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謎の女

「ちょっと、あなた」

大型書店の3階の一角。ひと気ない本棚の前で
目当ての本が見つからず、背表紙のタイトルを
ひとり真剣に眺めていた。
集中するあまり、どこかしら隙があったのかもしれない。


私の直ぐ横に60がらみの小柄な女が立っていた。

誰?

その瞬間、記憶を手繰り寄せてみても
会ったことがあるようには思えなかった。
女は私の顔をじっとみつめながら
続けてこう言った。

「あなた、左肩が凝らない?」


えっ?左肩が何だって?


「あなた、左肩がときどき痛くなるでしょ?」


私に何かが憑いているとでも言いたいのだろうか?
先回りしてそう考えた。

「いいえ」

と、そっけなく答えた途端に女は
何も言わずに行ってしまった。

また静かな空間に戻った。
真っ昼間の店内で起こった、わずか数十秒の出来事。


あれから数年経つ。
左肩が本当に痛くなった。
突然目の前に現れたあの女は
私が悩まされるようになることが
わかっていたのだろうか?
今となっては知る良しもない。


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