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全国最中図鑑

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日本を代表する和菓子の一つである「最中」。香ばしいパリパリの皮とともに餡を頬張れば、口の中にふわっと広がる品のよい甘さ。なんとも幸せな気分になるお菓子です。編集スタッフが取材の途…
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#ご当地グルメ

「全国最中図鑑」78 しっぺい太郎最中(静岡県磐田市)

磐田市の見付神社には「しっぺい(悉平)太郎」の伝説が昔から伝えられてきた。 その昔、毎年家の棟に白羽の矢が立った家の娘は、8月10日の見付天神の祭りに人身御供として神に捧げられる、というしきたりがあった。村人たちは祭りのたびに泣いて悲しんでいた。 ある時、村を訪れた旅の僧がこの話を聞いて不審に思い、それが神ではなく怪物の仕業であることを突き止めた。そして怪物たちが信濃国の「しっぺい太郎」という人物を恐れていることを知る。僧が信濃で調べたところ、しっぺい太郎は人ではなく、駒ヶ根

「全国最中図鑑」65 加賀鳶最中(石川県金沢市)

「加賀鳶」という言葉をご存じだろうか。享保3(1718)年、8代将軍吉宗が禄高一万石以上の藩に対し、江戸藩邸を守る大名火消しを設置するよう命じたのを受けて、加賀藩では江戸上屋敷の自衛消防隊を増強した。これが加賀鳶と言われる火消し集団である。 加賀鳶は勇猛果敢な活動と華麗な装備で評判になり、当時の浮世絵や歌舞伎の題材ともなり、いつの間にか大名火消しといえば加賀鳶のことを指すようになった。 その加賀鳶の派手な纏の紋様を最中に仕上げたのが、創業嘉永2年の老舗・諸江屋の「加賀鳶最中」

「全国最中図鑑」64 羽二重もなか(福井県福井市)

福井県の人に郷土の代表的な和菓子は? と尋ねると、ほとんどの人が「羽二重餅」と答える。羽二重餅とは、餅粉を蒸して砂糖と水飴を加えて練り上げた、牛皮によく似た菓子である。 福井藩では、江戸時代から高級織物「羽二重」の生産が盛んで、日本一の生産量を誇っていた。明治30年代に、この羽二重の色合い、風合いをそのまま和菓子に取り込んだ「羽二重餅」を考案し、売り出したのが、老舗の和菓子屋「松岡軒」。「羽二重もなか」はその松岡軒が、看板商品の羽二重餅と、甘さを控えたこしあんを詰めて作ったも

「全国最中図鑑」62 さざえ最中(千葉県南房総市)

南房総は美味しいサザエが獲れることで有名だ。房総沖は、北上する黒潮と南下する親潮が交じり合い、栄養豊かな海藻が豊富にある。それらをエサにして育った南房総のサザエは、身がふっくらしているだけでなく、肝までふっくらとして美味しいのが特徴と言われている。 そのサザエの貝殻をモチーフにした最中が、盛栄堂の「さざえ最中」。盛栄堂は南房総で100年以上、4代に渡って和菓子を作り続けてきた老舗で、「さざえ最中」は先代の3代目が考案したそうだ。サザエの形をした皮はコロンとしていてとても可愛く

「全国最中図鑑」60 可麻久良 〈かまくら〉最中 (神奈川県鎌倉市)

麻可奈思美 佐祢尓和波湯久   可麻久良能 美奈能瀬河泊尓 思保美都奈武賀 (万葉集第14巻より) ――愛しい人と夜を共にしに行こう。鎌倉の水無瀬川には潮が満ちているだろうか―― 万葉集には、鎌倉は「可麻久良」という万葉仮名で記載されていることからつけられた、三日月堂花仙の名物もなかである。最上級の北海道産の大納言を丹念に炊き上げ、じっくり練り上げて丁寧に仕上げたつぶしあんをたっぷり挟んだ逸品。はみ出しそうな量のあんと、そのあんの水分に負けない厚みでサクサクとした食感の皮

「全国最中図鑑」55 讃州最中 (香川県丸亀市)

明治維新後の都道府県制が敷かれる前、日本の地域行政区画は六十余州(66国と2島)と呼ばれる「国」が単位だった。武蔵(国)、信濃(国)、三河(国)など、今もさまざまな固有名詞に名付けられていたりする国名だが、これらは正式名よりも通称「○州」(例えば武州、信州、三州など)と呼ばれることが多い。香川県はご存知「讃岐うどん」で知られる「讃岐」の国。通称「讃州」である。 その「讃州」の文字を浮き出させた風格のあるもなかが「讃州最中」。 香川県丸亀市、讃岐のシンボル讃岐富士のお膝元で昭和

「全国最中図鑑」54 伊予路真珠もなか(愛媛県宇和島市)

