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鈴木みのる🆚高山善廣 ノーコンテスト

まえがき

SNSである動画が流れてきた。プロレスラーと思しき男性が車いすの男性をリングにあげ、「かかってこい!かかってこいよ!」と罵っている。車いすの男性は必死に立とうとしている。しかし、立てない。

これだけの説明を聞いたら最低な動画なんだろうと思うだろう。
僕はこの最低な動画に涙した。
「最低だ!」、「悔しい!」そんな感情ではない。
「この車いすの男性はきっと立つ!そうだよな?!
お前は立つよな?今はまだってだけだよな?」
という熱い気持ちが込み上げて涙した。

理由を説明しよう。
何も知らないひと向けに書いた。
最後まで読んでからまた「まえがき」に戻って欲しい。

試合

TAKAYAMANIAという大会のエキシビジョンマッチが行われた。エキシビジョンなのにメインの後に少しだけ。しかもメインのカードは鈴木みのる🆚柴田勝頼。知らないひとはプロレスファン垂涎の試合だと思ってもらったらいい。ここのカードの面白さも語ると長くなるのだが、今回はそこではない。その後にエキシビジョンマッチ。普通の試合では白けるまである。それを乗り越えるカードなどあるのだろうか?

そのカードは鈴木みのる🆚高山善廣

プロレスでは異名がつくことがある。鈴木みのる選手であれば「プロレス王」とか「世界一性格の悪い男」などがある。高山善廣選手であれば、「プロレスの帝王」と呼ばれていた。

プロレス知識がないひとや格闘技に興味がないひとは知らないかもしれない。もしかしたら鈴木みのる選手はたまに有吉弘行さんと熱々おでんを食べている(この動画もめちゃくちゃ面白い)ので知っているひともいるかも。
プロレスラー鈴木みのるを知らないひとはおもしろおじさんと思っているかもしれない。

高山善廣選手のことは、若いひとは知らないかもしれない。格闘技のことに詳しくないひとは知らないだろう。しかしTAKAYAMANIAは高山善廣選手のための大会なのだ。

高山善廣選手

身長196cm、体重125kg。日本人としては破格のフレームを持っている。その大きい体格とダイナミックな技は見るものを魅了した。

プロレスや元々UWFという今でいうMMAのような試合をメインにしていたところの出身というのもあり、MMAでも活躍していた。

格闘技ファンの中で今でも語り種になっている試合がある。
それは「ドン・フライ🆚高山善廣」だ。
僕はプロレスを含め、ありとあらゆる格闘技、武道が好きだが、自分の見てきた中の試合のベストバウトとしている。

ぜひ試合の動画を探して見ていただきたいのだが、なんせすごい試合なのだ。
格闘技とか知らないひとでも盛り上がる試合だと思う。

鈴木みのる選手

身長178cm、体重102kg。正直プロレスをするには小柄と言えるだろう。僕とそんなに大きさは変わらない。テレビで観ている時はもっと大きい選手だと思っていた。

元々新日本プロレスにいたのだが、今でいうMMA系のリングに移動し、強さを求めていた。しかし、しばらくしてまたプロレスに戻ってきて、今はプロレスのリングを主戦場にしている。

原宿にパイルドライバーというお店をしていてそこでたまに店に立っておられるのだが、僕はその店で会ったことがある。
本当に僕と同じぐらいの身体のサイズでテレビで観ていた僕は「えっ?こんなに小さいの?」と思ったほどだ。

僕も少し格闘技を齧っている身としては、自分がもう少し身体が大きかったらなと何度も思ったことがあるからだ。プロレスなどのプロの格闘技のリングに上がっていた鈴木みのる選手ならなおさらだろう。

しかし、彼は自分の身体のサイズをはじめ、どんな理不尽なことにも言い訳をしたことがない。本人は「やりたいことをやっているから」というが、本当に漢の中の漢、男が惚れる漢といったところだ。

