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「古本乙女」さんに話を聞きました

 聞き手と撮影=朝山実


「30代までに次のステップに行きたかったんですよ」

「古本第一」というカラサキ・アユミさんの、はじめての著書『古本乙女の日々是口実』が話題を呼んでいる。
 福岡県北九州市在住。この春、7年間勤めたアパレルの会社をやめた後、東京の出版社・皓星社から出版された。

 カラサキさんをインタビューしたのは、6月後半。皓星社さんの会議室だった。
 東京・神田神保町のビルの一室の中央に会議用のテーブルがあり、周りでは社員の人たちがパソコンをカタカタ、仕事をされていた。7月に東京都古書会館で開催するイベント(「古本乙女の日々これくしょん展」)の打ち合わせで上京されるというので、合間の時間をもらった。もちろん、初対面。いつもながら緊張しながら始めたが、向かい合っていると瞬時に場を和ませる人だった。


──本のプロフィールに「奈良大学文化財学科を卒業後、コム・デ・ギャルソンに入社、7年間販売を学んだ後に退職」とあります。ささいなことですが「学んだ」というのがちょっと変わっていて、レトロな古本集めと最先端のアパレルの組み合わせもミスマッチのように思え、実際に会って話を聞いてみたいと思ったんです。

カラサキさん(以下、省略) 「あ、ありがとうございます。たしかに常に新しいものを求める社風の会社とギャップはあるかもしれないですね」

──カラサキさんの中で、古本がごちそうグルメより上位にあるというのは、本の四コマ漫画のエピソードからわかるんですが、そもそもどうしてギャルソンに就職されたんですか?

「入社の面接のときに、『ココしか働きたいと思う会社はないと思う』。そう言ったんですけど。『あっ、落ちたな』と思いました。
 うちの母親が、わたしがお腹の中にいるころからギャルソンが好きだったんですよね。カラス族とか言われたときからのファンで、上に兄が一人いるんですが、子供を二人育ててきて、いま? 59かな。

 母親はギャルソンで、わたしはずっとユニクロだったんです。ユニクロがおしゃれだと思っていたので。

 それで、ちょっと大人になってくると、母親が着ているこの服、なんかおかしいぞ。どこが作っているんだろう。『six(シックス)』とかの印刷物も出していて、本の方に興味をもったのが最初。いろいろ知るうちに、なんかカッコイイ会社だなぁって」


「だから就職のときはダメモトでした。だって、わたしは文化服装とかモード学院とかを出たわけでもない。文化財を勉強している、こんなわけのわかんないのをとってくれたというのに感激して、これはもう一生懸命働かなきゃというので、7年(笑)」



 インタビュー記事は「週刊朝日」7/27号に掲載された。
 記事にも書いたが、写真撮影は古書のある風景の中がいいだろうと、皓星社の近くにある「古書いろどり」さんに無理をいって撮影させてもらった。
 カメラマンの小山さんは、容姿端麗ソフトタッチの男子で、古本の山の中にモデルのようにしゃがんでいる演出が密林に迷い込んだ乙女を想わせ面白かった。
 容量の加減で記事からもれた部分を読み返すと、捨ててしまうのももったいない気がしたのでココに置くこにしました。いつもながらのまとまりの悪い、ほとんど雑談だけど。

──ギャルソンでの実際の仕事は?

「店頭での販売です。こんな服(黒づくめ)を着て、お客さんにすすめていました」

──ギャルソンのお店は、敷居の高いイメージがあって、入るのに緊張するんですよね。

「しますよねぇ(笑)」

──店内がシーンとしていて、誰もムダ口をしていない。

「そうですよね。呼吸音が聞こえそうなくらい」

──店員さん同士での私語禁止とかいうルールがあったりするんですか?

「ないです、ないです(笑)。昔は、お客さんにそういうふうに思われる店ってカッコイイと思っていたんですよ。入社してから、わたしは、そういう販売スタイルは自分には合わないと思うようになりましたが。
 各店舗を、修行を兼ねて、いくつか転々としたんですが、今はだいぶフツウに近くなっていますよね」

──カラサキさんは接客で、積極的に声をかけたりするほう?

