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「ジョジョの奇妙な冒険 第四部 ダイヤモンドは砕けない」町の中ですべての出来事が完結する箱庭的構造。隣人はかくも奇妙なり。

「ジョジョの奇妙な冒険」 概要

「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズは荒木飛呂彦先生による漫画作品。
 1986年に集英社「週刊少年ジャンプ」にて連載開始。第一部「ファントムブラッド」から始まって第六部「ストーンオーシャン」までを同誌で連載。
 2005年からは活躍の場を「月刊ウルトラジャンプ」へと変えて、現時点(2022年4月時点)において、第八部「ジョジョリオン」までの連載が完結している。
 なお、荒木飛呂彦先生は現在、第九部「JOJOLANDS(仮)」を構想、執筆中と思われる。

作品の特徴

 足掛け35年に渡り連載されている「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズ。

 最大の特徴は、各部ごとに主人公と舞台が変わる構成にある。
 第一部「ファントムブラッド」の主人公、ジョナサン・ジョースターの舞台はイギリス、第三部「スターダストクルセイダース」の主人公、空条承太郎の舞台は日本からエジプトへ向かう世界半周旅行、第六部「ストーンオーシャン」の主人公、空条徐倫の舞台はアメリカ――しかも刑務所など、非常に多岐に富んでいる。

 また第三部からは、使用するものの精神エネルギーを具現化した「スタンド」という特殊能力を用いており、特殊能力バトルの先駆け的存在としても広く知られる。
 スタンドは人型に限らず虫や霧、軍隊の一個師団や概念的な存在などバラエティ豊かで、一体ごとに違った能力が割り振られており、相性なども相まって、単純に力が強いものや必殺技を持ったものが勝利するという展開になりにくい

 これは、同時代に連載されていた力イズパワーの傾向にあった「DRAGON BALL」や「北斗の拳」などの漫画と明確な違いを出した点において非常に評価が高く、作中のインフレ(強いやつを倒せばより強いやつが出て来る現象=強さに終わりがなく単調になりがち)に歯止めをかける手段を確立したことも評価すべきポイントである。
 以上、ジョジョの特徴を大まかに把握していただいたところで、ここからが本題。私が最初に出会った部、第四部について語っていこう。

第四部 「ダイヤモンドは砕けない」 あらすじ

 1999年の日本。平和な地方都市S市杜王町に住む高校生、東方仗助の元に、第三部の主人公であった空条承太郎が訪れる。死刑囚アンジェロとの戦闘を皮切りに、スタンド能力を目覚めさせる「弓と矢」を巡る奇妙な冒険が幕を開ける。
 町に潜むさまざまなスタンド使いや不可思議なひとびと。彼らの日常を覗き見るうちに、やがて町が生み出したひとりの殺人鬼の姿が浮かび上がってゆく。

 本作品について、物語ジャンキーの私による「オススメ・ジャンクポイント」を紹介していきたい。

【ジャンクポイント①】

日常パートが多く、舞台が日本なので親しみやすい。

 ジョジョは第一部がイギリス、第二部がアメリカ、第三部は世界半周などと、馴染みのない舞台が多く登場する。
 無論、行ったことのない場所へ気軽に行くことが出来ることが漫画の強みであるが、1999年のS市杜王町は親しみやすさと小旅行感が両方味わえる贅沢な舞台設定となっており、入りやすい。杜王町から出ることは一度もなく、町の中ですべての出来事が完結する箱庭的構造もいい。

 また、第三部以前は絵柄の癖が今よりも強く、第四部以降の絵柄の方が研ぎ澄まされていてスタイリッシュなことも入りやすさ、親しみやすさに繋がると思う。

 シナリオも「弓と矢」を巡る物語「殺人鬼」を探す物語などと骨子はあるものの、それらとは関係のないエピソードも多く、登場人物もNHKのドラマで知られる漫画家の岸辺露伴をはじめ、癖は強いが魅力的で、それでいてどこか町中に自然に溶け込んでいる感じにも受け止められる人物ばかりなので、スイスイ読めてしまうことも強み。

 それから、第三部との繋がりがそれほど強くないことも魅力。無論、関連する人物は出るものの多くはなく、情報が整理されているおかげで、ほぼ独立した物語として楽しめてしまう。
 29巻のはじめから47巻の中盤までと比較的ボリュームが抑えめなのもGOOD。

【ジャンクポイント②】

「壊す」のではなく「直す」。新しい主人公像。

 ジョジョは第一部〜第三部では、主に力によるバトルが繰り広げられることが多かった。いかに能力者バトルの先鋭だとしても、時代は筋肉崇拝時代。それらとは一線を画していたジョジョであっても、第三部以前を読むと多少のマッチョ主義を感じてしまう。バブル以前はこうした漫画が多く、トレンドであったこともあるだろう。

 奇想天外な発想を得意とする第二部の主人公、ジョセフ・ジョースター
 冷静沈着でニヒルな第三部の主人公、空条承太郎
 彼らも魅力たっぷりだったが、第四部の主人公、東方仗助はちょっと不真面目でリーゼントの髪型を気にする今風の不良。しかし心根は優しく、スタンド「クレイジー・ダイヤモンド」はパワーもあるが「ものを直すちから」を持っていた。この能力を活かし、戦闘シーンや非戦闘シーンであっても一癖変わった発想で読者を「あっ」と言わせるアイデアマンだ。

