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#004 なかなか買えなかった「ワルツ・フォー・デビー」

中学生のとき、「美味しんぼ」の影響で、ジャズにハマった。自分の当時のあこがれは山岡士郎だったのだ。さて、今はどうだろうという話は置いておいて。

学校が終わると、塾に行っていた。その際に、夕飯代として、母より、500円、多いときは1000円のお金をもらっていた。と当然、そのお金は、塾の近所にあるCDショップでジャズのCDに化けることとなった。

ジャズの棚を見る中学生は珍しかったのだろう、店長が話しかけてきた。まだ全然初心者なんです、といったことを説明すると、「だったらこれがいい」と『ハーフ・ノートのウェスモンゴメリー』を勧めてきた。あまりに熱心に勧めるので購入した。懐かしいね、ポリグラム時代のヴァーヴのシリーズ、POCJの品番、2000円で消費税込みだったか、消費税は別だったか、それともまだなかったか。

家に帰って聞いたけれど、どうでしょうね、あれは、初心者にはやや難しいのではないかなと思ったり。

実はその時、僕はビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビー』がほしかった。あれは「初心者向け」として名高い盤であったし、あの中の「マイ・フーリッシュ・ハート」はすでに聞いたことがあるので、中身もある程度気にいるだろうと想像ができていたから。

別の日、またそのCDショップ(正確には家電屋さんにCDが置いてある、って感じの店だった)に行って、店長に「ビル・エヴァンスが今度は買いたい」と告げると、「だったらこれがいい」と『ポートレート・イン・ジャズ』を勸められた。「ただし」店長は保留条件をつけた「受験期の中学生にとっては、考えさせられちゃう内容かもね」と。

違う、そうじゃない、と内心思った。自分は『ワルツ・フォー・デビー』がほしいのだ、と伝えると、店長が「うーん、エヴァンスというとこっちだけどね」と、あくまで『ポートレイト』推し。

そっか、きっと「マイ・フーリッシュ・ハート」以上の音楽がここにはあるんだ、と、自分の不銘を恥じ、『ポートレイト・イン・ジャズ』を購入した。懐かしいね、ビクターのVICJ品番の2300円盤。

家に帰って聞いたが、うーん、どうなんでしょ〜(笑)。「マイ・フーリッシュ・ハート」のような耽美的なトラックがほとんどなく、結構「こきこき」と元気にスイングする内容で、結構この「こきこき」もエヴァンスの愛おしい特徴だと後で気づくけど、その時は受け入れられなかったですね。あくまで、「ロマンティックなピアニスト」という座席しか当時の自分の感性には用意できなかったのでしょう。

後日、またそのCDショップに赴き、やっぱり『ワルツ・フォー・デビー』がほしいんだ、と伝えると、店長は少し悲しそうな顔で「そうか、こっちがいいか」と悲しそうにレジを打った。

やっぱり、『ワルツ・フォー・デビー』は良かった。よくよく聞くとライブという条件、そしてスコット・ラファロによる強烈なベースライン(と才能)によってビル・エヴァンスがいつになく熱に浮かされているのがわかる。「今、新しい音楽が生まれてる」という臨場感こそが、これをただの「入門盤」に終わらせない。

というわけで、『ワルツ・フォー・デビー』を手に入るまでに、ものすごく時間がかかったというお話でした。

ところで、このCDショップの店長は、演歌歌手のどさ回りについてまわることもあるらしく、中学生の自分に「バイト代を出すから、君も一緒に回らないか?」と誘われたこともある。かなり変わり者だったよなぁ。

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