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エッセイ

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#靴

マルジェラを巡る冒険 #6

そうして伝えた靴の品番をもとに、百貨店から本社へ再度問い合わせたところ、靴の図面が見つかった。おかげで業者の方でも大まかなイメージを掴むことができたらしく、これなら何とか修理できそうだという。 そうして、あれよあれよと言う間に修繕は進んで、一週間後にはお直し完了しましたとの電話を頂いた。 私は出来上がった靴をみて、またしても息を呑んだ。 もともとのデザインで、ほつれていた部分がきれいに縫い合わされている。もとの縫い目と何ら変わりない仕上がりで。 私は出来上がりに大変満足

マルジェラを巡る冒険 #4

電話で対応して下さった方を訪ねて、百貨店のマルジェラ売り場を訪れた。 私はずたぼろになった靴を見せながら、大変恐縮し、無理ならそのまま持ち帰りますので、と何度も告げた。応じてくれたのはまだ若い感じのよい女性で、「こんなに大切にご愛用いただいて」と、私の注文を熱心に聞いて、書き留めて下さった。 私は、デザインで一部パーツが始めからめくれていることを告げ、今後のダメージを防ぐため、元のデザインから変わることになるが、縫い合わせてほしいこと、その他修理の方から見て、補強や交換が必

マルジェラを巡る冒険 #3

もしその靴を年に数回はくだけの、超秘蔵っ子いっちょうら靴に留めておけば、今でも美品の状態が保たれていたのかもしれない。 でも靴は履いて歩くべき道具であり、人生の相棒なのだ。 それに何より、この靴はどんなスタイルにもとてもよく合う。 メンズシューズを基調にしているので、パンツススーツにはもちろんはバッチリだし、ジーパンを履いてもカジュアルになりすぎず、ピリリと決まる。そして甲のところがきゅっとしまってスラッとしたフォームをしているから、意外にもブラックドレスなどのフェミニンな

マルジェラを巡る冒険 #2

それは本当に美しい靴だった。 単に形がきれいとか、デザインがかわいいとかなら、他にも沢山あると思うのだが、それは流麗なフォルムと細やかな作りが見事に調和して、一粒のダイヤみたいな輝きを放っていた。 ドキドキしながら年が明けるのを待って、セールで半額近くになってから購入した。 箱から取り出し、改めてまじまじ眺めると、その仕事の細かさに息を飲み、どぎまぎさせられた。 元になっているメンズシューズの細かい技術や製法のことはわからないが、おそらくきちんとした靴はパーツも行程も多

マルジェラを巡る冒険 #1

それは完全なる一目ぼれだった。 吸い寄せられるようにしてその場へ向かっていったのだから、ほとんど運命といってもいいのかもしれない。 2008年か9年頃、長い電車通勤に疲れ果てていた。シックだけど重たいウールのコートから軽いダウンへ替え、足元もヒールではなく楽な靴を選ぶようになっていた。 まだ地震の起こる前、ヘルシーなスポーツテイストやアスレジャースタイルが、本格上陸する前夜だったから、靴下のまま履けるきれいめの、フラットな靴を探していた。 別にファッション愛好家でも、