1893年に御木本幸吉が半円真珠の養殖に成功して以来、日本の養殖真珠の中心地は三重県と長崎県だった。だが1960年代に宇和海で養殖が始まってからは、またたく間に愛媛県での養殖が盛んになり、74年以降、愛媛は日本一の生産地となった。現在も全国の真珠生産量の約40%を占めている。 中でも、宇和島市から愛南町に広がる宇和海は、その代表的な養殖地となっている。元々宇和海には黒潮が流れ込む温暖で良質な漁場があり、天然のアコヤ貝が数多く生息していたこともその要因だったといわれる。 そんな

「全国最中図鑑」53 狸合戦もなか(徳島県小松島市)

阿波狸合戦は、江戸末期に阿波国で起きたといわれる狸たちの戦争の伝説である。商人に命を助けられた狸が恩返しをすることから始まる物語なのだが、それからが意外に長い話でとても書ききれない。ここでは割愛するが、興味のある方は調べてみていただきたい。 さて、その狸の伝説を、昭和14年に大映の前身である新興キネマが「阿波狸合戦」という題名で映画化し、大ヒットした。そして翌15年にも「続阿波狸合戦」を制作し、またまた大ヒットした。この映画の成功で小松島はすっかり狸の町として有名になり、今で

「全国最中図鑑」43 首里城最中(沖縄県那覇市)

首里城は琉球王朝の王城で、沖縄県内で一番大きな城である。2000(平成12)年に「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として世界遺産に登録された(城自体は何度か破壊されて復元されており、世界遺産としての登録は「首里城跡」となっている)。2019年10月31日深夜の火災により、正殿をはじめ復元されていた多くの建築物と工芸品などが焼失したニュースは記憶に新しい。3年後の2022年11月3日、正殿復元が開始された。 その焼失前の首里城をモチーフにしたのが、デパートリウボウのオリジナル菓

「全国最中図鑑」42 火山桜島もなか(鹿児島県鹿児島市)

鹿児島のシンボル・桜島は、北岳・南岳から成る複合活火山で、年間200万人の観光客が訪れる鹿児島屈指の観光地。今も噴煙を上げ、灰を降らせ続けている世界的にも珍しい火山だ。周囲約50キロ以上、面積約80キロ平方メートルで、名前のとおり元は島だったが、大正3年の大噴火で対岸の大隅半島と地続きになった。 誕生したのは約2万6千年ほど前。日本の火山の中では比較的新しい火山だが、有史以来頻繁に噴火を繰り返してきた。噴火の頻度は数週間に一度のこともあれば1日に2、3回の時もあり、鹿児島のニ

「全国最中図鑑」40 北海道クマ最中(北海道札幌市)

世界には8種類のクマがいるそうだが、日本にいるクマは2種類のみ。北海道に生息するヒグマと、本州以南にいるツキノワグマだ。大人のヒグマは体長2〜2.5メートル、体重は150〜250キロ、日本にいる最大の陸上動物である。古代には、大きいということは崇拝に値する特徴だったから、アイヌの間ではクマは神とされていた。 そんなクマを、アメリカ人は「テディベア」という可愛いぬいぐるみにしたが、札幌の餅菓子店では美味しい最中に仕上げた。明治39年創業の美好屋が作った「北海道クマ最中」である。

「全国最中図鑑」39 青森りんごもなか(青森県むつ市)

日本における西洋りんごは、明治4(1871)年に日本に導入され、青森県へは明治8(1875)年春、当時の内務省勧業寮(1874年に設置された殖産興業を推進する省庁)から3本の苗木が配布され、県庁の構内に栽植されたのが始まり。 その後、同年秋および翌9年春と計3回に渡って数百本の配布を受け、研究心に富んだ農家に試植された。その中から明治27(1894)年に京都博覧会で受賞者が出たことから。青森りんごの評価が高まった。 現在は、津軽地方に世界有数の生産団地が形成され、青森は全国の

「全国最中図鑑」31 軍艦島もなか(長崎県)

中が空洞になった不思議なおまんじゅう『一○香』で知られる茂木一まる香本家には、『軍艦島もなか』というユニークな最中がある。 軍艦島は小さな海底炭鉱の島で、2015(平成27)年に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」で世界遺産に登録された。正式名は「端島」。岩壁が島全体を囲い、鉄筋コンクリートの高層建築が建ち並ぶ外観が軍艦「土佐」によく似ていたところから、「軍艦島」と呼ばれるようになった。 その軍艦島をかたどったこの最中、見かけはちょっとハードな感じだが、外は

「全国最中図鑑」29 烏賊もなか(佐賀県唐津市)

九州の北西部、玄界灘に突き出した東松浦半島の北端にある佐賀県唐津市呼子町は、全国でも屈指のイカの町。10月中旬から4月中旬はアオリイカ、1月から3月はヤリイカ、4月中旬から10月中旬まではケンサキイカと、一年中美味しい烏賊が食べられる。 呼子名物の「イカの活き造り」は、鮮度抜群のイカを素早く活き造りにしたもので、味も食感も素晴らしく、一度食べれば貴方もイカの魅力のトリコになること間違いなし。福岡市内から車で約1時間という便利な場所なので、佐賀にお出かけの際にはぜひご賞味いただ