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Polk Audio Monitor XT15

◉はじめに

今年最後の機材として、Polk Audio Monitor XT15(以下MTX15)をニアフィールド用モニターとして導入しました。なぜ音楽制作用のアクティブモニターではなく、リスニング用のパッシブ型Hi-Fiスピーカーを導入したかというと……。単に気まぐれですw 職業柄、音楽だけでなく映像音声のミックスもするので、民生用を使う意味はそれなりにあるかなということもありますが。きっかけとしては、2020年5月にいまの家に引っ越して以来、ニアフィールドモニターをECLIPSE TD307MK3→JBL 104-BTPioneer S-N901-LRと入れ替えてきたんですが、使っているといろいろと気になるところも出てきて。それが何なのかを確かめるためと、やはり小型のものにしたくて今回の導入に踏み切りました。

Polk Audio MTX15
奥のスピーカーの出音を遮らないように横置きにして設置

選定にあたっては慎重に候補を絞り込みました。リスニング用のスピーカーは気持ちよく聴かせるための音作り(色づけ)がされてるものが多いので、そういうものを選んでしまうと作業がしにくくなるのです。実際、今回の選定時に店頭で比較試聴した同じPolk AudioのミドルクラスモデルとなるSignature Elite ES10/ES15などはパッと聴きでも華やかでキレイな鳴りをしていました。気持ちよく聴く分にはすごく良いのですが、これでミックスをすると仕上がりは地味になっちゃうんです。その辺を加味して仕事すれば使えないわけではないのですが、いちいち脳内補正するのは大変なので(苦笑)

Polk Audio ES15

それに比べてMTXシリーズは誇張の少ない地味な鳴りに感じたので、こっちを選びました。あとはサイズと値段ですね。今回導入したMTX15は5インチウーファーながら比較的コンパクトで、価格もペアで2.4万弱(家電量販店価格)。ネットで探せば2万くらいで買えると思います。まぁこの値段だったら失敗してもダメージが軽いかなとw。Polk Audioは低価格にするための工夫が凄まじく、音にも定評があったので、その辺も選定理由ですね。実はもうひとつ、MONITOR AUDIOのMonitor 50というモデルも気になってたので試聴したところ、こちらも低域が多少大人しい印象だったものの全体的には良さげだったんですが、価格が約2倍だったので、今回はPolkにするかと。

MONITOR AUDIO Monitor 50

◉ファーストインプレッション

さて、前置きが長くなりましたが、ここからは実際に自宅スタジオに設置した状態での音の印象を見ていきましょう。置き方ですが、最初はフツーに縦置きで使用したところ、ミッドフィールドで使ってるスピーカーからの出音を多少遮ってしまう感じがしたので、今回もやはり横置きで(前掲の写真参照)。ここに至るまでには左右間の距離や仰角、内振り角度など、いろいろと試して、とりあえずのベストを目指しました。

パッと聴きの印象は店頭での試聴時と同じく、派手すぎることもなくてモデル名の通りモニター調の音。とはいえ、フラットかと言われるとそうでもないような感じもあって。少し整理された音というか。あとは低域にちょっとピーク感があるのが気になりましたが、これについては後述します。低域の量感も思ったほど多くはないですね。スペック的には48Hz〜40kHzとなっていますが、実際にはレンジ感はもっと狭く、全体的に刺激の少ない出音。広がり感よりはまとまり感重視という感じ。乱暴な言い方をすると、長年愛用してるTASCAM VL-M3を大きくしたような感じです。

TASCAM VL-3M
とっくにディスコンになってる、小型でフルレンジ一発のモニター。
中低域〜中域重視の狭いレンジ感が最終チェックに向いている。

◉周波数特性の測定

それでは、この状態で周波数特性を測ってみます。測定にはSonarworks SoundID Referenceを使用します。その結果がこちら。

Polk Audio MTX15

やはりフラットではなく、低域にピークがあり、中域にも2箇所ほどディップがあるのが見て取れます。そして、110Hzあたりから急激に落ちてるので、やはり低域はそんなに出ていません。というか、110〜120Hzあたりのピークがキツすぎて、本来の低域特性が埋もれてしまってるように見えます。