「かけるタイプでしたね。社長も、自分がこうありたいと思うイメージにそってやりなさいという人だったので、わたしはギャルソンっぽくない接客をすることで差別化を図ろうとしていました。とくに地方の百貨店のお店では、気さくで敷居の低いスタッフ像で」

──きょうの服装を見ると、ギャルソンに勤めていた人だというのに納得するんですが、スタッフの中でカラサキさんはどちらかというと変わっていたほうですか?

「わたしは、平凡というか。髪型をちょっと奇抜にするとかいうのは意識してやっていんですが、中身はぜんぜんフツウでした(笑)。
 意識の高い人が多いんですよ。オシャレな服を着るためにジムに通うとか。休みの日にお店を常に見てまわっているとか。どちらかというと、わたしの場合、土の匂いがするものが好きで。仕事の一環で、お店を見に行くことはあっても、好きで行っているのは古本屋さんですよね」

👆せっかくだからファンの人からもらったイメージバッジ?を選んでつける


──本を読むと、大阪の梅田のお店に勤務していたとき、休憩時間に電車で一駅先の古本屋さんに行ったりしていたとか?

「そうなんですよ(笑)。でも、担当しているお客さんが来られたら、戻らないといけない。電車に乗ったとたん、電話がかかってきて、急いで戻っていいました。そういう意味では、プロ意識が足りなかったかもしれない」

──でも、休憩時間なんですよね?

「うちの会社は、休憩時間であってもお客さん優先なんです」

──お店を離れてはいけない?

「暗黙の了解でそうなっていて、プロ意識が足りないと言われました。そういうカッコ良さを大事にしていたので、ドーッと疲れることもありました。常に販売のプロを目指せという会社の方針からすると、わたしは常にワキ道に逸れていっていたように思います。
 辞めるということにフンギリがついたのも、そういう方向に自分は合っていないというのを自覚したというのもありますね。古本好きという趣味がある限り、いまの仕事に全神経を集中するというのは無理だなぁと」


──呼び戻される場面もそうですが、四コマの逸話が具体的なんですよね。すべて実話ですか?

「わたし、創作ができないんです。絵を見てもらったらわかるように、『こういうことがあった。忘れないうちに描こう』というのなんです。身近に古本のことを話せる同じ価値観、趣味をもった人がいなかったというのもあって」

──漫画は正直、上手いわけではないんだけど、目にしたとたんなんか気になるというか。ヘタカワイイというか。もともと漫画を描いていたわけではない?

「はい。だから道具も試行錯誤で。紙は、無印良品で売っている四コマ専用のものを見つけて、0.3と0.8ミリのぺんてるのペンが相性がいいんですよ。
 ツイッターをやりはじめて、写真も投稿していいというのがわかって載せはじめたら、反応を返してくださる人が出てきて、調子に乗って、一日の日記感覚でやっていたのを、皓星社の藤巻さん
(前社長)が見て、なんか面白いというので本の話をいただけたんです」

──初出の表記がないということは、書き下ろしにちかいんですか?

(傍で話を聞いていた藤巻さんが)「ツイッター上に載せていた四コマに、プラスしてもらいました。それなら組版は要らずに安く出来るので(笑)」と説明する。安くなるを強調するのはテレを含んだ冗句らしい。


──四コマで印象深いのは、おしゃれな格好をして古本屋さんに出かけ、重いビニール袋を肩や腕に提げたりするものだから、一日で新品の服が毛羽立ちダメになったという。

「あれも実話です。唯一わたしがギャルソンに勤めていたスピリッツを古本に注ぎ込むとしたら、古本に対する世間的なイメージとしてある『古本好き=ダサい』を変えたい。なので、鶏のトサカみたいに見える服を着て行ったりしてたんです(笑)」

──古本屋めぐりをしていて、顔が真っ黒になるというのも。

「はい。鼻の中まで黒くなります(笑)。
 埃に汗が化学反応を起こすのか、顔が痒くなったりしますね。指の逆ムケからバイ菌が入って腫れ上がったという話を聞いたことがあったので、除菌シートは必携ですし。服も一度失敗してからは、二軍くらいのものにするようにして、色味も黒、これだと汚れがごまかせる(笑)。

