贈り主
「梨で、ご飯が食べられるくらい好き」酔った勢いで言った気がした。
先生は、聞き逃さなかった。
それ以来ずっと、秋の始まりに、梨を送ってくれた。先生の地元は、とても甘くて大きな梨が穫れる東京都の西部。
去年の冬、転勤が決まって便りを出した。梨の御礼と、次の秋への期待も込めて。
返事が来た。
先生は、ほんの数ヶ月前にこの世を卒業したらしい。驚きと悲しみが押し寄せ、泣いた。
「桜の時期に、梨も咲くんだ。梨は背が低いから、雪景色みたいだぞ」
先生の笑顔を思い出した。
お別れをしたいと手紙に書いて、ほどなくしてお宅に伺った。
催花雨が降る、春のはじまり。先生が暮らしていた街には、あちこちに梨畑が広がっていた。梨の花は、少しだけ咲いていた。
奥様が、来訪を喜んでくれた。生前、とても嬉しそうに梨好きの学生がいたと話していたそうだ。そんな様子に、嬉しくなった奥様が僕に梨を送っていたのだと言う。
大きな梨が、今年も届いた。
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