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『うんこと死体の復権』×『うんこ虫を追え』


8/17㈯19:00~20:45
浅草・Readin’Writin’ BOOK STOREにて
「インタビュー田原町番外編 舘野鴻さんにきく」をします


ポレポレ東中野で絶笑上映中!
イラストは舘野さん


ドキュメンタリー映画『うんこと死体の復権』の中に登場する3人のメインキャストのひとりにして、
『うんこ虫を追え』を先ごろ刊行されたばかりの絵本作家・舘野鴻(たてのひろし)さんと、
映画プロデューサーでカメラ越しにその仕事ぶりを見つめてきた前田亜紀さん、
おふたりをゲストに「インタビュー田原町」の番外編を行います。



 
昨春から始めた、ノンフィクションの書き手に話をきく「インタビュー田原町」も今回で14回を数えることになりました(番外編は2回目)
今回のゲストは、お二人。

先ごろ『どんぐり』(小峰書店)で日本絵本賞を受賞された、絵本作家の舘野鴻さん。
『NO選挙,NO LIFE』の監督で、『うんこと死体の復権』(関野吉晴監督)では監督助手として現場に就かれ撮影も担当された前田亜紀さんです。

前半は、前田さんから、映画撮影中に聞けなかったことを舘野さんにたずねてもらう(舘野さんからも問い返してもらう)対談にアサヤマが進行役としてかかわります。

前田さんは、
探検家にして文化人類学者の関野吉晴さんが武蔵野美術大学のゼミで行った「カレーライスを一から作る」授業を、一年取材。
米や野菜だけでなく塩にいたるまで食材すべてを手作りする。なかでも、学生たちが鶏を飼育し肉にする過程で起きた論争を見つめた『カレーライスを一から作る』がドキュメンタリー映画監督デビュー作(同タイトル本も、ポプラ社刊でロングセラー)。
昨年は、選挙取材に没頭する“選挙漫遊師”畠山理仁を追った『NO選挙,NO LIFE』を監督、並行して『カレーライスを……』の縁から、関野の初監督ドキュメンタリー映画『うんこと死体の復権』にも3年以上携わり、撮影、プロデューサー(大島新と)も務めてきた。

Readin’Writin’ BOOK STOREの本棚から

舘野さんは、
生態系を循環の視点から見直そうとするドキュメンタリー『うんこと死体の復権』に登場する、三人のキーパーソンのひとり。
マウスの死体やうんこを食べて生きる虫たちを何年にもわたって観察し、生態を理解したうえで細密な絵に描いていく絵本作家。映画では、マウスの死体に集まる様々な虫たちを観察する日々を追っている。
先ごろ、「どんぐり」の落下、鳥にくわえられ、鹿に新芽を食われ、、と森の移ろいを描いた文字のない絵本『どんぐり』(小峰書店)で、日本絵本賞を受賞。

『どんぐり』から


最新作は『うんこ虫を追え』(福音館書店)。フンを食べる虫たちを観察。虫ばかりではなく、観察する自身もポートレイトふうに描きだしていて、これが何ともコミカルで、虫ぎらいのワタシもつい見入ってしまった。

『うんこ虫を追え』から


前半は、撮る側と被写体、映画を通して、それぞれの眼に見えていた互いの仕事への疑問、聞きたかったけど聞きそびれていたことなどを話してもらおうと考えています。ざっくりいえば舞台裏のはなし、ですね。

後半は、アサヤマが聞き手となってこれまでの「田原町」同様、舘野さんをインタビューします。
『うんこと死体の復権』を観て、はじめて舘野さんのことを知りました。
じつはわたし、農家育ちなんですが、すっげぇ虫ぎらい。プロデューサーの前田さんから、こんな映画があるんですけど、ひとによってはそういうのはダメといわれることがあり、、とボソボソ小声のようなメールをいただいたのが、舘野さんを知るきっかけでした。
タイトルからもわかるように、まあ、トンデモナイ映画です(笑)。

試写室を出たときは、頭の中はぐらんぐらんして、考えがまとまらない。うんこや虫が出てくるのが嫌だとかいうのはあるにせよ、なんだこりゃ、でした。3日くらい脳ミソが沸き上がっていました。オーバーでなく。

ただ、この番外編のために、舘野さんがゲストのトークイベントがある日にポレポレ東中野に行ってみました。
正直、うつうつとしていました。もう一回観るのに耐えられるかなあと。

