行列をじっと見る店主の気持ち
POP-UP STORE「旅と本とおやつと」は月一回、仙台空港を会場に開催している。「日常的に楽しめる空港」をコンセプトに飛行機に乗り降りする人はもちろん、飛行機を利用しない人も楽しめる空間づくりを目指している。旅をちょっと楽しくする本と宮城県内のおいしいおやつをセレクトして、旅に出にくい社会情勢の中で少しでも旅気分を味わってもらおうという思いもある。また、DIY STUDIOや衣食住ユニットすまいの什器を使用して、他の空港ではあまり見ない非日常感のある空間づくりを心がけている。2020年の11月に企画がスタートしてからすでに2年以上が経過しており、「旅と本とおやつと」の名前を出すと「知ってる!」「行ったことある!」などとうれしい反応を頂く機会も増え、認知度もだいぶ高まってきているように感じる。
私もPOP-UP STORE開催中の3日間は、搬入・搬出はもちろん、10時から17時まで店頭に立って接客、品出し、レジ打ちをしている。知り合いからそうったことはしない(できない?)イメージがあるようで、遊びに来て店頭に立って接客している私を見かけると驚かれる。確かに、学生時代に大学生協の教科書販売のアルバイトぐらいは経験したが、それ以外でレジ打ちをすることはなかった。普段の仕事は、企画書をつくったり、イベントの運営、冊子・書籍等の編集などが多いため、毎月この3日間だけは新鮮な気持ちで仕事に取り組んでいる。おかげさまでレジ打ちや接客にも慣れ、「旅と本とおやつと」へのお客さんの反応を間近で知ることもできる。
ここでようやく本題に入るのだが、「旅と本とおやつと」の認知度が高まったせいか、最近は開店時間の前にお待ちになっている人が目立つようになってきた。早い人だと開店の1時間前から並び始めるツワモノも登場し始めている。こちらがせっせと準備をしてる間も一人二人と開店を待つ人が現れ、開店時間の直前にはちょっとした行列が完成している。企画側としては非常にありがたいことだが、その人たちの一連の振る舞いを見ていると何だかモヤモヤする時がある。彼ら、彼女らは開店時間になるとこちらで準備した買い物かごに手を伸ばし、お目当てのおやつたちを次から次へと放り込む。事前にSNSで商品の情報をチェックしてきたのか、その動きはとてもスピーディーだ。人気のおやつはまとまった量をかごに入れている確保する人もいる。時には商品の奪い合いのような小競り合いも数回見かけたことがある。その時のお客さんの目は何というか・・・怖い。とても怖い。違う意味で食べ物の恨みは本当に怖い。
旅と本とおやつとで扱っているおやつは、普段、小さなお店にお願いしている。作れる量もだいたい決まっているため、取り扱いができる数にも限りがある。店頭に並ぶ商品も大量とは言えない。たくさん準備して思う存分買い物を楽しんでもらいたいが、物理的には不可能なのが現状である。そんな中、一人のお客が商品をまとめ買いしてしまうと、他の人が買えなくなってしまう。特に開店直後は、後ろにも待っている人がいるのをわかっているにも関わらず、我が物顔で並んでいる商品をかっさらっていく。その光景をカウンターの後ろから眺めていると何だかモヤモヤしてしまう。個人的には、後ろにも待っている人がいるんだから少しぐらい遠慮して欲しいという思いである。そういった人に限ってレジの対応が遅いとイライラしたり小言を言ったりする。例えば、こちらの対応として買うことができる点数を「お一人様○個まで」と張り紙などして制限するという方法もあるが、そんなことまでしないとわかっていただけないのもつらい。せっかくおいしいおやつを食べれて体は喜んでも心は病気だ。まるで品がない。
旅と本とおやつとは、もともと旅気分を楽しんでもらうことを念頭に置いて企画している。おやつにスポットライトが当たりがちだが、本や雑貨、服もゆっくり楽しんでもらいたい。ちょっとしたワクワクを提供できれば、企画側の私たちもとてもうれしい。「これからどこに行くんですか?」「旅の予定ありますか?」など、できればお客さんともそんな会話を交わしながら店頭に立ちたい。そんなの知ったこっちゃない、売れればいいじゃないと言われればそれまでだが、買い物したお客さんの顔もまともに見れないないままただレジ打ちをこなす朝一番の作業に虚しさを感じてしまう。お互いにとって気持ちのいい空間をつくれたらと思うし、もちろん趣旨を汲み取っていただいているのか、午後に来てゆっくり買い物を楽しんでいく人もいる。ただ朝一番のおやつ戦争だけはなんとか終結させたいと毎月の行列を眺めながら頭を悩ませている。まだその良い答えは導き出せていない。
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