「大事なもの"だけ"持って逃げろ!」スペインで山火事にあった日。
休日の月曜日。外の空気を吸おうと、今一緒に住んでいる友人夫婦の赤ちゃん、レニーを抱えて外に出た。
空気が澱んでいる。煙が見える。
家の中に戻って友人夫婦に聞いてみた。
「ねぇ、こんな時期に野焼きって普通かな?向かいの山から煙が出てて。や、でもそんな大ごとじゃないよきっと、遠そうだし」
私がそう言った瞬間ルドウィッグ(レニーのパパ)は一目散に外に飛び出し、家の中の私たちに叫んだ。
「向かいの山で山火事だ!大事なものだけ持って今すぐ車に乗って!今すぐにだ!外見てくるからハニー(嫁)、レニーを頼む!」
ルドウィッグはまた外に走り出ていき、ラケル(レニーのママ)は一目散にキッチンの方へ走って行った。
「と、とりあえず私がレニー抱っこしてるから!」
レニーを抱えて2階の自分の部屋に駆け上がり、相方と私の重要書類とパソコンだけバッグに詰め込んで車へ向かった。
車には私(とレニー)が一番乗り。次にどでかい荷物を抱えてラケルが飛び乗ってきた。ルドウィックも戻ってきた。
「大丈夫全部持った?大事なもの」
あ。やばい犬忘れた。
「もう出るから連れて行くなら今すぐ取ってきて!!!」
はい、犬取ってきます!!!猛ダッシュで犬小屋でゴロゴロしていたポチをつまみ出し、また車へ飛び乗った。道中、向こうの山から燃え上がる赤い炎が見え、ようやく事の大きさを理解した。
住んでいる山を降り、麓の村の駐車場まで降りてきた。
「車から荷物を全部下ろすんだ!まだこちら側に火が回ってこないだろうから僕は家に戻って家の周りの燃えそうな物の撤去に行ってくる!」
「私も行く!」
いつの間に積んだんだこんな大荷物!というルドウィッグとラケルのものすごい量の荷物を駐車場に下ろした。
駐車場に佇む、大荷物と、金髪ベビーと、寝巻き姿のアジア人と、犬。
しばらく待っているとラケルが車で降りてきた。その後ろにルドウィッグがキャンピングカーで降りてきた。
ルドウィッグはすぐさま小さい方の車に飛び乗り、近所の人の様子を確認してくると山へ上って行った。
ラケルとレニーとポチと駐車場で待っていると、すぐ向かいの家からご夫婦が出てきた。
「広がらずに早く消火できると良いけど。数十年前にかなり広範囲で燃えたからね、ここら辺。ここじゃ暑いでしょ、赤ちゃんもいるしうちでよかったら中へどうぞ」
お言葉に甘えて門の中へ入ると、椰子の木や数十種類の花、昔の農具が壁に綺麗に飾られた美しいお庭が広がっていた。
ようやく一息つけたので、隣町で仕事中の相方に一方入れようと携帯を見るも圏外。ネット、電気が切れているようだ。
山に向かって次々に飛んでくるヘリコプターや飛行機を見つめながら、煙が収まるのを待っていた。
「まぁ、ご飯でも食べなさいな。庭で採れたズッキーニの花の天ぷらとピザあるから」
普段からご機嫌ボーイで有名な1歳児レニーは、ご夫婦や私たちにこれでもかと言わんばかりに笑顔を振り撒き、なんとか心穏やかに待つことができた。
少しするとルドウィッグから知らせを聞いた相方が仕事を切り上げてすっ飛んできた。
「ポチは?書類とお金は?」
「ポチここ、書類とお金これ、あとパソコン」
「よし完璧。それだけあれば良い」
その後すぐようやく家の確認、ご近所さんの確認とお手伝いをすべて完璧に済ませたルドウィッグが、燃えたら困ると自分のトラクターに乗ってやってきた。
夕方18時頃に消火されたとのニュースを見て、親切なご夫婦にお礼をし、4.5人と一匹で家に帰ってきた。
私たちが持ち出したのは小型のボストンバッグ一つとポチだけだったので、キャンピングカーと乗用車に詰め込んだルドウィッグとラケルの荷下ろしを手伝った。
相方と二人でトランクを開けると。
ガラガラガラダーッンと荷物の雪崩が起きた。
本に写真、タイのお土産で買ったと言っていた包丁、バリで買った手作りの椅子、衣替えか?と思うほどの衣装ケース4個分の服。
荷物を片付けた後、みんなで大事に至らなくて良かった、と今日一日を振り返っているとルドウィッグがこう言った。
「本当だね。今日こんな緊急事態が起こって、一つ気づいたことがあるんだ。自分にとって大事なものってほんの少しだけなんだなって」
えええええええええええええええーーーーーーーーーー!?!?!?
乗用車満杯の大荷物とキャンピングカー、トラクター!をほんの少しと呼ぶというのか!
ラケルも続く。
「うん、私もそう思った。ハードディスクとパソコンとお母さんが作ってくれたxxと、お父さんがくれたxxと妹が・・・だけ。あ、パスポートは持ってこなかったわね、あんなの再発行できるものだし」
大事なもの”だけ”持って!
人によって大事なものの内容と範囲がこんなにも違うものなのかと驚いた山火事の一日でした。
くれぐれも夏場の山火事、火の取り扱いにはご注意ください。煙を見たらすぐ行動を。
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