二回目は、見慣れてくるというのか。目を覆いたくなった場面もわりと淡々として見ていられたし、アレルギー反応を抱いたところも、違和感はあるものの冷静に眺めることができたんですね。虫も。

この間、ずっと前回のゲストの金井真紀さんが書いた『虫ぎらいはなおるのか?』(理論社)という、虫ぎらいの理由を、虫とかかわる人たちにきいていくルポをお守りみたいにして読み返してきました。

そうかなあと思ったのは、認知科学の先生が虫ぎらいをなおすには「見慣れること」だと話す場面。
嫌悪は、知らないことから生まれるという。
理解できないから、嫌悪感を抱く。なおすには、よく見てみることだ、と。外国人に対するヘイトや差別に関わる問題にも通じることかもしれません。

『うんこ虫を追え』はある意味画期的な絵本で、たしかに最初はムシ、、、いやだなあ。
こういう機会でもないと手を出さなかったかも。
でも、描かれる虫が色鮮やかなレインボー色で身を飾っていて(うんこ虫なのに)、見つづけていると、慣れかけている。
なにより映画の中に出てくる舘野さんが面白そうなひとでし。

日本絵本賞のパーティーで。
受賞作のタイトルどんぐりに扮して。
撮影©️前田亜紀


上の写真を告知に使ってもいいですか、と尋ねたところ、
舘野鴻さんからこういうのはどうですか、といただいた著者近影
青年期に演劇に関わっていたというはなしですが、田原町にも来ていただいた大川豊さんをつい連想したりしました。


冷凍マウスをエサに死体に集まる虫たちの生態を観察研究(仮説を立てては失敗しながら)、
ある日は子供を集めた野外活動で、たぶんバッタに見えたのを揚げてワイワイ言いながら一緒に食べる(わたしは、ぜったいムリと思ったけど)のを見ていた。

興味を惹かれたのは、それとは異なる、大学時代にタテカンを書いていたという話。演劇に関わり、身体を使う労働に就いたりしながら、絵本作家になったのだという。それも虫が専門。厭われがちな「しでむし」「うんこ虫」を選んできたこと。

学生運動はとっくに退潮していた時代にタテカンを書いていた。その人がどのようにして虫の世界につながっていくのかを知りたいと思った。
というのも、大学に入って間もない頃、タテカンを描いているひとの背中を長いこと見ていたからなんでしょう。「やってみる」と言われ、刷毛を手渡されたものの一文字試して「あ、ダメ。センスない」と即アウト。そんなことを思い出したりしたのです。

『うんこと死体の復権』について補足すると、試写室で見たとき耐えられなかったのは、ゆるい査問を受けているような圧迫感でした。
虫やうんこは「見ない」ことで我慢もできます。が、野糞から生態系の循環を見つめなおそう。これまでの暮らし方を反省し、自然にやさしいライフスタイルの提案に、おおむね「そうだね」と賛同はするものの、いっぽうで背中を押されるというか、「で、あなたはどうなの?」と迫られているような居心地の悪さがしたんですね。

たとえば、この半世紀でトイレを使ったのは20回にも満たないという、野糞生活の実践者のもとに共感者たちが訪ねてくる。仮にわたしが取材者としてその場にいたら、逃げ出しただろうなあというのが、土を口に含む場面です。

グルメ番組で変わったキノコを食するかのように、土の触感と風味を語り合う。この場面にはアレルギー的な違和感を抱きました。
その土は、ひと月ほど前まではうんこだったもの。すでに原型はない。とはいえ、口に含んで笑顔で何か言うというのは、ムリ。
個人的にはキリストの踏み絵のように思えたんですね。
まあ、その場に居合わせても「食べてみない」と声をかけられもしなかったでしょうけど。

映画を劇場で再見してよかったのは、冷静に見直すと「穏やかな場」であるというのは理解できたことです。
ただ、初見の際に嫌と感じたのも確かで。サークル的な圧みたいなものが虫以上に苦手で、どうも心身が過剰反応するのでしょう。

いっぽうで「映画」としては愉快に笑う場面が幾度もありました。

「うんことわたし、どちらをとるの?」
50にして結婚。そのときはまだキノコを撮る写真家だったとか。
10年後に離婚した妻に、問われたのだという。考えに考えた末「うんこ」を選んだんだろうけど、爆笑してしまいました。