 天気のいい日にパンパンと服を叩くと、キラキラとするんですよね」

👆東京古書会館「これくしょん展」で(以下、展示撮影同)


──本の中のエピソードでインパクトがあるのが、「エロ本を棚買いした女」という噂なんですが。

「あれはSNSのすごさですね。『いま特売会でカラサキさんが好きそうなエロ本がいっぱい出ているよ』と教えてくれる人がいて、すぐにお店に電話したんです。
 店主さんが電話に出られたので、『そこにいま何冊くらいありますか?』『60冊くらいあるかなぁ』『すみません。題名だけ言ってもらってもいいですか』『いいですよ。週刊実話にSMセレクト……』『じゃ、箱で送ってもらえます?』というやりとりを職場のトイレで、休憩時間に口元を隠し、声をひそめてやっていたんです」

──トイレの中で、ひそひそ電話しているのはコントみたいですね(笑)。

「古書の特売会って、コレという本は一瞬で売れていくんですよ。
 メールで教えてもらったのが出勤時間で、昼の休憩までにあと3時間もある。もうこらえきれず、店長に『おなかが痛いので、ちょっとトイレに行ってきていいですか?』とウソをついて、私物置き場にあるケータイをハンカチに包んでトイレにかけこんで」

──ますますコントだ(笑)。


「電話で、こちらの要望を伝えるのって難しいので、『あのぅ、わたしが好きなエロは、エロすぎないエロで。ビニ本、モザイクはアウト。エロくないのにエロを狙っているよ、ハハハというのが好みなんです……』と小声で話していたら不審に思われたみたいで、『すみません、いま職場から電話しているものでぇ』『ああ、わかりました。キワドイのは嫌いだということで、じゃ選んでお送りします』と言ってもらえ、ホッ。
 トイレに神様はいるんだと思いました」

──ハハハハ。珍しいですよね、女の人でエロ本を集めているというのは。

「海外とかの露骨なものはダメなんです。『オバカだなぁ、フフフ』と思わせるものでないと。
 一口にエロ本と言っても時代性があって、80年代以降のものはアウト。カストリとか言われていたものも、最近ちょっとオシャレな扱いを受けているのでアレなんですが、モデルさんもあまりキレイじゃない、ツチくさいものが好きなんです」

──ツチくさいの(笑)。好きになるきっかけみたいなことがあったんですか?

「『芸術新潮』という雑誌で、エロチカの特集をしていて、エロなのにエロさを感じない。これは何だろうと興味がわいてからですね。
 それで、さきほどの本屋さんからダンボールが届くまで、どんな本が入っているのかドキドキだったんです。金額も相当なもので。1冊400円から500円のものを、まとめて買うというので半分くらいにしてもらい、全部で1万円ちょっと。『配送料はいいです。これも何かのご縁なので』と振り込み明細書に手紙が添えられていて、また感激して。
 その半年後に東京に行ったときに、その店長さんと会うことができたんですが、しばらく
(神田の)古書会館界隈では、女がエロ本を買い込んだというので話題になっていたそうです。説明が長くなってすみません」

──創作落語につかえそうな、いいネタですね(笑)。

「そうなんですよ。今日、こうやって言えてウレシイです。知らない人に言ったら『は?』と返されるだけでしょう。しかも、わたし、つい興に乗ると前のめりになってしまうんですよ。ストップかけてくださいね」


👆「これくしょん展」のメインはカラサキさんが古書店で買い集めたエロ本の数々。しかし、それだけではない。まったく知らない他人の写真アルバムやスクラップもあり「人が見ればただのゴミ」という一言がスパイシーだ。


──でも、古書市はそんなに一刻一秒を争うような空気なんですか?

「場所にもよりますが、規模の大きな即売会になると、会場の前に入場規制のロープが張ってあって、時間前に目録をもったおじさんたちが並んでいるんです。各お店の常連さんだと思うんですが、この日を待ちわびていたという様子が漂っているんです」

──そこに若い女性は?

