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小規模農家として生きていく為の7ステップ/Moreno

 以前紹介した小規模農家が生きていく為の7つのステップを1つの記事に再編し直しました。一部加筆しています。長いです(笑い)


ステップ1:成功するための基盤を作成する


 野菜を育て始める前や何かを始める前に、ニーズのある作物やどんなお客さんがいるのかを確認するために地元の市場を調査しましょう。

小規模農家は直接販売によるものが多く
例えば
・CSA
・道の駅などの産直市場
・ローカルレストランシェフ
・ファームスタンド
などが挙げられます。これを調査する事はエリア・マーケティングになります。エリア・マーケティングとは地域の特性に合わせてきめ細かなマーケティングを行う手法のことです。それぞれの特性をつかんでから栽培品目を決めていきましょう。


 そして、直接販売が上手く軌道に乗ってきてからスーパーなどへの卸売りを始めて下さい。なぜならスーパーへの卸売りは定期的に安定した出荷量と質、納品日を求められます。農家側も出荷を有機栽培で安定的にしていくのは高い技術が必要になってきます。


 まずはCSAまたは直売所やファーマーズマーケットで、ローカル地域の市場調査を始めましょう。

ファーマーズマーケット

 いくつかのファーマーズマーケットを訪れてみてあなたが興味あるファーマーズマーケットで他の農家が提供しているものを観察します。
観察するポイントとしては

・売れ行きの良いものや値段をメモする
・他の農家の売り場ブースでどんな作物を売っているのか
・一日の初めと終わりの在庫状況を比較してどんな商品が売れているのか
価格設定営業トークやプレゼンテーションカスタマーサービスを観察
・どんな野菜の売り上げがよくて悪いのかも調査する

レストラン

 地元のレストランにも足を運んでみましょう。地元の生産者と協力したいシェフをさがしてどんな野菜を探しているのかなどを聞きましょう。そして今はどこから仕入れていてどういう風に購入しているのか聞いてみましょう。地元の需要を把握してから初めて、これから育てる野菜が決まってきます。

最初の一年

 最初は需要を把握してから所有している土地の広さや資材などを考慮しながら15~20位の品目の作物を一年を通して栽培していくことをオススメします。その中から栽培を続けていく中で売れ行きや土地に合う合わない、などを検証していきながら最適化していきましょう。

覚えておい欲しいのは最初の年は実験する時期です。
できる限り生産側とビジネスの両方について学んでいきましょう。

ステップ2:農園デザイン

 よく整理された農園作りをしたい場合、効率的で収益性の高いデザインの農園を考えて作っていくことがマストになってきます。多くの農場でみられる失敗の多くに運営を組織化できず、農場での日常業務を考慮した基本的な設計を作成出来ていない事です。農場の設計を間違えると多くの貴重な時間を無駄にしてしまいます。これから簡単に実践できる農園デザインの方法を紹介します。

 農園設計で最初にする事は農園のベースマップとセクターマップを作成することです。

ベースマップを作成する

 まずベースマップとはシンプルに自分の敷地の境界線や、木や建物などの俯瞰図です。

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セクターマップを作成する

 ベースマップを作成したら次はセクターマップを作成します。セクターマップとはその土地の風向や日当たり、洪水/排水場所、野生生物のいる場所、道路などを書き込みます。セクターマップを作る事で、潜在的に起こりうる悪影響を最小限に留めることが出来るようになります。さらにそこから最善の解決策を導きやすくもなるのです。

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 例えば風当たりが強い場所に防風林を植えることで、風を防ぐことはもちろん生物の多様性も増やすことが出来、防風林も果樹や低木など色々な種類を植えることで、果樹の栽培も出来るという効果を期待できます。排水口の確認や入水路の確認をする事で、水の流れを確認出来、そのマップからどれくらいの工事をしたら良いのかを把握する事にも役立ちます。こういった土地の性質を少しずつ把握していく事によって、中長期で見ると農場にとって大きな影響を及ぼす事になります。

