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河川敷は誰のもの? #こんな仕事です

「え?なんで分かるの?」

たった数秒のテレビCMで映った川の景色を見て、僕が「これ○○川だね」と呟いたのを聞いて、妻が驚いた声を出しました。

その景色は、僕が日頃から肉眼や写真で眺めている河川敷の様子が背景として映り込んでいたのでした。

写真を見ただけでどこの川か分かる、という超マニアックな特殊能力を備えているわけではなくて、たまたまその川が僕の仕事をしている場所だったから分かった、というのが種明かしです。

僕は地方公務員で、河川敷の施設を管理する部署にいます。


見事、創作大賞ビジネス部門で中間選考を通過!おめでとうございます!というわけで、み・カミーノさんの初企画に参加します。#こんな仕事です


全国でみると、地方公務員は280万人ほど。国家公務員は59万人ほどなのだそうです。あなたの周りには、公務員はいますか。

市町村のことを地方自治体などと呼んだりすることがあって、これまた細かい定義があるのですが、便宜上、この投稿では市町村や行政区・特別区(東京23区)を”自治体”と呼ぶことにします。

一般的に”大きな川”と呼ばれるような河川は、自治体が整備して作り出したものでなければ、国が所有者として扱われます。

国土という言葉もあるように、都道府県や市町村を流れているけれども、川そのものは自然が作っているので国が管理しています。自治体の判断で流れ方を変えたり、埋め立てるなんてことはできません。

あれ?さっき地方公務員として管理している、と説明したのに、川の管理は国がやってるってどういうこと?

と思われた方もいるかもしれません。川の管理は、国(国土交通省)です。しかし、川が流れている自治体は、川の周辺を”利用”することができるのです。その利用のために、国から借り受けて、代わりに管理するような体裁をとっています(占用、せんよう、と言います)。

占用するときには、厳密に測量して地形を測り、ここからここまでと場所を確定させて、国に申請しています。使いたい場所だけを指定して占用しているので、市内を流れているから全部が市の占用になっている、というわけではありません。

その占用している場所について管理を行なっている、というのが僕の仕事なのです。

そんなわけで、所有者は国で、そこを借りている自治体という関係の中で仕事をしています。ですから、大家である国からは、年に一度「ちゃんと決まりを守って使っているか」という検査があります。

ちなみに、河川敷とは、堤防の内側の一帯を指します。河川敷は、台風などで増水したときに、川の水が街に流れ込まないようにする働きがあります。ふだんから、本来の働きは滅多に住民には意識されないため、自治体によって河川敷の利用がさまざまで、差が出ているのです。

河川敷では通常の街なかとは違った制約があって、特徴的なのは工事ができる期間の違いです。街なかで道路や公園を整備しようと思ったら、一年中工事をすることができます。むしろそれが普通。

しかし、河川敷は違います。本来の目的は「増水時に堤防内に水を食い止めるため土地」ですから、増水したときに資機材が流れたり新たな被害が出ないように、増水する恐れのある時期(出水期:6月から10月)には工事をしてはならないことになっています。

また、河川敷には住所がありません。例えば待ち合わせをするとしても、河川敷内の施設(野球場とかサッカーグラウンドとか)や、橋の下など、すでにあるものを示すことになります。工事などで場所を表現する時には、沿線の最寄りの地名を使って、”○○町2丁目付近”と表記したりします。


僕の担当は、作業をしたり工事の設計をしたりする仕事……ではなくて、それを支えている事務職として、日々河川敷のことを見つめています。施設の利用状況を毎日チェックしたり、特別な利用の際に申請を受けて、許可証を作成したり。

特別な利用とは、例えば映画やテレビ番組などの撮影で、河川敷を使用すること。公務員には広範な守秘義務があり、申請内容は明かせないのですが、年間でいくつも申請があるので、たまに身近な番組や作品の撮影地として選ばれていたりします。

先ほど説明したように、広い河川敷は国と自治体が場所を区別して管理しているので、ほんの1mの違いで、草刈りや放置されたゴミ、特別な利用の申請など、国と自治体のどちらが処理するのか変わります。

”縦割り”と言われて久しい職場環境ですが、このほんの1mの違いをきちんとしないと、処理するための資金は税金で賄っていることからも、住民のみなさんの気持ちには応えられないのです。

広くて長い河川敷、その役割に一瞬でも思いを馳せていただけたら。



カミーノさん、改めておめでとうございます!今回の企画2,000字って、書き始めると意外と少なくて、あれもこれも書きたかったなぁなんて思いました。素敵な企画、ありがとうございました。


#こんな仕事です

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