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思い出は言葉になる #書もつ

毎週木曜日には、読書の記録を書いています。いまや転勤族という言葉も昔のものになってしまいましたが、そんな家族のお話し。作家さんご本人が幼いころに住んだ糸島での暮らしと人が、とても清らかに描かれている作品。

いとの森の家
東直子

子ども時代を描いている、と公言しているのもあって、きっと、目の前の景色は本当のものも多いかも知れないと思いながら読みました。

この作家さん、言葉遣いが美しいのです。

しかも、読むために用いられる言葉が粛々としていて、そして豊かで、匂いすら感じられるように精緻な描写に、僕はとても感激してしまいました。

別の作品で、死後の世界を扱ったものがありましたが、それも幻想的でふんわりとした印象でしたが、この作品もまた主人公に寄り添った視点というか、読み手の子ども時代を思い出させるような穏やかさを感じました。

近所にどんな人が住んでいるのか、その人が何をしているのか、たとえ「誰がどこでなにしているか知られている」ような田舎であっても、そこに見えるのは、その人の一部でしかないと思うのです。

作品の中の、特徴的な人物にハルさんがいます。ハルさんは、定期的に死刑囚の慰問に通っていました。時には、身寄りのない死刑囚のお骨を持ち帰り、供養するといった献身的な活動をされているのでした。

死刑囚の慰問に通うことは、確かに不穏な印象もあります。でも、刑務所に家族がいるとしたら、肉親や、我が子だとしたら、なにが愛情と呼ばれるのか、人それぞれだよな、と思うのです。

作家は歌人としても創作をしている方で、作中にも、俳句が出て来ました。どれも、死刑囚による”辞世の句”であるにも関わらず、ユニークな視点が感じられて、重苦しくならない展開もまた意外で、楽しい世界でした。

幼いころ、好きな大人、苦手な大人・・そんな風にして大人を見ていた自分がいました。子どもの頃の思い出が、僅かでも何かの糧になっているとしたら、それは何だろうかと考えながら読み進めて行きました。

転校したことがないから、子どもの頃の僕の感想は分からないけれど、暮らしの場所がガラッと変わる経験をしたような読み終わりでした。ふんだんに登場する方言にも癒され、作家ご本人が描いた装丁の鳥にも癒されました。

夕焼けの海岸、舞台となった糸島の風景をサムネイルにしていただきました。infocus📷さん、ありがとうございます!

#推薦図書 #東直子 #転校生 #記憶


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