ベースマップとセクターマップから最適な農場デザインをしていく

ベースマップとセクターマップを準備出来たら農場に必要な要素である
・道具置き場
・畑
・育苗スペース
・出荷調整場所
・ハウス
・納屋
・灌水設備
などを書き込んでいきます。

 この時に考えなければいけない重要な事が、この1つ1つの要素を毎日行っていく時にどのように各要素を配置する事が一番「ムダ」のない農場デザインなのかを考える事です。

ステップ3:栽培計画


 市場調査を行った後、自分の地域の需要が何であるかについての指標を得る事ができました。この指標を使う事によって需要のある野菜を作付けをする事が計画的に出来るようになります。

①財務目標と地域の需要指標を作成

 計画する時の原則はシンプルです。まずは財務目標を達成するのに十分な作物が何をどれ位必要なのかを確認する必要があります。したがって、常に最初のステップとして、財務目標から始めてください。どれだけのお金を稼ぐ必要があるのか目標を設定し、地域の需要の指標に合わせて作付け計画落とし込んでいきます。

 財務目標と地域の需要指標これら2つの基準を使用して計画の作成に進むことが出来ます。まずはこれまで私たちが育ててきたすべての作物を調べて、各作物がどのくらいの作付けが必要なのかも把握していきます。

②出荷量、出荷日を決める

 次に、毎週どのくらいの種の量が必要なのかを調べます。例えば市場調査を行った結果、毎週90パックのラディッシュの需要があるとします。そして品種と品種別の収穫期間などを種苗会社のホームページなどから調べていきます。

 調べた結果ラディッシュは3月18日頃から出荷可能になります。作付け可能日を把握してそれから成熟するまでの日数、つまり、作物が播種されてから収穫段階までにかかる栽培期間を知る必要があります。

ラディッシュの場合は平均2週間ですが、3月はまだ寒い時期なので2週間栽培期間を長く見ておきます。ですので3月18日頃に収穫をしたい場合は、収穫予定日から44日の栽培期間を考慮して2月2日に播種する予定にします。 

この日付を作付け計画シートに記入していきます。

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 播種日を特定する事が出来たら,次のステップに移ります。必要な畝の長さがどのくらいなのかを把握する必要があります。

③作付け日と面積を決める

 そこで私たちの農場でも使用している、作物別栽培期間と期待収量リストが役に立ちます。

作物別栽培期間と期待収量リスト

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 ラディッシュは週に90パックの出荷が出来るので、この表から10mの畝が2本必要な事がわかります。そのデータをスプレッドシートに記入していきます。そしてこのように少しずつ作物毎、お客様毎に記入していき作付け計画を立てていきます。

作付け計画の基盤が準備出来たら、それぞれの作物を組み合わせて
・スペースの確認
・収穫時期や輪作体系を考慮した植え付け位置の決定
を行い作付け計画を作っていきます。

最後に各作物毎に播種・移植・収穫時期をスプレッドシートに記入していきます。

スプレッドシートの一例

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まとめ

作付け計画作成の手順として
①財務目標を立て、市場調査から需要の指標をつくり
②需要のある作物のデータを収集し、出荷量と出荷日を決めて
③出荷量や作物毎の栽培暦を考慮しながらどの畝で栽培するかを決めて作付け計画を立てていく

 最終的に財務目標と見比べながら作付け計画をしていくという手順になります。育てたい作物をただただ作るのではなく市場のニーズに合わせた作付け計画を作ることでロスを最小限に抑えることが出来、計画再現性が高くなっていきます。

ステップ4:生産性の高い畑に転換する方法

 畑の管理で雑草に対しての管理が大変になりますが、その雑草を対処するシンプルな3つの方法をお伝えします。

①トラクターで耕す

 この方法が最も一般的に知られている方法ですが、ずっとこの方法で雑草対策をする事はオススメしません。なぜならばトラクターで耕すことによって休眠中の雑草の種子が表層に持ち上げられてしまうことになり、毎回管理の量が減る事はないからです。他にも土壌微生物やミミズなどの土壌生物にも悪影響を与えてしまいます。