「あまりいないです。だから『なんや、この小娘は?』みたいな視線を投げつけられますよね。女の子ということでやさしくしてもらえるんでしょうと言われるんですが、そんなことないですから」

──ないんですか?

「まったくないです。みなさん、女子より古本です(笑)。
 開場になったとたん、杖をついていたオジイチャンが走っていますから。目指すものを取り合うには、もう体力勝負ですからね」

──ますます落語だわ(笑)。

「面白がってもらって、ああ、よかった。でも、わたしが好きなエロ系のところは人が少なくて、だいたいダンボールの箱に入っているんですよ」

──箱に入っているというのは低価格ということですか?

「表紙が色褪せたり、傷んでいたりして、状態がよくなかったりする本だとか。わたしは、中身さえ見ることができたらいいので。美本だと3000円なんだけど、破れているから500円というのが狙いです」

──表紙が破れていても、いい?

「いいです、いいです。美本コレクターじゃないので。しかも、わたし視力が悪いんです。O.5なくて、ふだんコンタクトもしていないんですが、古本を漁るときだけ驚異的に視力が回復するんです」

──本当かなぁ。

「本当なんですよ(笑)。眼鏡がダメなのは、汗をかくとこびりつくし、本を漁っているうちにメガネがずり落ちて、直すのも煩わしい。
 裸眼で漁るんですが、遠くを見るときに『艶』とか『女』とか『欲』といった文字には鋭くカンが働くんです。街を歩いていても、『古本』という看板は目ざとく見つけますし」

──なるほど。そうだ。カラサキさん最近、床屋さんを撮った写真集を買われたことがあったでしょう。林朋彦さんの『東海道中床屋ぞめき』だったか『トコヤ・ロード』だったか。

「『トコヤ・ロード』ですね。いい本ですよね。そうか、もう一冊出されていたんですね」

──その写真家の林さんが『古本乙女』を買われてファンになられてみたいで、今度インタビューするので質問ありますかと訊いたら、「知らない本屋さんに入るのに、ためらったりしませんか?」ということだったんですが。

「しないです。ためらっていたりしたらソンですから」

──ソンね(笑)。というのも林さんは、昭和の匂いのする古屋さんの外観を気になって、旅をしながら写真を撮らせてくださいと頼むんだけど、客ではないから遠慮があるんですよね。しかもシャイだし。カラサキさんはその点、お客さんですものね。

「林さん、あとがきに『撮っていいよ』と言われるまでガチガチだと書かれていましたね。たぶん、床屋さんと違い、古本屋さんは対象が本というのもある。入る前に店主さんをイメージするようだったらドキドキするんでしょうけど。
 ただ、入ったからには、一冊は何か必ず買いたい。旅の記念に写真を撮るのに似ていて。でも、一時間いて一冊も欲しい本がないということもあって。だから、入店してからの葛藤はあります」

──ないときは、どうするんですか?

「苦しまぎれに買うこともあります。でも、そういうところで買った本が、あとで何かにつながるということもあるんですよ。昔買った写真集のモデルになった人が書いた本だとか」

──どこで買ったとかいうのは記憶しているんですか?

「覚えていますね。わたし、人の顔をなかなか覚えられないんです。接客業をやっていたのに(笑)。ただ、仕事に関していうと幸い、お店に来られるお客さんは特徴をもった人が多かったので、覚えやすかったというのはあるんですが、それ以外となると学校時代の友人にバッタリあっても、『ああ、誰だろう……』というのはありますね」

👆展示場の壁に手書きの古書店めぐりのリポートが張り巡らされていた。さらに会場までの階段にも👇


 ところで『古本乙女……』だが、通常はヨコに巻くオビを、古書店でよく見かけるタテの短冊ふうのものにしたり、値段のシールを付けるなど、シャレた遊び心があふれている。でもって、独特の四コマ。ちょっとつげ義春を思わせる旅情感のあるエッセイもあり、列車の中で広げる弁当のようなのだ。

