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【Part.2】年金の全体像をつかむ10のキーワード

※Part.1から読まれたい方は、こちらをクリック下さい!

 今回は「10のキーワード」の後編です。より年金の本質に踏み込んでいきます。ちょっと難しいと感じられた方は、キーワードだけでも頭の片隅に残しておいていただければ、今後年金の情報を読み解くのに役立ちますよ!

6.日本の公的年金保険は「賦課方式」。積立金の貢献度は一割程度

 公的年金保険は、世代間の「仕送り」を「それぞれの家族」で行う「私的扶養」から、「国全体」で行う「社会的扶養」にしたものです。この社会的仕送り方式「賦課(ふか)方式」と呼ばれています。

 下図は長期の年金支給財源の想定図です。皆さんや勤務先の会社が支払っている年金保険料(水色)が約七割、税金である国庫負担(緑色、基礎年金に充当)が約二割で、この二つで財源の九割を占めています。それ以外に過去の保険料超過分を積み立てており、その積立金(黄色)は約一割で、バッファーとしての役割を担っています。

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図:資料1 p30.より    

 積立金は100年を見据えた超長期運用なので、四半期毎に報道されるGPIFの積立金の短期運用実績だけで「大騒ぎ」するのは殆ど意味がありません。

 なお、保険料や国庫負担は「賃金」と連動して増えていくので、積立金の運用利回りも下図のように「賃金変動率をどれだけ上回っているのか(=スプレッド)」で評価すべきです。単純な名目運用利回りで運用実績を評価していては「本質」を見誤りますのでご注意ください。

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図:筆者作成

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7. 「積立方式」も少子高齢化に強いとは言えない

 「少子高齢社会」では「賦課方式」よりも、自分の年金は自分で積み立てる「積立方式」の方が良い、という意見について皆さんどう思われますか?

 まず、積立方式は「変化」に対応できません。インフレになったら積立金の価値が大きく減るかもしれませんし、想定より長生きしたら途中でお金が足りなくなるかも知れません。
 さらに「積立方式」だから少子高齢化の影響を逃れることができる、という考えは「美しい誤解」です。少子高齢化は社会や経済全体に影響を及ぼします。生産人口が減る一方生産せず消費が中心の年金受給者が増えると、超過需要で生産物の価格が高騰し、その結果積立金が足りなくなる可能性もあります。

 実際、「賦課方式」の方がメリットが大きく、ほとんどの主要国は「積立方式」ではなく「賦課方式」を採用しています。
※詳しくはこちらこちら

8. 働き方に「中立で公平」な年金制度にすべき

 「厚生年金保険」は、「被用者(雇用者)向けの所得比例型の公的年金保険」です。保険料は被用者と会社で折半負担しています。いわば「厚生年金保険」は、被用者対象の「助け合いサークル」なのです。
 しかし、被用者の約二割は条件を満たさないため(勤務先・事業所の規模が小さい、被用者の勤務時間が短いなど)、「助け合いサークル」に入れないのが現状です。

 同じように働いても、勤務先の規模や勤務時間によって受け取る年金額が大きく変わってくる。「社会保障」であるはずの「厚生年金保険」が、逆に「社会的弱者」を生んでしまう。このままでいいのでしょうか。目指すべきは老後保障の格差縮小であり、被用者全員への厚生年金保険の「適用拡大」です。

    2020年5月の年金制度改正により、短時間被用者に厚生年金保険を「強制適用」する企業規模が、「従業員500人超」から2024年には「50人超」へ「拡大」されるのもその流れです。それでも全企業数の97%を占める「従業員50人以下の企業」は、未だ「強制適用」の対象外です。
 この企業規模要件は、2012年の改正時には激変緩和の「経過措置」でした。しかし「中小企業の負担増加」への配慮もあり、10年近く経った今でも要件撤廃できていません。

 正規雇用を希望しながら不本意にパート・非正規雇用で働く方は、いわゆる「就職氷河期世代」に多く、現在 30 代半ば~40 代半ばの彼らの老後格差をひろげないためにも、要件撤廃は待ったなしなのですが。

    しかし「助け合いサークル」に入れない人も、加入する方法が無いわけではありません。「労使合意」があれば、厚生年金保険を「任意適用」できるのです。中小企業の経営者にとっても、優秀な人材確保のために「任意適用」する重要性は高いのではないでしょうか。

