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「ゴールデンカムイ」コチラにあります最高の作画・キャラクタ・バトル・ギャグ・謎解きを、ぜぇんぶ鍋にブチ込んで煮詰めまぁ~す!→ヒ……ヒンナヒンナ!

ゴールデンカムイ 概要

「ゴールデンカムイ」野田サトル先生による漫画作品。
 集英社「週刊ヤングジャンプ」にて2014年8月から2022年4月まで連載。先ごろ完結を迎えたばかりであり、多くの読者と共に私も旅の終わりを見届けられたことは記憶に新しい。
「マンガ大賞」をはじめとした数々の賞も受賞。2018年よりアニメ化、今後は実写映画化も企画されている。
 アイヌのグルメや風習を漫画に落とし込んだ功績のみならず、圧倒的な画力、ひりつく戦闘描写謎めいた展開で多くの読者を魅了した。登場人物のほとんどが変態(語弊あり)で、むせ返るような外連味も魅力的。二つ名の「和風闇鍋ウエスタン」は伊達ではない。あらゆる要素が詰まった、まさに極上の闇鍋だ。

作品の特徴

 本作のテーマは「アイヌ」
 アイヌ文化は、市井の人びとにとっては馴染みのない文化。それを大胆に作品に取り入れ、見事に面白さに昇華した点は白眉。
 アイヌ語研究者監修もついており、厚みのある取材文献・研究に紐づいた風習、文化をしっかりと描写しているから、リアリティがあって、こころを揺さぶられるわけだ。ことさらにグルメ漫画顔負けの狩猟、料理シーンには定評があり、今すぐに野山に飛び出しリスチタタプ(細かく叩く)したくなってしまう。
 また、アイヌは少数民族
 これまでに多くの迫害や差別を経験している。しかし本作ではそうした暗い側面ではなく、強く、明るく、面白くアイヌを描くことで、アイヌ文化をポジティブなかたちで現代に広く認知させ、一大ムーブメントを巻き起こすことに成功した。「カムイ(神様)」「ヒンナ(おいしい)」「オソマ(う〇こ)」などの語感の面白いアイヌ語が次々と出て来ることも魅力。

あらすじ

 明治末期日露戦争の生き残り、元陸軍・杉元佐一は一攫千金を目指しゴールドラッシュに沸く北海道にいた。
 友人の妻の治療費を稼ぎたい。そんな思いを抱いていた彼の元に舞い込んだのは「アイヌ人の隠した埋蔵金」の噂。手掛かりは網走監獄から脱走した囚人の肌に彫られた刺青人皮。その一枚を手に入れる際に知り合ったアイヌ人の少女・アシㇼパと共に、埋蔵金探しへと繰り出す杉元。
 相対するは、アイヌ・陸軍第七師団・元新選組・囚人・パルチザンら、つわものぞろい! 変態どもが夢の跡。陰謀渦巻くサバイバル・バトルが幕を開けた!

 本作品について、物語ジャンキーの私による「オススメ・ジャンクポイント」を列挙していきたい。

【ジャンクポイント①】

尖り切ったキャラクタの数々! クセモノ・ツワモノ・キワモノ揃い!

「ゴールデンカムイ」に登場する連中はみな尖りまくっている

「不死身の杉元」の異名を持つ主人公の杉元すぎもと佐一さいちは、仲間思いでユーモラスなナイスガイだが、強さと冷徹さを兼ね備えた理知的で容赦ない人物でもある。日露戦争では獅子奮迅の活躍で名を上げ、「不死身」の二つ名を持つ通り、銃で撃たれようが刀で斬られようがクマに引っかかれようが、ダメージを食らいまくってもシレッと復活しているタフ過ぎるキャラクタだ。

 もうひとりの主人公、アイヌの少女アシㇼパも魅力たっぷりだ。幼く可愛らしい容姿ながら一本気のある性格で風格すら漂う。知識も豊富で、サバイバル術に優れ、かわいい小動物でも食べるためなら容赦なく仕留める。ヒンナ(おいしい)のためならなんでもこなすクレイジー・ガールだ。

 更には、類まれなる軟体を活かし「脱獄王」の異名を持つ白石しらいし吉竹よしたけ。基本的にはギャグキャラなので虐げられがちだが、ここぞというときには目を見張る活躍を見せる義理堅く信念のある人物だ。
 味方となる連中には、マタギの谷垣源次郎やアイヌのキロランケ、占い師のインカㇻマッらもいるが、彼らもみなクセモノツワモノ揃いで魅力的だ。

 それから、誰もが知っている元・新選組「鬼の副長」土方歳三もいい。本作では五稜郭の戦いで生き残り、網走監獄に幽閉されていたが脱獄。オーラを隠しているときにはただの老人だが、刀を抜くと現役時代を彷彿とさせる身のこなし。まさに幕末の志士だ。頭もキレ、あまりにも強く魅力的なジジイから目が離せない。

 また、敵役かたきやくである陸軍第しち師団が面白い。
 リーダーの鶴見つるみ篤四郎とくしろう中尉は冷静、冷酷なリアリスト。しかしロマンチストな一面も持ち、北海道征服計画をぶち上げ確実に物事を遂行する有言実行タイプだ。頭蓋骨が一部なく、前頭葉が欠損しているため額当てが欠かせないが、興奮すると脳から脳汁が吹き出す猟奇的な人物。
 彼の元には、これまたクセモノばかりが配属されている。孤高のスナイパー尾形おがた百之助ひゃくのすけ上等兵、悪童月島つきしまはじめ軍曹、薩摩のエリート鯉登こいと音之進おとのしん少尉をはじめとした凄腕揃い。彼らのバックボーンもきっちりと描かれているから、すべてのキャラに感情移入してしまう。

 そして、刺青人皮を彫られた囚人らはさらに個性的だ。性欲を持て余すと獣のように凶暴になる柔道家「不敗の牛山」をはじめ、獣姦をするもの、ひとの指や皮でオブジェや衣装をつくるもの、若さを得るため食人をするものなど、キワモノオンパレード
 このような個性溢れる登場人物らが怒涛のように押し寄せて来るので、個性が大渋滞するかと思いきやなぜか絶妙にバランスが取れており、どのキャラクタも魅力的で愛着が持てる。このバランス感覚こそ、本作の最も素晴らしいところだろう。

【ジャンクポイント②】

戦闘シーン&ギャグの波状攻撃! 振り幅どないなっとうねん!

