』産業編集センター/編 より抜粋



他の写真はこちらでご覧いただけます。


佐賀県唐津市呼子町をはじめ、佐賀、福岡、長崎、大分に残る懐かしい風景が多数掲載されている『ふるさと再発見の旅 九州1』が2023年4月15日に発売となりました。ご購入はお近くの書店、もしくはこちらから↓


【日本全国写真紀行】をまとめてご覧になりたい方はこちら↓

https://note.com/monvoyage/m/mff75ca23f53