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物語の書き手は、誰だ #創作大賞感想

重苦しい雰囲気と、想像でしか結べない虚像を頭の中に思い浮かべながら、果たしてここに書かれている人たちは、生きているのだろうか、それとも生きているように見えているだけなのか…。多くの情報を処理せねばならない、となぜか緊張感を感じながら読み始めてしまう自分がいる。

ファンタジー小説を多く読まないこともあって、その書き手の想像力と構成する発想は驚きと尊敬を覚える。登場するキャラクターの名前、小道具としての植物や舞台設定となる国や屋敷など、ほとんどが0から生まれている。なんてことだ。

みなとせ はるさんの小説「執事はバッドエンドを導かない」を読んだ。

小説は、読む前から結末が気になってしまう読み手にとって、このタイトルのおかげで安心して読み進めることができる。

どんな物語にあっても、主人公は読み手である人間らしくいるものかも知れない。人間として、喜んだり、怒ったり、悩んだりするもので、ジャンルが変わってもそれは普遍的な、読み手が受け取るためのツールのようなものだと思っていた。

主人公は、若くして完璧な所作と対応力を持つ執事。天才か魔法使いかと思っていたが、指導係がいることがわかると、ホッとしてしまった。ここにも人間らしさの仕掛けがある。ファンタジーが、摩訶不思議で理解できない世界なのかと思っていたけれど、違っていた。

登場するものたちは、むしろ人間らしい、諦めや欲望、欺きなどを心の内に隠し持っていて、それが暴かれ、より良い方向に向かうことで物語が進むのかも知れない。

象徴的な存在としてある本に、物語を書くことで、その世界の物語が進んでいくという設定には、どこまでが真実なのか、書かれた物語とそれに抗った結果なのか、主人公の視点に助けられながら読み進めていった。

不思議で不安な世界、それは底知れない恐ろしさのようなものを隠しているような気がしていた。しかし、終盤の展開はタイトル通りの人間味の溢れる景色だった。

自分の物語を自分自身で書けるとしたら…それは幼い頃の”将来の夢”や”未来のまち”に想いを馳せた心の昂りを思い出させる問いかも知れない。どんな身の上であろうと、自分の人生を自分で決めていける、そう主人公は教えてくれたのではないか。

後半、そのファンタジーの要素とも言える、壮大な設定が明らかになるが、だからと言って物語が大きく揺らがないのは、緻密に設計されている物語だからだろう。

執事との冒険を読み終えて、自分の物語を少しずつ書いていきたいと思えるのは、きっと僕だけではないはず。


#創作大賞感想 #執事  

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