ヘッジファンド列伝②イングランド銀行を敵に回した男Gソロス
こんにちは、金融ブロガーの本郷マサシです。
みなさんも、ヘッジファンドに関する記事を経済誌・新聞で見かけることも多いでしょう。
およそ70年前にアルフレッド・ジョーンズが立ち上げて以来、暫くマイナーな存在だったヘッジファンド。
その名を世に轟かせたのは「錬金術師」ジョージ・ソロスです。
「暴利をむさぼる恥知らず。」マレーシア・マハティール首相が名指しで批判したように「ヘッジファンド悪者論」代表格ともされるソロスですが、実は、彼は投資家としてだけではなく、慈善事業・政治活動などさまざまな活動を展開しています。
今日のNoteでは、ナチの迫害を生き延びた数奇な人生、「再帰性理論」を産みだした抜群の投資センス、自由・解放・貧困解消を叫ぶ政治理念などなど、ソロスの多彩な魅力を紹介します。
ナチスの迫害から生き延びたハンガリー系ユダヤ人
1930年ブダペストで産まれたソロスは、ハンガリー系ユダヤ人として苦節の少年期を送ります。
家族と別れナチの迫害から生き延びたソロス、戦後はロンドンで皿洗い・ボーイ・プールの監視人・ハンドバッグ売りなど職を転々とします。
そんな生活を打開しようと、ソロスはいくつかの銀行に「自分を採用してくれ」と手紙を書きました。ほぼ全てから門前払いを食らったのち、あるハンガリー人の金融ブローカーに雇われました。
金融で頭角をあらわしたソロスは、26歳の時にニューヨークへ。
「金融の仕事でカネを作ったら哲学に身を投じよう‥」しかし、腕の良いソロスを周囲が離さなかったのです。
ソロスが編み出した再帰性理論
不遇の時代から哲学に傾倒していたソロス、最も影響を受けたのが哲学者カール・ポパーです。
ソロスは、ポパーの「人間は真理を知ることはできない。試行錯誤を繰り返し近づけるだけだ」とする思想と彼自身が培った金融ノウハウを結びつけ、革新的な投資理論を編み出します。
「相場は誤っている」というのが、ソロスの根本思想です。
彼が編み出した再帰性理論とは、
「相場は市場参加者の予測を動かし、動かされた思惑が今度は逆に相場を動かす」
とする考え方。たとえば上昇基調に乗った相場は、市場参加者の強気を呼び込み、買い注文が入って株価を押し上げる。株価が上がると市場参加者はさらに強気となり‥この繰り返しで株価が高騰するのです。
こうなると、業績や景気といったファンダメンタルズと株価は乖離しても勢いはとまりません。
しかし、やがて人々は「狂騒の夢」から覚め転機を迎えます。今度は相場の下落が弱気を呼ぶ逆回転が起こるのです。
この転機が起こるタイミングを予測できれば、大儲けも夢ではありません。実際のところ、ソロスが立ち上げたファンドは1980年代に入るころに4億ドル近くを稼いだのです。
職も不安定でときに慈善事業の世話になっていたような若者が、大成功を果たしたわけです。
イングランド銀行を窮地に追い込む
1980年代までの金融界では、金融機関を含めた投資家にとって各国中央銀行は絶対的な存在で、「おかみに逆らう」なんてあり得ませんでした。
そんな常識をいとも簡単に突き崩したのがソロスです。
ベルリンの壁崩壊で金融のボーダーレス化が急速に進み、ヘッジファンドが扱うマネーもかつてないほど膨らみ、やがてそのうねりはヨーロッパを襲います。
ソロスが狙ったのは、かつての基軸通貨イギリス・ポンド。
すでにイギリスはかつての勢いを失っていましたが、イングランド銀行の買い支えもあり、ポンド相場は高めに維持されていたのです。ソロスをはじめとするヘッジファンドはポンドに空売りを仕掛け続け、対するイングランド銀行はやがて持ちこたえられなくなります。
1992年9月16日、イギリスのラモント蔵相は記者会見で徹底抗戦をアピールしますが、市場は反応しませんでした。イギリスがヘッジファンドに屈服した日、これがいわゆるブラック・ウェンズデー（暗黒の水曜日）です。
自由主義運動・慈善事業…ソロスのさまざまな顔
「格差拡大を止めろ！」ソロスは、レイ・ダリオ、ビル・ゲイツといった億万長者たちと連名で、超富裕層への増税を呼び掛けています。
お金持ち自ら「自分たちからもっと税金を取ってくれ」なんて、なかなかできることではありません。
その他にも、ソロスはオープン・ソサイエティ財団を通じて自由主義運動を展開したりと、さまざまな顔を見せています。
ただの強欲な投資家ではないところが、ソロスの品格であり魅力なのです。
さて、ここまでありがとうございました。
次回は「金融工学の立役者」ポール・チューダー・ジョーンズを紹介します！
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