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生活保護は令和時代に適応できるのか?その2~扶養照会について。

こんにちは。生活保護ケースワーカー(CW)のものかきもどきです。

緊急事態宣言も解除となって、近々職場に復帰できることになりました!働き始めると子どもと寝落ち間違いなしでこのnoteが続けられるか少々不安です。。。ともかく、今日です。

前回の記事では、生活保護受給者が自動車を持てないことについて、時代の変化から見直す必要もあるのでは?と書きました。

今回の記事では、個人的にはもっとも形骸化しており令和らしくない(笑)と考えている扶養照会について、制度の説明とより良いあり方を考えたいと思います。


扶養照会とはどういうもの?

生活保護を申請した際に、必ず説明を受けるのが、親族の方に「援助ができませんか?」と尋ねるお手紙を送りますよ、ということです。これを、扶養照会、と呼びます。

というのも、生活保護には「捕捉性の原理」というものがあり、働ける能力や持っている資産、親族からの援助など全てを活用した上で、それでも生活できない、という人のみ生活保護を受けられる、とされているのです。

ですから、原則として扶養照会を避けることはできません。

どこまでの親族に送るのか、民法の扶養義務は三親等以内とされていますが、私の勤務している福祉事務所では、本人からみて、親・兄弟・配偶者・子までです。

子、に関しては例えば両親が離婚して1歳で母親に引き取られた。なので、父(生活保護受給者)のことは全く知らない、といった場合でも扶養義務は発生します。なので、ある日突然扶養照会が送られてきて( ゚Д゚)!!なんてこともあります。(幼少期から交流がないので、と本人から申し出があれば送らないこともあります)


「金銭の援助できます!」というお返事は1000通に1通くらいしかない

そのように扶養照会が定められているので、CWはせっせと扶養照会を送ります。相手から拒否の連絡があった場合や、高齢で援助可能性がないと判断した場合などを除き、受給中にも3年に1度ほど送ります。返事がなければ毎年送ることもあります。

まるでマシーンのように「あなたのお父様は生活保護を受給しています。…現在の交流状況や援助の可否についてお知らせください」と打ち込み、回答用紙をつけて送ります。

扶養照会する為に、戸籍謄本を辿りに辿って親族の住所も調べます。自治体だからポチッと押すだけで住所がわかると思ったら大間違いです。全国各地からその人の親族の謄本を取り寄せて、離婚して除籍になってたらまたその先を追いかけて…親族が多い人だと、謄本だけで50枚超えの資料になることも…(生活保護のペーパー主義については過去記事で触れました)

で、こうした膨大な労力をかけて送った扶養照会で、月々1万円(例えば)金銭の援助ができます!とお返事がくる割合は…あくまで私の体感ですが、1000通に1通です。CW歴3年の私でも、5本の指で足りるほどしか経験したことがありません。

もちろん、金銭の援助ではなく、電話や訪問で交流ができる、と回答して下さる方はたくさんおられます。また、過去家族で色々あり、こんな手紙見たくもない!という厳しいお返事やお電話も頂きます。双方とも、全く責めるようなものではありません。それぞれのご家庭の事情です。当然です。


扶養照会は本当に必要!?

私が言いたいのは、金銭的援助をもらえる可能性がほとんどないのに、ここまでして送る必要あるのか!?ということです。

受給者の方は、みんな扶養照会は送ってほしくないと思っています。これは確実に言えます。例え形式的なものであったとしても、親族に援助を求める手紙が公的機関からいくことに、罪悪感を感じない人などいるでしょうか。

扶養照会が嫌で、保護を辞退する方もおられます。また、扶養照会があるから保護を申請できないでいる、という方も相当数いると考えています。

そもそも、40歳の成人男性に対する援助を75歳の母親に求められますか?40歳の成人女性に対する援助を20歳の息子に求められますか?

法律的にではありません。心情としてどうか、という話です。

私自身は求められないと思っています。なので、心苦しく思いながら扶養照会を送ります。可能なら、電話や訪問して頂くだけでも十分ありがたいですよ、というニュアンスを込めています。


どんどん家族観が変わる今…扶養照会はどうしていくべきか?

生活保護制度ができた当初の昭和初期には、親族で援助しあうのが当たり前だったかもしれません。

戦争で困窮したすべての国民に生活を保障せねば、という趣旨で始まった制度です。困窮していない人の方が珍しい時代に、扶養義務を果たした上で申請するのは当然、という考えはあったと思います。

ただ、そのときの家族観と今の家族観は全く別物だと思います。

老親の世話を子どもがするのも当たり前ではありません。子どもの育ちの責任を親が一元的に担う訳でもありません。家を出たら兄弟とは全く連絡を取らない人もいます。性的マイノリティー同士で暮らす新しい形もあります。例を挙げるとキリがありませんが…


私の考えとしては、こうした家族観の変化を踏まえ、現場の扶養照会の運用を見直すべきだと考えています。

親族の扶養義務自体は、民法に規定されていることなので簡単には変えられません。生活保護を題材にした漫画でも取り上げられましたが、例えば親が医者の25歳の若者が申請してきたときに、援助を求められないか?と考えるのは、庶民的感覚からしても無理ないことと思います。

現場の運用として提案したいのは、①扶養照会を送る頻度を減らす→一度送って金銭的援助が今後も見込めないと判断された場合はもう送らない等②扶養照会は個別の事情に応じて送らない選択肢もあるよ、ということをより表に出し、丁寧に説明する、ということです。

これらの運用は、法改正がなくても今すぐできることだと思うので、現場で議論を重ねた上で可能性を模索していきたいと思います。


ただ最後に一言!!離婚した母子家庭の父には毎年送っています。養育費がもらえていない場合がほとんどで、これは毎年送るべき。タイピングする私の手にも力が入ります(笑)

また、この4月から「改正民事執行法」が施行され、養育費を支払わないことへの罰則規定や、調査権限が新たにできました。これで、養育費不払いにより母子家庭の困窮が少しでも減ることを望みます。

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気づけば長々と書いてしまいました。最後まで読んで頂いた方、本当にありがとうございます!!

次回の記事では、生活保護における贅沢品(エアコン?シャワー?スマホ?)について、考えてみたいと思います。

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