そこで握手をしてもらったのだが、そこで気がついたことがある。身体がボロボロだ。自分より体格の大きい相手と戦ってきているので当然といえば当然なのだが、僕が握手しただけでわかるぐらいにはボロボロだった。
その身体に鈴木みのるという漢の歴史を感じたし、僕はそれでファンになった。

他にも色々なエピソードを話したいがそれはまたの機会とする。

試合中の事故

プロレスはかなり危険なことをしているので、事故は付き物だ。大きい怪我をするひともいれば、死ぬひともいる。復帰することもあれば、怪我が原因で引退するひともいる。

たまにプロレスは「格闘技じゃない」とか「演劇だ」みたいなことを言うひとがいる。いくらなんでも知らな過ぎるし、失礼でしかない。僕はそう言うことを言っているひとでプロレスラーと対峙したひとを見たことがないし、またプロレスラーと戦ったことがあるひとでプロレスラーは弱いと断罪したひとを見たことがない。これが全てだ。

そう言われる原因にわざと技を食らうということがあるのだが、それは戦い方の問題だ。ボクサーにキック使わないの?と言っているようなものだ。

相手の技を食らって「そんなもんか?」と言って相手の心を挫くのだ。それに中途半端に躱す方がケガの元だ。プロレスはルール上武器が使われることもある。相手が飛んでくることもある。その時に中途半端に躱すと靴が当たったり、武器の尖っている金具が当たったりなどして大怪我を招くのだ。大流血してノーコンテストになるなんてことも実際にあった。

5秒以内なら多少反則も許されるというとんでもないルールなので、本当に何があるかわからない。だから、日々鍛錬し、それらの攻撃に耐えらえるようにプロレスラーは身体を鍛えている。
少し格闘技を齧っている身としては、ありとあらゆる格闘技において、プロレスラーを超えるタフネスは存在しないとさえ思う。それほどイカれている。

ただ、それゆえに事故も起こる。言うなれば曲芸のサーカスをしているのと同じで、一つの失敗が死を招く。しっかり『受け身をとる』そんなプロレスでは日常的なことを1回失敗しただけで大事故に繋がるのだ。

高山善廣選手の事故

高山善廣選手は試合中に大きい事故をしている。前方回転海老固めというプロレスを観ている僕でもそこまで難しくない技と思われるし、僕がプロレスごっこしていた時でも繰り出せるぐらいの技だ。知らないひとに説明は難しいのだが、相手の頭を股の間に脇ぐらいまで入れて、上から自分の頭を相手のお尻から股の方向に落とし込んで、クルッと回って相手の後頭部をマットに打ち付けつつフォールする技だ。

その時に入り方に失敗し、自分の頭からリングに突き刺さるような形になって、そこから動けなくなった。

プロレスの危険さ

実は僕も高校生の頃にプロレスごっこをしていてひどく首を痛めたことがある。廊下で友人としていたので、下はタイルだったのだが、相手がラリアットをしてきて、プロレスなので受けようと思って耐えたところ、相手が足を滑らせてランニングネックブリーカーのような形になり、僕は受け身も取ったし、首もあげていたのだが、素人の首では耐えられるわけもなくしこたま後頭部を地面にぶつけた。

僕は「やばい!」と言って即座に立ち上がったのだが、そこからグラグラして、身体が言うことを聞かなくなった。人間本当にやばい時は咄嗟に立ち上がるのだ。

その時の僕は天井がぐるぐる回っていて、僕は精神の中で『やばいどうする?天井グルグル回っているし寝るか?あれ?これ天井回ってるんじゃなくて俺が回ってるぞ?(頭をグルグル回している状態)なんとか安定した体制に持っていきたい。え?身体ってどうやって動かしてたっけ?手も足も動かへん。やばい。これは首から下不随か?高校生で?』みたいなことを考えていたら、なんとか腹筋だけ動いて四股のような形になった。そしたら『おいおいおいおい手足が痙攣しまくってるやんけ。自分の意思で動かん。そもそも手とか足ってどうやって動かしたっけ?思ったら勝手に動いてたから動かし方わからん。』と思っていたら少しずつ動き出してことなきをえた。

