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雨に恋した金木犀【男女逆転】

ジャンル:ファンタジー/ミステリー
上演目安時間:10分〜20分
登場人物:男×1 女×1
(性別改変可 演者性別不問)

女 …雨

男 …金木犀



女:(M)私が彼と出会ったのは、秋だった。

女:十五夜を過ぎた頃、この辺り一帯をどんよりとした雲が覆いつくしていた。
女:立ちつくしたままの私に、通りすがりの人達は眉を寄せる。
女:そのまま動けずにいると、ふと、こちらを見ている視線に気が付いた。  

女:周囲の色すら鈍らせる曇天の中、彼だけは、浮き上がる様な黄金色(こがねいろ)の髪をしている。
女:丸い瞳で私を見上げた彼はー 

男:「ああ…。」
男:「君に触れられるなら僕は、死んでしまっても構わないのに」

女:(M)そう、呟いた。

男:「…ふふ」
女:(M)訝しげな表情をする私に、彼は微笑んでから首を横に振る。
女:髪が揺れる度に、周囲に甘い香りが広がった。

男:「ああ。急にごめんね」
男:「君、さっきからずっとそこにいるだろう」
男:「どうして、そこにいるんだい?」
女:「どうして、って…。そうね。行きたい所も、行くべき所も無いからかな」
男:「へえ、そうなんだ」
男:「それなら少し、話をしない?」
女:「話?」
男:「急いで行く所がないなら」
女:「…。まぁ、良いけれど」
男:「本当?ありがとう」
女:「何の話をするの?」
男:「そうだな」
男:「君はいつからここにいるの?」
女:「…気がついたら、かな」
女:「色んな景色を見て回るのが好きなの」
女:「でも今は、どこにも行けなくて」
男:「そうなんだ。…いいね」
女:「貴方は、どうしてそこにいるの?」
男:「僕は、ここから動けないんだ。君より少し前からここにいた」
男:「ぼんやりしていたらいつの間にか君がいて、ずっと動かないから、何をしているのかなと思って」
女:「そう…」
男:「……」

男:「…僕はね、恋をしているんだ」
女:「恋?」
男:「そう。その人に振り向いてもらえるなら、何だってする。でもその人は遠い所にいて、中々近くに来てくれないんだ」
女:「ああ、それでさっき」
男:「うん。…こう見えて、結構一途なんだけどな」
女:「さっきから、道ゆく人がつい足を止めるくらい、貴方は綺麗なのに」
女:「1人に愛されないから死んでもいいなんて…。なんだか、勿体無いな」
男:「そう?僕にとってはそんな事、どうでもいいんだよ」
男:「本当に見てほしい人に見てもらえないなら、意味がないから」

女:(M)彼の均整の取れた唇が笑みの形を作り、薄黄色の瞳がうっとりとした様に細くなる。
女:つくづく、浮世離れした出立ちだ。

男:「君も、そう思わない?」
女:「そういうものかな…」
女:「望まれるって、すごい事だと思うけれど」
男:「君を求めてる人も、いるはずだ」
女:「……さぁ、それはどうかしら」
男:「…いるよ。ここに」

0:湿気を含んだ風が、男の髪を揺らす。

女:「ーそれは、どういう意味?」
男:「…僕は、君に恋をしているんだ。」
男:「一度でいい、ほんの指先だけでいいから、君に触れてみたい」
女:「…!」
男:「いきなり、おかしいよね。でも、」
女:「急に、何を言いだすの」
男:「…」
女:「それに、それがどういう事か分かって言っているの…?」
男:「…うん。そうなっても良いと思うくらい、君に焦がれてるんだ」
女:「そんなの、ありえない…!」
男:「…あり得ない?どうして?」
女:「私を望む人なんて…」
男:「…」
女:「それに、元々貴方に与えられた時間はほんの僅かなのよ…?その短い時間を、更に縮めることになるわ、」
男:「…うん、そうだね」
女:「貴方は、みんなに愛されているのに…っ」
男:「でも僕は、そんな事に興味はないんだよ」
女:「そんな事、って」
男:「残された時間が僅かなら、僕は自分の思いに素直でいたい。だから、このまま君がいってしまったら、きっと後悔する」

女:(M)苦しげに眉を寄せ、熱い眼差しで私を見つめる姿はあまりに綺麗で、目が逸らせなくなる。
女:そんな人が自分だけを求めている、なんて。
女:ああ、なんて厄介なんだろう。

女:……いえ、心のどこかでは気がついていた。
女:一目見た時から、私は彼を…。

女:「本当に、それで後悔しないの?」
男:「ああ」
男:「このまま何も知らずに終わるのはいやだ。僕の望みは、君に触れる事だけだよ」
0:男の瞳に吸い込まれるように女が呟く。
女:「…私も、貴方に触れたい」
男:「…!」
男:「ああ、嬉しいよ…。ありがとう」
女:「きっと、これからも貴方は人を惑わせて、残りの時間も沢山の人に愛されるのでしょう。私のことを忘れて…」
男:「…」
女:「そんなの耐えられない…!それなら今ここで、私だけのものにしてしまいたい…!」
男:「ああ…」
女:「…だから、貴方が望む場所へ連れていってあげる。その代わり、貴方は私だけのものよ」
男:「ああ。僕は君だけのものだ」
男:「さぁ…おいで」

女:(M)私は彼の元へ降りていき、その体を抱きしめる様に、ゆっくりと彼を濡らしていく。
女:彼は恍惚と目を細めて、私を受け入れた。

男:「あぁ…。やっと触れることが出来た。これが君の温度、これが君の感触。ずっと触れたいと思っていた。…なんて、素敵なんだろう」

女:(M)彼の体を伝う雫が、地面に落ちる。
女:初めはコンクリートに染みた雫は、やがて溢(あふ)れる様に大地を濡らしていく。
女:そして雫の重みに耐えきれなくなった彼の体は、ぽとり、ぽとりと一つずつ地面へ落ちていく。

男:「…ありがとう… 。ああ、幸せだ」

女:(M)明日の朝、大地は彼の死体で埋め尽くされるだろう。
女:雨雲は消え、久しぶりに上った朝日が、地面に落ちた彼を黄金色に輝かす。
女:人々はそのあまりの美しさに足を止めて、魅了される事だろう。
女:しかし私も彼も、もうそれを知る事はない。

男:(M)これは、雨に恋をした金木犀の物語。
女:(M)そして、金木犀に誘惑された雨の物語。

男:「ああ…」
男:「君に触れられるなら僕は、死んでしまっても構わないのに」


0:-終幕


あとがき。

雨(男)・金木犀(女)の性別入れ替え版。
年齢とかは決めてません。
女性二人でも男性二人でもご自由にどうぞ。

※男女逆転バージョンはこちら。→ 
 https://note.com/monookiba/n/nb5d26a05f911 

金木犀の花言葉
「陶酔」「誘惑」「隠り世」より抜粋。

2021/12/19 ボイコネ投稿作品。
手直し、改良をしています。
元々の文章が良いという方がいたら再掲します。
コメントに一声お願いします。

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