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旅にもつ2020・2019

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旅する日本語2020、2019のために書いたもの。初めてのショートストーリーの創作。
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#北海道

傘事情

嘘だ、信じられない・・ この傘を持って出たのに、雨に降られるなんて。この傘を買って以来、使ったことがない、魔法のような傘だったのに。 僕は、折畳傘が苦手なんだ。きみは、いつも「オリタタミじゃないほうの傘」と言っているけれど、僕は知っている。それを棒傘と呼ぶことを。 両手で引いて傘を開く。骨と布とが引っ張り合って、少しだけ軋む。新しい布に当たった雨は、コロコロと転がりながら落ちる。 本を読みたくて手袋を外すと、雨粒が手のひらに落ちてきた。 あれ、あんまり冷たくない。

選書運

ときどき、読み始めると止まらない作品に出会うことがある。食事も、トイレも、眠るのも、きみと話すのも忘れて、ページを繰る。 季節を問わないから、いつの間にか寒くて風邪を引いてしまうこともあったし、電車を乗り過ごすことも当たり前。 現実逃避どころか、仮想現実に没入して帰ってこられない、そんな感じなんだ。 でも、同じ作家さんが書いたほかの作品を読んでみても、ニ度と同じ感情は沸いてこない。 一途に読み通す、生一本の読み手。 笑いながら、きみはちょっと難しい言葉を使った。北海