 例を挙げるとすれば、手首を切り捨てて逃走をした敵(手首部分にスタンドがいて主人公らを妨害)を見失いかけると、落っこちた手首を治して、本体に手首を向かわせ追跡させるというシーン。
 また、バイクに乗っていて赤ん坊にぶつかりそうになったとき、止まったり避けたりするのではなく、(スピードを落とすと敵に追いつかれてしまうスリリングなシチュエーション)スピードを落とさないままバイクを壊し、赤ん坊の上をすり抜けて瞬時にバイクを直して再び走り出すという荒業もやってのけている。
 は、発想力の違いで……負けた……

【ジャンクポイント③】

斬新かつ不気味なスタンドが勢揃い。隣人はかくも奇妙なり。

 ジョジョ最大の特徴「スタンド」。使用するものの精神エネルギーを具現化した守護霊的存在なわけだが、第四部に出て来るスタンドは実にバラエティ豊か。

 例えば、ひとは罪悪感を感じたときにこころが重くなったりする。それを錠前の形として表現し、罪悪感が増すごとに錠前が大きくなるスタンド「ザ・ロック」。使い手の小林玉美は、罪の意識を利用したユスリ、タカリを得意としていた。

 もうひとつ紹介しよう。
 エステで客の顔や指紋などを変えて、客が望む運勢プランを提供するスタンド「シンデレラ」。使い手のエステティシャン・辻彩は訪れた女子高生(こちらもスタンド使いの山岸由香子・髪を自在に操る「ラブ・デラックス」の使い手)に恋愛運が上がるエステを施すが……?

 また、第四部の顔のひとりでNHKのドラマにもなった漫画家の岸辺露伴が使うスタンド「ヘブンズ・ドアー」も特徴的だ。ひとの人生そのものを「本」にして読むことが出来る。好奇心旺盛なキャラクタならではの能力だ。本のページをちぎったり、命令を好きに書き込んだりと、発動条件を満たせば無敵に近いスタンドだった。

 これらのスタンドは戦闘能力が高いというわけではなく、非戦闘エピソードが比較的多い第四部ならではの能力だった。
 無論、これら以外でも「空間を削り取るスタンド」「電気を操るスタンド」「爆弾を生成するスタンド」などもあり、こちらは戦闘能力が高かった。

 彼らが町に自然に溶け込み、生活をしているからこそ見えて来るスリル。隣人は奇妙なスタンド使いかもしれない。そのような緊張感が読む手を進めさせるのだ。

【ジャンクポイント④】

サスペンスとコメディの絶妙なバランス感。

 第四部は日本が舞台であり、親しみやすさを感じることはすでに記した。
 日本にある普通の(だがちょっと奇妙な)田舎町で起こるさまざまな出来事にフォーカスした第四部はしかし、基本的にはミステリー&サスペンスの雰囲気で進んでゆく。「弓と矢」の謎、「電気を操るスタンド使い」の謎、「幽霊」の謎、「殺人鬼」の謎といった具合である。
 これらのエピソードは比較的不気味なものも多く、緊張感漂うヒリヒリとした展開を味わえる。

 反面、コメディタッチのエピソードも多い
 イタリア料理を食べに行くエピソードや、漫画家の家に遊びに行くエピソード、金券やチケットを集め宝くじに当選するエピソード、チンチロリンという賭け事をするエピソードなどは、コメディ要素がかなり強い。
 これらのエピソードの配合が絶妙であり、ドキドキ感とクスッと面白い感を延々と摂取し続けられることも、第四部の魅力といえるだろう。


 以上、正直まだまだ語り尽くせてはいないが、ひとまず「ジョジョの奇妙な冒険」第四部「ダイヤモンドは砕けない」の「オススメ・ジャンクポイント」を終わりとしたい。
 未読の方、読み返したいと思った方はぜひ手に取って欲しい。

【補足】

 連載当時のジャンプコミックスでの副題は「第四部 東方仗助」のみ。
 のちに、2000年に発売された画集「JOJO A-GO!GO!」にて「ダイヤモンドは砕けない」という正式な副題がつけられた。

【参考】

週刊少年ジャンプ 1995年 3・4号合併号 掲載作品一覧
ギネス登録・653万部発行

1 SLAM DUNK
2 SHADOW LADY(読切)
3 MIND ASSASSIN
4 DRAGON BALL
5 みどりのマキバオー
6 とっても!ラッキーマン
7 るろうに剣心−明治剣客浪漫譚−
8 ボンボン坂高校演劇部
9 NANPOUDEN−南方遊伝−(読切)
10 地獄先生ぬ〜べ〜
11 ジョジョの奇妙な冒険
12 キャプテン翼 ワールドユース編
13 こちら葛飾区亀有公園前派出所
14 新ジャングルの王者ターちゃん♡
15 DRAGON QUEST ダイの大冒険
16 影武者徳川家康
17 NINKU -忍空- SECOND STAGE
18 RASH!!
19 ろくでなしBLUES
20 BØY -ボーイ-
21 BAKUDAN
22 王様はロバ~はったり帝国の逆襲~

【今回ご紹介した作品】

「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズ

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