それはそれとして、スペック表の表記はメーカーによって、さらには機種によって条件付けが違っている場合が多いんです。プロ用機器の場合、「-3dB」とか「-6dB」などとカッコ書きされてることが多いので、例えば下は48Hzまで出ると書いてあっても、その少し手前からなだらかにロールオフしてるんだなとわかるんですが、民生用の場合は、下手すると「-10dB」のこともあるので、そうなると全然当てにならなくなります。今回の場合も50Hzは-9dBあたりにプロットされてるので、やはり「-10dB」なんじゃないかと。

さて、ここであることに気がつきました。このカタチ、なんか見覚えあるぞ……と。そこで、いままで使ってきたスピーカーと、以前、ビデオサロンの記事を書くときにメーカーからお借りしたIK Multimedia iLoud MTMの測定結果を並べてみたら……。

JBL 104-BT
Pioneer S-N901-LR
IK Multimedia iLoud MTM (キャリブレーションなし)

いかがでしょう?何か気づきませんか?わからないという方は以下の部分に注目してみてください。

Palk Audio MTX15

100Hzあたりのディップ、110〜120Hzあたりのピーク、400Hzのピーク、そして800Hz付近のディップが共通して現れているのがわかると思います。これが、いままで感じてた気になる点の正体だったというわけです!

つまり、これらのピークやディップは、この部屋の特徴……ルームアコースティックの調整が充分でないゆえに現れたものと推測できます。まぁ800Hzあたりのディップは機種により若干周波数が違うので、これはそのスピーカーの個性かもしれませんが。

中域より上に関してはあまり共通項がないので、スピーカーの個性と考えてもいいかもしれません。今回導入したMTX15は2〜3kHzあたりにディップがあり、高域は少しハイ上がりなのが特徴ですね。3kHz周辺は人間の耳が一番敏感な帯域。ここが出すぎてると派手だったり、もっと酷いと耳に痛いと感じるので、このスピーカーが地味めに聴こえるのもこの特徴ゆえだと思います。そして、人間の耳の感度が落ちる高域を少し持ち上げることによって聴感上のフラットさを出しているのかと。

そういう見方で見て行くと、音楽業界でも評価の高いiLoud MTMの素性の良さがよくわかりますね!ちなみに、このiLoud MTMの売りでもある内蔵DSPによるキャリブレーションを行った状態での周波数特性がこちら。

IK Multimedia iLoud MTM(キャリブレーションあり)

部屋由来の低域のピーク/ディップや中域のディップが抑えられて、ちゃんとフラットになってます!!10kHz以上が少し上がり気味なのは、前述のように聴感上のフラットさを出すためかもしれません。

◉まとめ

うちの環境ではMTX15は部屋の影響を受けすぎて本来の音を語ることは難しいのですが、店頭で聴いた印象を加味すると、とてもナチュラルで好印象なスピーカーと言えます。特に派手に脚色された音が苦手な人には向いてるかと。

ちなみに、SoundID Referenceで補正した音は周波数特性のフラットさ、低域のレンジ感、広がり感などが見違えるほどに向上するので、仕事で使う場合はやはり補正ありでやって、最終チェックでは補正を外すという使い方がいいなと思いました。

業務用にしろ民生用にしろ、スピーカー選びは選択肢が多くてなかなか大変ですが、それ以前に、やはり部屋の音響特性を整えるのが非常に大事だなというのがよくわかる結果になりました。これがちゃんと解決できてないと、どんなに良いスピーカーを持ってきても同じ問題が発生するので。うちの自宅スタジオも吸音パネルなどである程度のトリートメントはしてるのですが、使い勝手を優先したレイアウトの問題だったり、そもそも低域の吸音は難しかったりで、完全に追い込むのは非常に困難だと実感しています。最近は、iLoud MTMのようにスピーカー自体にキャリブレーション機能を持たせたモニタースピーカーも増えてきてるし、民生用でもそういった機能を有したものが存在しています。リスニング用ならいざ知らず、きちんとした音響設計をしていない部屋で音楽制作や映像音声のミックスを行う場合は、現状、やはりキャリブレーションに頼らざるを得ないですね。

とりあえず、しばらくはこのMTX15を使っていこうと思いますが、また余裕のあるタイミングで別のものにしているかもしれませんww

MONOPOSTO STUDIO

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