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“インタビュー田原町04”は、映画史家の伊藤彰彦さんです。

 
『芝浦屠場千夜一夜』の山脇史子さん(01)、『ジュリーがいた』の島﨑今日子さん(02)『ルポ 日本の土葬』の鈴木貫太郎さん(03)につづき、
10/14(土曜)の“インタビュー田原町04”は、先ごろ、
『仁義なきヤクザ映画史 1910-2023』(文藝春秋)を書かれた
伊藤彰彦さんをお招きし、
Readin'Writin' BOOK STOREにて公開インタビューを行います。

 

先日、阿佐ヶ谷のミニシアターで上映されていた『極道の妻たち 死んで貰います』(関本郁夫監督・1999年)を観に行きました。都市開発でいまはもう見ることのできない景色を撮影してあるというので。
主要登場人物のひとり(東ちづる演じる)が、生まれ育った場所を偽りながら水商売の世界で伸し上がろうとする。観ておきたかったのは、京都駅にちかい川べりの被差別部落をロケし、彼女のバックグラウンドが語られる場面です。
川に沿いバラックの家が並んでいる中に、瓶のラムネを売る駄菓子屋があり、そこから川へ下りていくと、クラブのママをしている東が川面に足を伸ばしチャブチャプさせている。
そこに昔のホステス仲間で先輩にあたる、いまは「極道の妻」の高島礼子が声をかける。問われて東が生い立ちを語るという流れですが、伊藤彰彦の『仁義なきヤクザ映画史』を読むと、はじめてカメラ撮影が可能になったこと。なぜここでの撮影に製作者たちがこだわったのかを解き明かしていて、わたしが『私のはなし 部落のはなし』(満若勇咲監督)というその崇仁地区を撮影したドキュメンタリーのメイキング本の編集に携わったこともあり、これは目にしておきたいと思ったのです。
伊藤さんがいうように、行間を読ませる、重みのあるドラマシーンでした。
ちょうど関本郁夫監督特集が組まれていたこともあり、平日の昼間、シニア男性が30人ほど。劇場で、ヤクザ映画も『極道の妻』も観るのはこれが初めてで、ぐるりを見まわし、客席に女性がひとりしかいないのが残念に思いました。

今回、伊藤彰彦さんをインタビューするにあたり、最新刊の『仁義なきヤクザ映画史』(文藝春秋)だけでなく、『映画の奈落 完結編』(講談社文庫)、『最後の角川春樹』(毎日新聞出版)、『無冠の帝王 松方弘樹伝』(講談社)にも触れたいと思っています。
4冊を通して感じたことは、伊藤さんの取材準備の入念さです。
松方弘樹の自伝を書くにあたり、巻末資料に彼が出演した映画作品の一覧が掲載されていて、その数197本。インタビューする際に伊藤さんは、おそらくほぼすべての作品を確認したのではないか。そう想わせるやりとりがインタビューの対話からうかがえました。
特筆すべきは、シナリオを見せつつ、完成した映画の場面とのちがいを指しながら訊いていく。当然、応じる松方も身振りをまじえあふれんばかりにノッてくる。そればかりか、関係する何人もの監督に周辺取材を行ってもいる。本人からの聞き書きで終わらせていないことです。
その取材の仕方は、角川春樹に対しても同様。「よく覚えているね」と驚かせ、これまで口にしてこなかったであろう逸話を語りだす場面が何度も。読者としても驚嘆させられます。

全17章。
各章でインタビュー取材しているのが、西川美和、阿武野勝彦、土方宏史(※土に「、」が入る)、安田好弘、玉川奈々福、原一男、小林まこと、保坂正康、加賀まりこ、かわぐちかいじ、安田浩一、平井玄……。多様な60人ちかい取材者リストを目にした中には、どうしてこのひとが?という人選もあり、それも読めば謎が解けていくのもすごいこと。

圧巻なのは、『仁義なきヤクザ映画史』における小林旭インタビュー。映画のDVDを共に見ながら訊ねていく。
言うのは簡単ですが、話を聞きながら、このシーンですが、と操作するのも大変だし、事前の準備にしてもそう。だからこそ小林旭もまるで昨日のことのように「時効だろうから」と語りはじめるヤバイ話の面白いこと。
インタビューは、聞き手によって話し手の姿勢も内容も大きく変わるもの。読みすすむうちにこれまでさほど興味のなかった彼らに親しみを抱き本を閉じました。
今回は、取材して書く同業者というよりも一から勉強するつもりで、伊藤さんのインタビュー術、取材術について教わろうと考えています。

侠客の起点たる『任侠 祐天吉松』に始まり、『仁義なき戦い』を経て、『孤狼の血』に至るまで、執念の取材で、ヤクザ映画100余年の修羅に踏み込む。そこに映し出される「暴力の近現代史」を描き上げる画期的労作”(帯の文章から)

話し手
伊藤彰彦(いとう・あきひこ)さん1960年愛知県生まれ。映画史家。ノンフィクションライター。98年、シナリオ作家協会大伴昌司賞佳作奨励賞受賞。著書に『最後の角川春樹』(毎日新聞社)、『無冠の男 松方弘樹伝』(講談社)、『映画の奈落完 結編 北陸代理戦争事件』(講談社+α文庫)など。

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