「あのオビは表紙の絵のやりとりをしていくうちに、『これタテオビにしたら面白いんじゃない』と藤巻さん(企画者で皓星社前社長)から言ってくださって、字はうちのお婆ちゃんに書いてもらったんです。今年95歳で、書道の師範代をもっているんです。
 ふだん車椅子で、冥途の土産に書いてよと頼んだら『いいよ』って。震える手で」

──いかにも古本屋に並んでいそうで、リアルですよね。

「値段のシールも、今回この本は古本屋さんにも置いてもらっているんですが、『これ、みんな剥がそうとするんですよ』と言われました」

 さきほどの藤巻さんの「紙を別に印刷して張り付けるのもいいかなとも思ったんですが、そうすると高くなりそうで(笑)」。どうしても1000円の定価はキープしたかったという。

「でも、ある古本屋さんが、自分が読み終わったものを『初版・サイン本・レア』と目録に出していたら、1500円で買ってくださった人がいたそうです(笑)」

 出版されて間もなく、神田の東京堂書店の5月のベストセラートップ10に4週連続入りし、たまたま1位になった日にカラサキさんのご両親が上京して目にしたという。

「勤めを辞めたあと、わたしが喫茶店でバイトしていた日に、『来ました』と母親からメールが届いたんです。本が置いてある前で、父が写っている」

──いいご両親ですね。

「はい。相当、道に迷って見つけたみたいで、いい両親だと思います」

──ごきょうだいは?

「兄が一人で、東京で働いています。わたしとは正反対で、物は極力持たない主義。わたしが蝶々を追いかけているときに、机に向かって勉強していたようなタイプです」


──そろそろマトメっぽい質問になりますが、勤めを辞め、本が出て、カラサキさんはこれからどうされていくんですか?

「この古本の趣味には終わりがない。好きな本については変化していくと思いますが。わたしのベースは『いま目の前にある楽しいことを追いかける』。29年間、幸いそれで嫌な思いをしたことは一度もないので」

──いいですね。なんか坂本龍馬みたいで。

「もちろん仕事のストレスとかはありますが、それは誰しもあることですよね。漫画の中にも出てきますが、マンガにも出てくる相方と今年結婚したんですが、遠方の古本屋さんに行くのも一人で、『そんなダンナさん置いて』とよく言われるんです。でも、もう十年の付き合いなので。
 わたしが専業主婦とかにはなれないのもわかっているので、自分の遊ぶ分は自分で稼ぐことにして、喫茶店でいまバイトしています。なので、将来の展望はわかりません(笑)」

 その喫茶店は、アパレルの仕事をしていたときに毎朝モーニングを食べに通った昭和な匂いのするお店だという。

──本は増刷も決まったとか、評判もいいですよね。漫画や文章の仕事をしたいとか思ったりしないんですか?

「それは、もらえたら全力投球したいですけど。今回のことも、わたしはベースをつくってもらったら乗っかるのはできるんですが、イチからこういうことをしたいと自分から仕掛けるということができない性格なので」

──ツイッターに漫画を載せていたといわれてたので、出版社の人が声をかけてくれるのを狙ってやっていたのかと思ったら、そうじゃないというのがいいですね。たとえばnoteというところとかを使うとかいう発想はしない?

「ノート……わたし、アナログなんで、よくわかっていないんですよね」

──いいなぁ。写真の仕事をしたいとか漫画家やライターを目指している人たち、プロアマ混在で作品発表をしたり日記を書いたりしている人が多いんだけど、カラサキさんの場合、天然というか、ただ自分が好きでやっているというのがいいですよね。

「ああ……。いま褒めてもらっているんですよね(笑)」

──かなり肯定しています(笑)。というのも、本のどこにも初出が明記されていなかったもので、この人はどのようにして本の出版に至ったのか、不思議だったんですよね。

「わたしは、絵もどこかで専門の勉強をしたわけでもないですし、でも、デッサンがちゃんとしていないのが良いとか。書店員さんが『絵も決して上手くはないのに、何か伝わってくるものはある』とPOPで書いてくださったりして、素人が無我夢中でやっていると面白いと思ってくれる人がいた。そのことにいま自分がいちばん感動しています。
 古本もそうですが、とってもアナログなんですよ。自分のサイトをもっているわけでもないし、パソコンもこうやって
(前かがみになって指を立てて)打っているんです」

