台湾のあの子 後編

彼女は何人かの男性とデートするようになった。女友達の友人や、仕事関係のイベントで知り合った人などにご飯に誘われたり遊びに連れていってもらうようになっていた。僕はその報告を逐一受けていて、「なに、あんた嫉妬とかしないの?」なんて言われていた。

嫉妬という感情とは無縁だった。むしろいろんな男が彼女にどうアプローチするのか、どんなデートをしてどうアクションするのかに興味があり、彼女の話を面白く聞いていた。その心理の根底には、自分より彼女のセンスや趣味に共感でき、自分以上に彼女を楽しませられる人間はいないという根拠のない自信と驕りがあった。完全に調子に乗っていた。


ある日、好きな人ができたから出ていって欲しいと言われた。最初は冗談やめろよと言って相手にしていなかったが、彼女の真っ直ぐな眼差しと微動だにしない瞳の奥を見て本当なんだと分かった。彼女に冷たい空気がまとわりついていた。

話を聞くとその好きな人というのは、彼女が僕に話していない男だった。厳密に言えば、前から知り合いだったことなどは昔に彼女が話していたが僕は気に留めていなかったし、デートに行ったことなどは他の男たちと違って僕に詳細を話していなかった。それは僕が彼女と完全にお別れしなければならないと思うのには十分な事実だった。


彼女はやがてその男と付き合い、仲良くやっているようだった。

最後に僕の残っている荷物を彼女の部屋に取りに行った。長い時間楽しく過ごした馴染みのある彼女の部屋がとても退屈な部屋に感じた。僕と彼女が一緒に写った写真が飾られていた机の前の壁には、それに代わり、新しい彼氏と一緒に写った彼女の写真があった。彼女の隣で爽やかな笑顔を見せていたのは、整った短髪で肌がゆで卵みたいにツルンとした男前の台湾人だった。昨年、生まれて初めてもらったと、とても喜んでくれた僕が送った年賀状はなく、その台湾の彼氏からもらった新しい年賀状が飾られていた。それと僕が今年送った彼女のイラストを描いた年賀状は一体どこにあるんだろうと思った。

不毛な訴えだと思いつつ、僕は泣きながら彼女にまたやり直したいと打ち明けた。彼女は「あなたは手に入らないものを追いかけたいだけじゃん」と言った。それと僕との現実的な将来が見えないとも。


彼女の優しさのゆりかごの中で僕はずっと子供だった。子供同士、楽しく仲良くじゃれあっていると思っていたけれど、彼女は実際は大人で、1人の女性だった。もう二度とこの人以上に魅力的な女性には出会えないぞと美術館帰りの自分に殴って言い聞かせたい。



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