 あまりの力の入れようにグルメ漫画と誤解されがちな「ゴールデンカムイ」であるが、本作の本質はバトル漫画。よって、バトル描写にはめちゃくちゃ力が入っている

 例えば主人公である杉元佐一の戦闘術は、銃や剣、周囲のものをすべて利用した非常に実戦的な戦闘スタイル。殊更に近接戦においては敵を確実に無力化することに長けた総合格闘術を用いる。例えば、銃で威嚇し即座に近接戦闘に持ち込み、銃剣で斬りつけつつも拳や蹴りを叩き込み、相手の武器を奪い無力化する、などだ。それら一連の動きが非常に分かりやすく、凄まじく高い画力で描かれているから、一瞬で世界観の虜にされてしまう。
 元・新撰組土方歳三の戦闘術も楽しい。武士らしく刀を用いた戦闘スタイルを主としつつも、中長距離戦ではライフルを使い多人数相手でもあっという間に敵を制圧。刀に対するプライドがいい意味で低く、臨機応変に戦闘スタイルを変化させるジジイ。格好良さしかない。
 彼ら以外にも、本作に登場するのは生粋の戦闘エリートばかり。単発銃で熊を仕留めまくる漁師や長距離からの狙撃を得意とするスナイパーもいれば、山に詳しく山中でなら敵なしのマタギ、ひとつの太刀で敵を殲滅する薩摩隼人、水中戦を得意とする素潜りの達人など、どの戦闘でも各々の個性が爆発していて、ハラハラさせてくれる。冒頭から最終話までドキドキの連続だから、どんどんページをめくってしまうのだ。

 反面、コメディもまた全力である。
 ヒロインのアシㇼパ変顔をしながら「オソマ(う〇こ)(本当は味噌)、ヒンナ(おいしい)!」などと叫び散らし、男性陣はしばしば不必要に脱いで謎のサービスシーン(ホモォ……)に突入する。無駄のオンパレードとも言えるが、ハードなシーンが連続し過ぎると読み進めることが辛くなることもあるため、それを緩和するために全力コメディを挟んでいるのだろう。
 そんなわけで、笑い転げてしまうシーンはいくつもあるが、その中でも印象的なものをひとつ紹介したい。
 それは、離れ離れになってしまった杉元とアシㇼパが再開するシーン。しばしの冒険を経て、無事に再開を果たしたふたりがしかと抱き合う感動の場面だ。しかし極寒の吹雪の中で抱き合ったせいで、アシㇼパのまぶたが杉元のジャケットの金属ボタンにひっついてしまう。普通ならぬるま湯を用意するだろう。だが、「ゴールデンカムイ」はひと味違う。横にいた白石のオシッコをかけてもらうのだ。尿のきらめきで彩られる再開の笑顔。こんな漫画があるか? いやない。

【ジャンクポイント③】

歴史の転換点、空白を見事に補完。いい「嘘」で読者を魅了する。

「ゴールデンカムイ」は歴史漫画でもある。
 日露戦争の直後である1907年(明治40年)を軸に展開される物語は、箱館戦争での土方歳三の戦死(史実では)や北海道の警備・開拓に当たった屯田兵日清・日露戦争(殊更に旅順攻防戦)や樺太絡みのエピソードなどを織り交ぜながら綴られてゆく。
 それらの史実を絶妙に漫画に落とし込みながらも、歴史の転換点や空白を補完し、歴史書では描き切れなかったストーリーを独自に構築して漫画化。外連味を大いに含み、虚実織り交ぜながら描かれているから、没入感が圧倒的なのだ。

 漫画のみならず創作活動には「大きな嘘」「小さな嘘」を織り交ぜるのが効果的だ。「ゴールデンカムイ」の場合は「アイヌの遺した金塊がある」という大きな嘘を大胆にぶち上げることで、漫画そのものの面白さをしっかりと出しながらも、歴史上の出来事を入れ込み、そこに細かく小さな嘘(例:土方歳三は実は生きていた)を混ぜることでリアリティと奇想天外さの両輪をきっちりと回すことができている。だからこそ漫画作品として完成度が段違いで、しかもキチッと面白いのだ。

 また、歴史上の人物である土方歳三や永倉新八らをはじめ、主人公の杉元佐一は野田先生の曽祖父をモデルとして描かれているし、白石吉竹や牛山辰馬、鯉登音之進らも史実の人物がモチーフとなっている。彼らがもともと持っていた個性的なエピソード、特徴を描きつつも、漫画らしく大胆にアレンジしているから、登場人物らにリアリティと生命感が生まれるのだ。


 以上、今回もまだまだ喋り足りないところだが、ここで「ゴールデンカムイ」「オススメ・ジャンクポイント」を終わりとしたい。
 未読の方、読み返したいと思った方はぜひ手に取って欲しい。

【今回ご紹介した作品】

「ゴールデンカムイ」

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