②サイレージタープ

 サイレージタープとは簡単にいうと大きな白黒マルチの事で表層の雑草の種をモヤシ状態にして日照不足にさせることによって枯らしていく方法です。

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 初期除草の場合は6ヶ月~12ヶ月ほどマルチングしておくと効果が高いです。

③有機物のマルチング

 3つめは堆肥やウッドチップなどの有機物でマルチングする方法です。2番目の日光を遮断するというアプローチは一緒ですが、こちらは土壌微生物にとっての餌にもなり、土作りにも効果の高い方法です。堆肥マルチとサイレージタープを併用する事もオススメです。

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 ここまでの技術はパーマカルチャー環境再生型農業にから影響を受けてこのような圃場作りになっています。大事なポイントはどれだけ自然がうまく機能する環境を作っていけるかだということです。山を土は落ち葉や枯れ枝が堆積してそれを土壌微生物が分解し、その分解過程で肥料になったものを植物が吸収して体をつくり、その体の一部を土に返していくというサイクルが成り立っています。出来るだけこのサイクルの邪魔をしないようにする事、その土壌環境サイクルが上手く機能することによって土壌の健康がよくなり、土壌環境がよくなることで人間や昆虫や動物、さらには海の健康に繋がっていきます。

詳しくはこれまで書いてきた記事にも畑の作り方を紹介しているのでそちらも参考にして下さい。

ステップ5:栽培(播種)

 直播きと育苗してから移植栽培。この2つの栽培方法を上手く使って野菜が畑に占有している時間や管理を楽にしていきます。

育苗するメリット
1、生育をそろえやすくその後の管理もしやすくなる
2、栽培スペースを有効活用出来る
3、病害虫から苗を守る

 育苗とは、畑やプランターに直接種を蒔いて育てるのではなく、ある程度大きくなるまで、育苗ポットなどのグッズで苗を育てることをいいます。野菜や花などの種類によっては、畑に直接種をまくこともありますが、一般的には育苗ポットや育苗トレーなど、スペースが小さく区切ってある容器に種をまき、苗がある程度大きくなるまで管理してから移植して植え付けます。
丈夫で良い苗づくりをすることができるため、初心者の方にもおすすめの方法です。


直播きのメリット
1、苗作りの手間と移植の手間がかからない
2、葉物野菜や播種量が多い野菜は直播きの方が効率的

 育苗も作物別に育苗に向いている野菜と直播きが向いている野菜があります。2つのメリット・デメリットを理解して作物や栽培期間などを考慮して選択していきましょう。因みに紹介してきた不耕起栽培で育てられた土壌は排水性と保水性の土壌なので灌水管理も楽になってきます。

 最後に各作物毎に何条でどれ位の株間で植えたら良いのかのリストの例を紹介します。自分の育てる野菜のリストも作っておいた方が良いでしょう。

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 栽培方法は各作物毎にも異なりますし、地域によっても土壌環境も違って来るので自分なりの栽培指標を作っていきましょう。

ステップ6:ブランディング

 販売において大事なブランディングについての大事な3つのポイントを紹介します。

①ブランド(農場の個性)

 直売所やマルシェ、スーパーなどどんな売り先でも大事になってくるのは、栽培した農産物はもちろんですが、生産者自身のPRです。どのように農産物と会社や自分のブランディングをしているのか?話す内容もとても重要になってきます。
・農場の名前
理念やメッセージ
物語や背景
・思想や価値観
 これら4つが農園のブランドになってきます。これらが農園の成功にとってとても重要になってくるのです。ブランドとは言い換えてみれば、自分自身のビジネスにおいての個性であり農場の個性だと言うことです。ファーマーズマーケットやレストラン、スーパーなどの食料品店農産物を卸す時や販売に立つときは誰かと話す機会があれば、他の誰と取引をしているのか?なぜ自分の農場と取引しているのか?を知っていくことは重要になってきます。

②自分自身がブランドの顔と意識する

 農家であると同時に自分自身が農場のブランドの顔になります。パーソナルブランドのように、潜在的な顧客に手を差し伸べ、自分自身、農場、そして農産物を宣伝する必要があります。もっとも大事な事は農場を人として考える事です。人の個性を構成する内容はどういう物でしょうか?