ちなみに僕はこの時脳震盪とムチ打ちになっていたわけだが、脳震盪は経過観察した結果無事で、ムチ打ちはひどく一ヶ月は寝返りも打てず(寝返りを打ったら激痛で目が覚める。)、以前の通り首が回るのに3ヶ月はかかった。

高山善廣選手の事故もそうだが、本当に何気ない技でとんでもない事故になるのだ。それに耐えうるためにプロレスラーは毎日トレーニングを積んでいるのだ。
本当にとんでもないことをしている競技だ。一般人では胸のチョップやヘッドロックですら受けられない。ロープに振られてなんで返ってくるんだと言うひとがいるが、あれは受け身だ。一般人がロープに振られたらロープの強さに負けてリングに叩きつけられてしまう。
なんせプロレスラーが普通っぽくやっていること一つ一つが全て熟練の技なのだ。

TAKAYAMANIA

そして、入院を余儀なくされた高山善廣選手なのだが、一時は自発呼吸が停止するなどあったが、今はなんとか退院することができた。それらの入院費用やリハビリ費用を補うために設立されたのがTAKAYAMANIAでその有志代表が鈴木みのる選手なのだ。

この時、鈴木みのる選手は「偽善者だ」、「金集めだ」と揶揄されていた。鈴木みのる選手のファンやプロレスファンはそんなことないのをわかっているのだが、このニュースを見ただけのネットに蔓延るイタイやつらが誹謗中傷をしていた。

鈴木みのる選手は「でも、俺はそんなの関係なく、友達のために活動を続けているだけだから」と言っていて、「自分のひとつのライフワークになるのかなと思ってるんで。数年で解決することじゃないのは分かってるから、これからもあいつが戻ってくるまで、10年後も20年後もやるつもりだよ」と決意を語っていた。

そしてリングへ

新型コロナウイルスなどもあり、3年振りぐらいだったか?TAKAYAMANIAが行われた。そして、メインが終わってからのエキシビジョンマッチに続く。

メインの試合が終わった後、鈴木みのる選手がマイクをとる。
呼び込んだスペシャルゲストは高山善廣選手だ。
このサプライズに観客は驚愕し、そしてコールをあげた。
「たっかやま!」、「たっかやま!」、「たっかやま!」
一斉に高山コールが起きる。さすが後楽園ホールのお客さんである。
プロレスは観客も参加して盛り上げて作っていくものなのだ。
そして、参加選手、関係者総出でロープが外される。

高山善廣選手は7年振りぐらいにリングの上に帰ってきた。

観客の声援に包まれる中、高山善廣選手は青コーナに。そして赤コーナーには鈴木みのる選手。そしてゴングが鳴る。

カーン!🔔

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その場所には7年振りにリングの上にいる首から下が今は動かないレスラーがいる。そのレスラーは自発呼吸の停止や誤嚥性肺炎での入院を乗り越えてその場にいる。本当に死んでいてもおかしくない。いや、常人であれば死んでいるであろう死線を乗り越えてそこにいるのだ。

そして、そこに対峙するのは「偽善者だ!」、「金集めだ!」と誹謗中傷された有志代表の男。またの名を「世界一性格の悪い男」、またの名を「プロレス王」。友人のために「金集め」と揶揄されるのも覚悟で記者会見をし、旗振り役を続けた。自分の店に手作りの募金箱を置き、SNSに度々高山善廣選手をあげ続けた「世界一性格の悪い男」。

その二人がリングに対峙したのだ。
青コーナーの前にいる高山善廣選手に鈴木みのる選手は罵声を浴びせる。
「かかってこい!かかってこいよ!」
プロレスラーとは寝ていても耳元で「ワン!ツー!」と言われると肩をあげてしまう生き物である。罵られればそのままというわけにはいかない。張り倒すか、高山善廣選手なら顔面にビッグブーツと言われるような蹴りを叩き込まなければならない。

