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からくりとすり合わせの技⑦ 進化と原点回帰

平成時代を迎えると、戦後の急激な経済成長の反動で、環境、エネルギー、福祉、安全といった社会問題が表面化し、官民あげた対応が求められるようになった。こうした状況のもと、愛知の産業界でも諸問題解決の一助となる製品の開発が進んだ。

その中心はやはり“車”だった。トヨタ自動車は平成9年に世界初のハイブリッド乗用車を開発。ガソリン車同様の走行性能を保ちつつ約2倍の低燃費とCO2排出量半減を実現した。また、世界の流れが電気自動車に向かう中にあって、同社は次の手として水素で走る車の開発にも着手。同26年には、量産車として世界初の高級セダン型燃料電池自動車を誕生させた。

世界初のハイブリッド乗用車 初代トヨタプリウス(トヨタ自動車WEBサイト「画像・動画DL」より)

また、日本車輛製造は国産初となる常電導磁気浮上式のリニアモーターカーを開発。同車両は、名古屋市周辺の幹線道路の交通渋滞を緩和するため、愛知高速交通東部丘陵線に採用され、平成17年の愛知万国博覧会にあわせて営業運転が始まった。

一方、航空分野でも動きがあった。平成14年に政府が発表した「環境適応型高性能小型航空機」構想に応じた三菱重工業(三菱航空機)は、国産初の小型ジェット旅客機の開発に着手。新型エンジンの搭載、最先端の空力設計、複合材の使用によって大幅な燃費低減を実現したほか、快適性を追求した広い客室とするなど、競合機との差別化を図った。ただし、航空機業界をめぐる市況激変のため、残念ながら令和5年に事業計画は中止となっている。

あるいは、高齢化、福祉、安全、労働人口減などといった問題に対し、ものづくりという視点から解決を図ろうとする動きがこの時代に活発になる。こうして開発された製品がパートナーロボットである。愛知県下の自動車関連メーカーや機械設備メーカーによって、介護ロボット、警備ロボット、家事ロボット、エンターテイメントロボットなどが実用化された。

トヨタ自動車が手がけたエンターテイメントロボット(トヨタ産業技術記念館)

ここまでみてきたように、重力やぜんまいを動力源とし、わずか数十点の部品からなる和時計より本格化した愛知のからくりとすり合わせの技は、400年の経験を重ねた結果、エンジンやモーターを動力源とし、部品点数が数万の自動車や、同じく100万以上の旅客機を手がけるまでに進化した。その一方、自動車関連メーカーを中心に座敷からくりに着眼した無動力搬送装置(産業用ロボットの一種)が開発されるなど、原点回帰の動きも盛んになった。江戸初期に津田助左衛門が基礎を築いたからくりとすり合わせの技は、さまざまな可能性を探りつつ、今も愛知のものづくり産業界の中に生き続けている。

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