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卯月二十九日 旅の記憶その一 千歳から倶知安 

 二十二日から二十六日まで四泊五日の北国旅をしておりました。
 備忘として、しばらく少しずつ旅の記録を書いていこうと思います。

 今回の旅を企んだ最大のきっかけは函館本線の小樽-長万部間が廃線になる、というニュースでした。

 2030年度末開業予定の北海道新幹線延伸に伴うものなので、廃線までもうしばらく間はあります。とはいえ、関東住みの私にはそうそう行けるものではなく、思い立ったが吉日を決め込んだわけです。
 それに、一度早春の沿線風景を見たかったというのもありました。
 以前、なにかの雑誌(あるいはテレビ番組だったかもしれません)で線路脇に自生する水芭蕉が見られると知り、ずっと憧れていたのです。
 同時期に函館から海を超えてすぐの弘前で桜まつりに合わせ、応挙真筆とされる幽霊画の展示と東雅夫氏のトークイベントが開催されるとの情報を発見したのも背中を押しました。これに岩木山神社への参拝を合わせたら旅の目的が三つになります。
 私は「三つ目的が重なれば万難を排して行くべし」をモットーにしておりますので、出発をためらう理由がありません。
 そんなわけで、22日は新千歳空港から小樽/倶知安/長万部経由で函館に向かう変態行程を組むことになったのです。
 
 前夜、早起きに備え早々に寝所に入ったものの、ものすごい暴風雨になかなか寝付けず、寝不足のままの出発。普段なら乗り物で寝ればいいけれども、今回は車窓の風景がメインディッシュです。居眠りすら許されません。ですので、せめて飛行機で少しばかり寝ようかと思っていたのですが、結局は果たせず終い。
 今回は小樽での乗り換えが少々タイムアタック的だったので、緊張していたのかもしれません。なにせ乗り換え時間が5分強しかないのに、その間に駅スタンプをゲットするタスクを自らに課していたのです。
 新千歳から小樽までは1時間15分ほど。小樽は一昨年、昨年と2年連続で訪問しているので、今回は通過のみと決めていました。でも、それだとちと寂しいというので、スタンプゲットを旅程に組み込んだんですね。
 スタンプの設置場所は事前に観光案内所で確認してあったので、脳内で何度も手順をシミュレーションし、小樽駅についたら猛ダッシュです。おかげで無事スタンプを押印し、乗り遅れることなくタスクは満点で終了できました。あと5分あれば駅弁を買えたのですけどねえ……。
 小樽からニセコまでは一昨年に乗車済みです。でも、季節が違えば車窓の表情も違います。なんとか窓際の席を確保し、7時間強の乗り鉄旅はじまりはじまり、です。
 日本海側に位置する小樽湾の海の色は藍に近い深い青で、太平洋沿岸に住む私の目には新鮮に映ります。

小樽近辺の海

 車内を見渡すと妙におじさん一人旅が多い……と思っていたら、みなさん余市で降りてしまいました。きっと蒸溜所へGOですね。今は完全予約制のようなので、かえってゆっくり見学ができるのかもしれません。
 余市を過ぎたら、列車は山間部へ入ります。ところどころに残雪が見え始めました。ですが、土が混ざってお世辞にも美しいとはいえません。清少納言が「わろしわろしわろし~っ!」とジョジョになりそうなレベルです。

残雪

 それでも雪解け水によって目を覚ましたフキノトウや水仙が彩りを添え、むしろ早春の旅情を掻き立てます。ちょうど一ヶ月分、季節が巻き戻った感じです。
 やがて然別、銀山、小沢を過ぎると、外は完全に雪景色です。冬のよう、とはいえないけれども春の色は一気に薄れます。

一面の残雪

 けれども、雪解け水を集めたせせらぎ、そしてその水が溜まった湿地があちらこちらにできていて、そこに咲いていました。
 水芭蕉が。
 ピンと背筋を伸ばし、清らかに咲いています。
 群生です。
 目はもう窓外に釘付け。写真を撮るのも忘れるほどの光景でした。

新緑もようやく芽生え始め

 流れる景色とはいえ山中を走るローカル線のこと、植物を愛でる時間を十分くれます。そして、乗換駅である倶知安が近づくにつれ、羊蹄山、アイヌ語でマッカリヌプリの尊容が進行方向に浮かんできました。
 この山の美しさは、ちょっと他に喩えようがない。
 富士山のてっぺんだけを切り取ったような趣ではありますが、それよりももっと厳しい、人を寄せ付けない威厳があるように感じるのです。
 山が近づくにつれ、圧倒されるあの感じ。これがあと数年で経験できなくなるのかと思うと、残念でなりません。ローカル線のスピード感でないとだめなんです。あればかりは。
 センチメンタルな気分にとらわれつつ、電車はあっという間に終着駅の倶知安です。ここで長万部行きに乗り換えます。
 乗り換え時間は30分弱。この間、駅の近くにあるスーパーに昼食を仕入れに行きました。あと30分あれば地元の食事処を利用できるわけですが……。
 スーパーでは十勝豚丼弁当と小樽ビールを購入。
 なんで十勝? って話ですが、他に北海道らしい食べ物がなかったんです。もちろん、横須賀で箱根名物を食べるようなもの、っていう自覚はあるんですけど、それでもまあとんかつ弁当よりはまだしも、かな、と。本当はザンギ弁当があればベストだったんですけど。

倶知安で買う十勝名物

 今日はここまで。


 
 
 

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