──指をたてるのは、わたしもそうなので共感ポイントになります。ギャルソンにいたひとのイメージじゃないなぁ(笑)。

「あ、でも、ギャルソンはアナログなんですよ。すごく前衛に見えるんですけど、ちなみにわたしのいた店舗ではパソコンもかなり旧式のビジネス用のものを使っていましたし、わたしたちが社長や営業宛てに送る日報も手書きですし、会社からの通達もFAXですから。良い意味ですごいアナログな環境にいたおかげで、取り残された感覚もなかったんですよね」

──へぇー。それ、すごく意外ですね。

「発信することに関しては最先端なビジュアルや場所を選んでいたとは思うんですが、アーティストさんに関しても、あえて知られていない人を使ったりする。カッコイイ会社だなぁと思っていました」


──そこに7年いて、職場の人たちにはカラサキさんが古本好きは周知だったんですか?

「たぶんバレていなかったと思います。趣味の部分についてわたしが、仕事に出したくはなかったので。一回だけ、買ったばかりの本が鞄の中から見えていて、店長さんから『こんな本を持ってきて』と注意を受けたことがあり、わたしも負けん気が強いんで、『仕事は徹底してやるぞ』と躍起になったこともありました。
 そういうふうにちょっと頑張りすぎて、疲れていたことはありましたけど、コム・デ・ギャルソンで働いている人が休日に顔を真っ黒にして、鼻水たらしながら昔の春画本とかを漁っている。それが逆にギャルソンっぽくていいと退職する日に言ってくださる人がいて、もう涙が出ました」

──いい話ですね。では、最後に3つ質問させてください。まず、カラサキさんにとって、いちばん古い記憶を教えてもらえますか。

「えーと……。山口に住んでいたときだから、6歳のとき。古いものが積み上げられた倉庫みたいなお店があったんです。
 そこに母親と連れられて行ったときに、ぼろぼろの浮世絵の紙があって。和紙で綺麗だったんですよ。それを買ってもらって。『変わっとる子やねぇ』とお店のオジイチャンに言われたのと、それを真似してお絵かき帳に描いていたのは鮮明に覚えています」

──浮世絵を模写していたというあたり、後の古本収集につながりそうですね。

「そうかもしれないですね。小中高の記憶は、あんまりないんですが、それだけはよく覚えています」

──二つめの質問ですが、一番は口にせずに二番目にいま、大事なもの、もしくは大切にしていることを教えてください。

「え……なんだろう。……なんだろう。
 ……これは二番にあげたらいけないのかもしれませんが、主人とのやりとりですね。結婚して、これから常識的に向き合わないといけないことが出てくると思うので」

──なるほど。では、最後の質問です。最近、何日かしたら忘れていそうな「ちょっと嬉しかったこと」は何ですか?

「えー……。一昨日ですが、中学生の制服の女の子たちがウチの喫茶店に来たんです。
 どうも部活帰りに入ろうかどうしょうか思案していたみたいで、たまたま外で花を活けていて『おいしいよ』と声をかけたら、友達と来てくれた。それが嬉しかったですね。どちらかといと忘れたくない出来事ですけど」

 3つの質問は、いつもインタビューの時間に余裕があるとしているが、とくに何か意味があるわけではない。ただ、答えを考えている表情を見ているのが楽しかったりする。
 どの質問にもカラサキさんは、じっくり考えこむ仕草をしていた。一期一会のインタビュアーとして、その場その時を大事にする人だという印象をもった。


東京古書会館での「古本乙女の日々これくしょん展」(7/20~8/4)の詳細は👇
http://www.kosho.ne.jp/?p=201

カラサキさんのTwitter☞ ttps://twitter.com/fuguhugu

週刊朝日7/27号の「書いた人」の記事を読む☞https://dot.asahi.com/wa/2018071900011.html





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