 「自分が将来受け取る年金はいくらなのか」というテーマは皆さんの関心も高いと思います。しかしそれだけではなく「年金制度をいい状態で子や孫・ひ孫世代にバトンタッチするにはどうすれば良いのか」も関心を持つべき重要テーマです。その中でも「適用拡大」は最優先課題となっているのです。

※詳細はこちらこちら

9. 厚生年金保険は「所得再分配」機能を備えている。

  厚生年金保険は「所得比例型」なので、頑張って所得を増やせれば将来多くの年金を受け取ることが出来ます。その一方、収入の多い人から少ない人への「所得再分配」も行われています。これはどういうことでしょう。

 下の図をご覧ください。賃金が1/2になれば毎月支払う年金保険料も1/2になりますが(左図)、将来の受取年金額は1/2以上になります(右図)。理由は定額の基礎年金部分(黄色部分)があるからで、これが厚生年金保険の「所得再分配」機能なのです。

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図:資料1  p14  を筆者一部加工

 具体的な数値で見ていきましょう。賃金水準が下がっても、以下グラフ赤線の「年金月額」の減少はゆるやかです。例えば賃金が①44万円→②22万円と「半分」になっても、年金月額は③22万円→④17.5万円で「二割減」にしかなりません。

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図:資料2  p12  を筆者一部加工

 その結果、グラフ緑線の「所得代替率(年金額の現役時平均賃金に対する比率)」も、現役時の平均賃金が低いと高く⑤、逆に賃金が高いと低くなる⑥、という結果になります。つまり、頑張って働いて賃金が大きく上がったとしても、年金月額の上がり方は緩やかなのであり、「所得再分配」による老後格差縮小が行われているのです。

10. 未来は予測不可能である

 公的年金保険は、誰かが100年後の未来をタイムマシンで覗いてきて設計しているわけではありません。当たり前ですが、未来の事は誰にもわかりません。

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 よく当たる占い師に頼りたくもなりますが、やはり年金の議論をする際は「未来は不確実で予測不可能である」、この大原則を忘れてはいけません。

 では、「将来は不確実である」ことを前提に、公的年金保険はどのように運営されているのでしょう。具体的には100年先も制度を維持するという目標を立てたうえで、5年毎の「財政検証」で定期健診しながら制度を持続させるために改革を繰り返していく運営なのです。そして、何が起きるかわからない未来でも高齢者が貧困に陥らないようにする(防貧)、つまり「衣食やサービス」の購買力が維持できる事を目指す運営をしています。決して100年間何の努力をしなくても安心なのではありません。

 では将来について「予測(forecast)」できないのであれば、どうすれば良いのでしょうか。まずは「目指すべき将来像」にたどり着くためには「今何をすれば良いのか」を設定することではないでしょうか。つまり、現在の延長線上で「このような前提条件を置けば将来こうなる」という「投影(projection)」のシナリオを作ることです。
 「財政検証」では、幅を持った複数のシナリオを「オプション試算」として報告しています。その作成者は、現在から未来を投影する「プロジェクションマッピング」のエンジニアと言えるでしょう。

 なお、複数ある「オプション試算」のうち、努力を怠るとこうなるという「最悪ケース」も設定されています。しかしその「最悪ケース」のみをことさら強調する報道も見受けられますので、そのようなバイアスも念頭に置いて情報と接することも大切です。


まとめ. 制度改革をしっかり進めれば、年金の給付水準は改善できる

 年金問題は雇用と賃金の結果なので、日本の経済成長と連動しています。年金だけが独立した課題なのではありません。そのような中で年金としてやるべき事は、制度改革をしっかりスピード感を持って進めることです。

 若い人と話していると下のイラストのような「わたしはポシビリスト※よ!」という考えの方も意外と多いように感じます。大人の皆さんも負のスパイラルのような議論からはもう卒業したいものですね。

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※ポシビリスト(可能主義者):
 FACTFULNESSの著者であるハンス・ロスリングの言葉「わたしは楽観主義者ではありません。とても真剣なポシビリスト(可能主義者)です」


 今後も年金報道などで疑問に思った時は、このページを今一度読み返して下さい。そして「10のキーワード」を皆さんの「判断のものさし」として活用いただければ幸いです。


※この内容は、2020年9月4日開催の「第43回 FIWAサムライズ勉強会」にて使用したキーワードを元に作成しています。

※資料1:2019年8月27日 2019(令和元)年財政検証関連資料(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000540589.pdf
 資料2:2019年8月27日 2019(令和元)年財政検証結果のポイント(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000540583.pdf



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