しかし、高山善廣選手は立ち上がれない。必死に立とうとしている。僕にはわかる。立ち上がるためには頭を前に出し、重心を前傾にするのが椅子から立ち上がる最初の行動だ。そのためには舌骨上筋群と舌骨下筋群(舌骨の上下の筋肉)が収縮しなければならない。高山善廣選手は明かにそこの筋肉を収縮させようとしている。しかし、舌骨上筋群には収縮を認めるものの舌骨下筋群は収縮しているように見えない。舌骨上筋群は三叉神経支配で、舌骨下筋群は舌下神経と頚神経叢で構成されている頸神経ワナ支配である。

おそらく頚神経叢があまり機能していないのか、舌骨下筋群が動かせていない。これでは立ち上がることができない。ただ、必死に立とうとしているのは伝わる。

この必死に立とうとしている車いすの男とそれを「かかってこい!」と罵る「世界一性格の悪い男」のバトルを見て、観客席だけでなく、リンサイドの選手や関係者さえも涙していた。

この1分足らずの時間に鈴木みのる選手の高山善廣選手に対する闘病へのエールや、高山善廣選手の鈴木みのる選手や他の関係者の期待に応えようとする熱い気持ちがギュッと凝縮されていた。

そして、鈴木みのる選手がマイクをとる
「お前が立てないんだったら、この勝負お預けにしてやるよ。その代わり、テメェが帰ってくるまで、俺はプロレスのリングでお前のことずっと待ってるからな!何が帝王だ。今のプロレス王はこの俺、鈴木みのるだ!悔しかったら立ち上がって、俺の顔蹴っ飛ばしてみろ、コノヤロー!」

その流れを知っているからこそ僕は涙したのだ。いや、僕だけではない。知っているひとみんな熱いものが込み上げたはずだ。

この時にまえがきの気持ちになったのだ。
「この車いすの男性(高山善廣選手)はきっと立つ!そうだよな?!
お前は立つよな?今はまだってだけだよな?」
という熱い気持ちが込み上げて涙した。

募金をお願いします💰

実は過去にパイルドライバーという鈴木みのる選手がしている店で買い物をし、募金したことがある。募金嫌いの僕がである。

募金の何が嫌いって届けたい相手にちゃんと届いているかどうかがわからないし、日本ユニセフは募金の20%は団体の運営にお金が回っている。つまり、入れたお金の8割しか届いていないし、災害があればあるほど団体の私腹が肥えるのだ。なんか納得がいかない。

その点、鈴木みのる選手であれば、高山善廣選手のために使ってくれそうだ。万が一そうでなく、鈴木みのる選手が自身の活動や生活にお金を使ったとしてもそれはそれで高山善廣選手のためになる。やぶさかではない。

僕は今度東京に行くので、できれば原宿まで行ってお店で募金したいと思っている。みなさんもお願いします🙇‍♂️

さいごに

僕は今後も鈴木みのる選手や高山善廣選手の動向をチェックしていこうと思う。

僕は医療従事者だ。現実的なところも見ている。高山善廣選手が立ち上がる姿を見る。それはおそらく『奇跡』と言っていいだろう。

奇跡』とはただ願ったら起きるそんなものではない。
本人の挫けぬ心、周りの支え、莫大な量のそれらが積み重なったその先に掴める何かだと思っている。

高山善廣選手はそういった意味では最大限の両方を持っている。
だから僕は夢とか希望とか『奇跡』を願うんじゃなく、

「この車いすの男性(高山善廣選手)はきっと立つ!そうだよな?!
お前は立つよな?今はまだってだけだよな?」

と思ったのだ。

そして、「ドンフライ🆚高山善廣」をベストバウトとしていた僕に同率で1位の試合が生まれた当然それは当然「鈴木みのる🆚高山善廣」。

ノーコンテスト(無効試合)が僕の中でのベストバウトとなった。
この試合の先はいつ見れるのか。

介護などで使われる補助ロボットを使うとか、言葉や首から上が使えるので、そのあたりの機能を駆使してAIがもう少し進化すれば色々な可能性が広がるのではないだろうか?

立てさえすれば、鈴木みのる選手がプロレスを成立させてくれるだろう。

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