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あまりにも熱心なファンがつくり手を苦しめる

とある小物づくりをする作家が制作を辞めて、拠点を他県に移した。制作を辞めた理由は、あまりに作品の人気が出すぎて需要に応えられなくなくなったのが主な理由だ。そもそも作家活動をはじめたのは、自分がつくったものを純粋に喜んでくれる人が周りにいることがうれしかったから。喜んでくれる人がいると思うとつくり手側もがんばって作品をつくる。それを繰り返すうちに活動が広がり、より多くの人が作家の作品を求めるようになる。自分の作品を喜んで人が増えるとその期待に応えようとして、ますます商品づくりに精を出す。分業は難しく、睡眠時間や家族と過ごす時間を削り、気づいたら気力も体力も限界を迎えている。結果、作家は作品づくりを辞めてし遠くのまちに引っ越した。

その後、数年ぶりに知り合いの声がけで再び作品を制作する機会があった。もともと住んでいた県にあるとあるスペースで開催される期間限定の展示・販売会である。作家自身の作品以外にも本や雑貨の販売も行われる予定である。作品づくりはずっと休んでいたが、久しぶりに声をかけられたうれしさや活動を始めた頃のことを楽しさを思い出し、とりあえず一度だけ、引き受けることにした。

今はたくさん作品を制作することは難しいし、数年前に拠点を移したことで以前の活動を知る人もあまりいないだろうということから10点程度とした。誰も来ないのも声をかけてくれた主催者に申し訳ないと思い、展示・販売に向けて、少しぐらいは宣伝しようと自身のSNSで告知を行った。数日後、以前の活動を知っている方から、複数からDMが届いた。活動再開を喜ぶメッセージとともに作品の予約・取り置き、複数点の購入を希望する連絡だった。今回は点数も限られてことや展示という意味合いもあるため開催前に売り切れてしまったり、会場から作品がなくなってしまうのは本意ではないため、予約・取り置き、複数点の購入についてはお断りをした。同じような連絡は主催者側にも届き、対応を迫られた。

今回は、展示・販売という形で購入していただくことだけではなくよりたくさんの人に作品を観て楽しんでもらうことに重きを置いていた。展示・販売会が始まった途端、作品が買い占められてその場で持ち帰られるとしまうと展示が成立しなくなってしまう。そうであれば展示のみで販売しないという方法もあるのかもしれないが、それはそれで買いたいという人に申し訳ないような気もする。そもそも情報をリリースした時点で販売することを明記していたため、展示のみへの変更は難しい。購入後の後日発送も特に想定していなかった。

そもそも作家側が買い手のニーズに応えることに大きなストレスを感じてしまった作品づくりを辞めてしまった経緯があるにも関わらず、時を経へ同じような現象が目の前で起こりつつある。作家も主催者も難しい対応を迫られているが、作品のファンである買い手側にもう少し想像力とマナーがあれば、と思うのはわがまますぎるのであろうか。

飲食店でも小さな人気店があまりに人気になりすぎて店を閉めるというケースを時々、耳にする。彼らも自分の手の届く範囲でお店を切り盛りしていたが、熱心なファンによって継続が難しくなってしまった。ファンによって支えられる作家やお店がある一方で、いきすぎた買い占め、無理な要望は売り手と買い手の両者にとって最悪の結果をもたらす。

お互いをリスペクトした愛のあるコミュニケーションが理想だが、実現のための良い方策は今のところ見当たらない。

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