お電話ありがとうございます!
引っ越し屋さんから公務員に転職した際、いわゆるモラトリアム期間のようなものが生まれました。
日本では、大学卒業と同時に入社することが多いので、あまり一般的ではないかも知れません。というわけで、珍しい経験として思い出される期間です。転職のための試験も終えて、その期間、半年。
それまで、「3年間で、5年分くらい働いたね(父)」と言われるくらい働いていたこともあって、体は働くことに慣れていました。
モラトリアム期間の過ごし方としては、勉強や旅行などが挙げられるのですが、僕は結局「働くこと」をメインに選びました。
通販会社のテレアポ、イベント運営補助、以前働いていたコンビニの早朝シフト、気がつけば3つも掛け持ち。雇用期間「半年」という短さでは、なかなか雇ってくれる先がなくて、単発で入ることができる仕事を選んで雇ってもらったのでした。
特に、通販のテレアポは、目玉番組への対応で募集を見つけて面接に行きました。僕はそれまでの営業の経験も奏功したのか、即時採用。採用かどうか分からないままに、翌日の出勤時間などを告げられたのでした。
テレアポは電話をかけて営業する、というイメージが強いのですが、通販のテレアポは順番が逆です。テレビやラジオを視聴して、商品が欲しい!となった人が電話をかけるので、営業の要素はほとんどありません。
電話を取って注文商品と個数、送付先を確認してPCに入力する作業が僕の仕事でした。
目玉番組・・とは、おせちの販売のことで、そろそろ年末か・・という11月の祝日に放送される番組でした。当たり前ですが、放送前までは鳴らなかった電話が、放送が始まるや否や鳴り出すのです。放送が終わるとしばらくは電話が鳴り続ける状態で、裏側を見た気分で楽しかったのを思い出します。
結局、僕はその目玉番組以降も継続して働くことになり(社員さんが「あ、もつさん、明日も大丈夫っすよね」と決定する緩さ・・・笑)、平日の午前と午後にある番組の商品を売っていました。
掃除用品、ネックレス、枕、脱毛器、給湯器、肉、お茶、果物・・・テレビ通販で目にする商品をいくつも売りました。・・売った、というか電話を取り続けただけではありますが(笑)
電話口の相手は、ほとんど女性でした。やはり、家でテレビを観ている奥様が電話をするパターンなんですかね。電話を取ると、たまにこんなことも。
「あら、受付って男性の方もいらっしゃるのね・・」
こんなふうに、やや警戒感もある中で、通販の受付をする方が、結果的には良かったのです。世間話のような話題で会話をしてしまうと、すぐに数分経ってしまうのですが、端的に必要なことだけを確認していく作業で短く終えられると、件数が稼げることに気がつきました。(給料は時給でしたけど)
なるべく早く受付を終えるために、空き時間にはパソコンの辞書機能に、いろんな短縮言葉を登録しました。「夜間指定、お客様了解済み・・・やお」みたいに。当時はまだクラウドなどは一般的ではなかったので、基本的には企業のサーバに蓄積された情報しかないため、ほとんどの受付は手入力だった記憶があります。
毎日、座る席も変わってしまうので、座るたびにパチパチと辞書登録・・・100台以上もマシンがあるフロアでしたが、いつしか登録済みのマシンに当たることも増えてきました。
そんなこんなで、半年が経ちいよいよ最終出勤日。アルバイト社員への面談が行われました。そこで、驚くべきことが起こったのです。
「もつさん、毎月どんどん件数が増えてて、とてもありがたいです。ついては、明日から、時給を200円アップします。」
当時、800円だった時給が1,000円になるという、破格の昇給のお知らせでした。嬉しそうに伝えてくれた上司に、同じような笑顔では返せない僕。
「え!?・・あの実は・・今日で、ここを辞めるんですよ。明日から、公務員として就職が決まってまして。」
「えぇ!・・もつさん、フリーターじゃなかったんだ・・」
「短い期間でしたが、とても勉強になりました。」
・・・帰り道、自分のはたらきが認めてもらえたような気がして、とても嬉しくなりました。驚いた上司のあの顔を思い出しては、笑いを噛み殺しながら、電車に乗っていました。
公務員としてはたらき始めて数日経って、目の前の電話が鳴り、慣れてきた動作で受話器を手に取りました。
「お電話、ありがとうございます!○○○ショッピングの、○○でございます!」
数日前まで、毎日のように使っていた名乗りが、つい出てしまいました。
真っ赤になりながら、見えない相手に何度も頭を下げました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました! サポートは、僕だけでなく家族で喜びます!