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93. 大きな花火は降ってくる。

花火を見た。
東京に来てから見た、1番大きな花火だった。

知らない人だらけの知らない街に来て、なんて話はさすがにもう擦れないくらい、東京に来てから時間が経ったけど、上京してから一度も花火大会に行ったことがなかった。東京に知り合いもあまりいないし、もともと出不精だし、東京の桁違いな人混みに揉まれるのはやっぱり嫌だし、なによりそんなところに1人で行ったら多分めちゃくちゃ寂しい。行く用事なし!でもたまにとても運良く、夏に最寄り駅のホームから遠くの方でやってる花火が見えた時は、じっと立ち止まって動画に収めた。よしこれで今年も花火が見れたぞ、と。

今日、東京に来てから初めて、大きな花火大会に行った。都心からは離れた場所で、屋台も多くなく、河川敷にはたくさんの観覧席が用意されていた。まさに花火を見るための花火大会。
花火を打ち上げる岸の、反対側の河川敷。有料観覧席の真横の草むらに無料で座った。レジャーシートを敷いてる人もたくさんいたけど、思いつきの弾丸花火大会だったので、道でもらったうちわをお尻に敷く。うちわくれた人、ごめんね。会場みんなで打ち上げまでのカウントダウン。さん、にい、いち、ファイアー!


大きな花火が、お腹をつくような爆音とともに私たちの頭上へ上がる。ひゅんっ、と打ち上がる光を追うと、体がぐっと後ろに倒れる。わ、地球って丸いんだなって思う。大きく大きく花開くたくさんの光が、視界いっぱいに広がる。降ってくる。私たちの頭の上に。金色の光が、じゅわじゅわ音を立てながら消えていくのが好きだ。青や緑やピンクのいろんな色が混ざったカラフルなやつも、枝垂れ柳のように降りてくるやつも、好きだ。次々に、スッと上がって、どかんと綺麗にまんまるに広がって、空を燦々と明るく照らして、しゅんっと消えていく。
なんだか宇宙だ。空が近く思えて、無数の星に飲み込まれそうな宇宙にいる気がしてきた。宇宙、まだ行ったことないけど。

みんな知らない人なんだけど、みんなおんなじように「わあ!」って言うんだな。前のカップルも後ろの家族も、斜め後ろの小学生たちも。なんか可愛いな。時には花火に個人宛てのメッセージが添えられていて、これからも元気でいてね、だって。ああ愛おしいな。人生いろんなことがあるけど、前向いて行こうぜ!だって。ほんとそうだよな。

降ってくる花火を眺めながら、ただ花火と私だけの世界にのめり込むのではなくその周りにいる人も感じていた。私は大人になったんだな、と思った。そう、まさに、見える世界が広がっていた。


大きな花火を全身で浴びた私たちは、少しだけ早めに席を立って、駅のホームからまた少し花火を見て、まだ混んでない電車で帰路に着いた。久しぶりの、大満足の夏休みだった。

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