妻に捨てられたわけではなく、妻がうんこに負けた。
以来、彼は野糞をするための山を買い、求道者のような生活を続けているようですが、訪ねてくる人たちが多く、カメラが捉えた彼はじつに楽しそう。質素ながら生活に不自由はないし、いきいきしているように見えた。話しぶりとかも穏やかで、いいひとだし。

『うんこ虫を追え』は、フンを食べて生きるオオセンチコガネ(カラフルで色合いは宝石っぽい)を飼育する経過を描いたもので、観察の仕方は、昆虫記のファーブル(苦手なりにもちょっとだけフンころがしの話などは読みました)。
失敗しては原因を探り、別の仕方で再トライする。これを繰り返し、ひとつの絵本を描きあげるまでに数年を費やしている。

「飼育となると……あ、うんこの調達か。やだなあ」

絵本の中で、作者がつぶやくのを見て、安堵しました。やだよねえ、と。
観察する作者自身も、絵にしているのもイイ。
怪獣映画の『モスラ』ですら避けたいので、ようやく育った幼虫が出てくるあたりから、頁をめくる手がびくびく。それでもまあ、見慣れてくるもの。好きにはなれないですが。


インタビューでは『うんこ虫を追え』をはじめ、『しでむし』(偕成社)、『どんぐり』(小峰書店)、それに『ソロ沼のものがたり』(岩波書店)をテキストに創作の背景などを聞いてみようと考えています。

とくに『ソロ沼』は児童書のジャンルに入るのだろうけど、片眼の痩せこけたカエルが「ソロ沼」と呼ばれる桃源郷?をめざす冒険ものがたりにして、途中目にするたくさんの「生と死」を描いている。

情景の挿絵はあるものの、虫も動物もワンカットも描かれていないのが特色です。できたら、この本のはなしを舘野さんと当日すこししたい。

■日時 2024年8月17㈯ 18:30開場/19:00開演~20:45(終了後サイン会あり)
■会場 Readin’Writin’ BOOK STORE(東京都台東区寿2丁目4−7 地下鉄銀座線「田原」駅下車2分)
※今回会場参加のみ、オンライン配信はありません。
■会場参加券/1500円
※本の販売と終演後にサイン会。
ご参観いただいたひと全員に、舘野さんから特製ポストカードのプレゼントがあります。

ゲスト
舘野鴻(たての・ひろし)さん
1968年横浜市生まれ。故・熊田千佳慕に師事。演劇、現代美術、音楽活動を経て生物調査員となり、国内の野生生物全般にふれる。その傍ら、教科書、図鑑などの生物画や景観図、解剖図などを手がけ、写真家・久保秀一の助言を得て2005年より絵本製作を始める。
著書に『しでむし』『つちはんみょう』(小学館児童出版文化賞受賞)『がろあむし』(以上、偕成社)、『ソロ沼のものがたり』(岩波書店)、『どんぐり』(小峰書店)、『うんこ虫を追え たくさんのふしぎ傑作集』(福音館書店)など。

前田亜紀(まえだ・あき)さん
1976年大分県出身。2001年よりテレビ番組の制作に携わり、フリーランスのディレクターとして活動。12年より大島新と組み「ETV特集」「情熱大陸」「ザ・ノンフィクション」「NONFIX」などでテレビドキュメンタリーを制作。16年『カレーライスを一から作る』を監督。ポプラ社より書籍化。大島新監督『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川一区』『国葬の日』、ダースレイダー&プチ鹿島監督『劇場版 センキョナンデス』『シン・ちむどんどん』ではプロデューサー。23年『NO選挙,NO LIFE』監督を務める。

聞き手
朝山実(あさやま・じつ)
1956年兵庫県生まれ。書店員などを経て1991年からフリーランスのライター&編集者。
人物ルポを中心に今年5月に休刊した「週刊朝日」で30年間「週刊図書館」の著者インタビューに携わってきた。著書に『父の戒名をつけてみました』『お弔いの現場人 ルポ葬儀とその周辺を見にいく』(中央公論新社)、『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店)、『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP)など。
編集本に『「私のはなし 部落のはなし」の話』(満若勇咲著・中央公論新社)、『きみが死んだあとで』(代島治彦著・晶文社)などがある。

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