・名前は?
・どんな特徴がありますか?
・何か伝えたい事はありますか?
・理念やビジョンはありますか?
・どんな人と交流関係がありますか?

 この質問に明確に答えられればお客さんはどういう農場なのかが明確にわかり共感してくれたら取引に結びつきます。皆さんも従来の工場型の生産方式で栽培された農産物ではなく、自分自身が思い描く農業や世界に変化してほしくて農業を始めているかもしれません。または子供にどんな未来を残したいのかを考えながら農業をしているかもしれません。出来るだけ安全で健康な野菜を作りながら環境保全もしくは環境を再生しながら食べ方や生き方を変えていきたいと思っているかもしれません。自分の仕事が好きではなく、移行したい場合でも、もっと意味のある人生を送りたい場合でも。

 ブランディングにおいてこれまでの自分自身の物語や疑問に思っていることは重要になってきます。

優れたブランドが達成する目的は、
・明確なメッセージを伝え、ターゲット顧客に自分の農場をプロデュースして感情的に訴えかけ
・顧客が購入する動機を与え、強い顧客ロイヤルティを生み出すことができる

ということです。

③農業の仕事とは生産するだけが仕事ではない

 今回はマーケティングやブランディングについての表面上についてしか説明出来ていませんが、これを伝えたい理由は農業とはただただ農産物や動物を育てるだけではないという事です。農業とはビジネスです。農産物を作り、売り込んで販売していく計画を立てていかなければなりません。しかし何よりも農業は楽しく、充実した生活を送れる職業だと私は信じています。

ステップ7:計画、記録、そして分析

 最後に紹介することは農業でもっとも大切な事である計画して数字に落とし込んで、記録してその結果を分析していく事についてです。記録・計測するのにスプレッドシートをオススメします。スプレッドシートを使いこなすのはトラクターを使いこなす事と同様に大切な事です。多くの農家が記録することをせずに大きな失敗をしてしまっています。

 スプレッドシートを使って畑の単位面積当たりからどれだけの収穫量が得られるか、どれくらい肥料の投入量があるか、種子、堆肥、労働力などを正確に知りたい場合は、それを記録しておく必要があるのです。そうすることで収益性の高い作物を効率的に栽培していくことができるのです。

 記録する作業はあまり重要視されていませんが、するかしないかで中長期でみると将来の農場にとって決定的に違ってきます。一週間の内数時間はパソコンの前で記録と分析をする時間に使って下さい。この時間が飛躍的に農場の現状を把握して、改善を行うヒントになり農場の機能性が上がります。この分析から収益性の低い作物も見つかります。その改善方法として密植を選ぶのか、別の作物を植えるのか。もしくはコンパニオンプランツで面積当たりの売り上げを高めるのか。

 播種日から移植日、収穫日。それぞれに費やした時間。店舗毎、作物ごとの売り上げなど細かい記録をつけていくことによって全体がはっきりと把握できるようになります。毎年農場を持続的に「カイゼン」していけるのです。

スプレッドシートに記録したい10のカテゴリー
1、栽培計画(育苗、圃場)
2、収穫
3、作物別プロファイル
4、オーダーシート
5、売り上げ
6、圃場データシート
7、予算と費用
8、資材管理
9、圃場管理シート
10、売れ残りなどロス量

詳細なメモを残していき生産システムを向上していきましょう。

最後に


 これまで7つのステップを通して、小規模農家としての戦略を紹介してきました。このことを参考にしながらまずは家庭菜園でもいいですし、これから農業をしたいと思っている方の参考になれば幸いです。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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