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トーマス・マクドナーへの挽歌(Lament For Thomas Macdonagh)私訳



トーマス・マクドナーへの哀悼

ゴイサギの叫びも聞こえはしなかったろう
荒れた空の下、死へ近づいてゆくそのとき
優しい鳥の歌を雲の上で聞くこともなかったろう
物悲しい雨のせいで

斜めに降る雪の合間から鋭い号令を鳴らし
混乱したラッパ水仙たちの
黄金の杯を燃えあがらせる
騒がしい三月の訪れも知らなかったろう

けれど強欲な民草に荒れた牧草地や荒野から
黒い牝牛が立ち去ったとき
美しい草原で満足げに角を掲げる
明け方の低い鳴き声を、あるいは男は聞いたのかもしれなかつた  


原文(Lament For Thomas Macdonagh

He shall not hear the bittern cry
In the wild sky, where he is lain,
Nor voices of the sweeter birds,
Above the wailing of the rain.

Nor shall he know when loud March blows
Thro' slanting snows her fanfare shrill,
Blowing to flame the golden cup
Of many an upset daffodil.

But when the Dark Cow leaves the moor,
And pastures poor with greedy weeds,
Perhaps he'll hear her low at morn,
Lifting her horn in pleasant meads.


Anuna  Where All Roses Go

フランシス・レドウィッジの「The Lament for Thomas MacDonagh」に、コーラスグループ・アヌーナの主催マイケル・マクグリン(Michael McGlynn)は同作者の「June」末尾のフレーズを最後に付け足し、「Where All Roses Go」と題して発表しています。


補足

タイトルにあるトーマス・マクドナー(トーマス・スタニスラウス・マクドナー)はレドウィッジと交流のあった詩人であり、同時に政治活動家、革命指導者でもありました。1916 年のイースター蜂起の 7 人の指導者の 1 人、アイルランド共和国宣言の署名者でもあり、イースター蜂起後、軍法会議により銃殺されます(享年38歳)。彼の死についてはレドウィッジの他、イェイツも詩を書いています。なおレドウィッジ自身はその後1917年7月、フランスで戦死することとなります。
マクドナーの死の背景や銃殺された時期を踏まえると、第2パラグラフにある3月の号令や雪、水仙などは、作者レドウィッジが今まさに見ている花や雪の景色というよりは、蜂起するアイルランド人の姿が重ね合わせられたものである……そう読んでも的外れではないように思います。

前項で言及した「June」最後の数行について、マイケル・マクグリンが付け足した部分の少し前から引用が以下になります。作品内で描かれる風景や全体のテンションがかなり異なること、それによって最後の、若者の口から零れる薔薇や、吹き寄せられる薔薇の印象がかなり変わることはご理解いただけると思います。

….And we must joy in it and dance and sing,
And from her bounty draw her rosy worth.
Ay! soon the swallows will be flying south,
The wind wheel north to gather in the snow,
Even the roses spilt on youth's red mouth
Will soon blow down the road all roses go.

JUNE

(拙訳)
われらは6月を楽しみ歌い踊らねばならぬ
その賜物からばら色の富を受け取って
そうとも! 燕たちもやがて南へ羽ばたき
北風の車輪は雪をかき集める
若者の口から零れた赤い薔薇も
この世の薔薇のゆくところへ吹き寄せられていく

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