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サラダ分配に命をかけた女

サラダを取り分けたら天下一。

誰にでもそんな友人が一人はいるのではないだろうか。

私にもいる。
サラダ分配に命をかけた女、Mだ。

あれは確か、日本でバイアグラが認可された頃だったと思う。

飲み会で意中の男性を落としたければサラダを取り分ければいい。そんな胡散臭い噂が巷に流れた時代だった。
恋人探しに躍起になっていた我々5人組は夜な夜な居酒屋に集まってはサラダを大量注文し、一心不乱にサラダを取り分けた。
1人で小皿を何枚も使うもんだから、ここは回転寿司でしょうか?と思われる量の小皿がテーブルに積み上げられていった。

しかしサラダを分けるという一見簡単そうなその作業は意外にも複雑で、サラダの種類によって臨機応変な対応が求められる。
豆腐サラダ、じゃこサラダ、添えられたレモンへの対応、温玉、人数分ない具材・・・。
とくに我々は食事のマナーすらままならない下品な集団、そのためサラダ分配技術取得は困難を極めた。

思い出される特訓の日々。

サラダしか注文せずにラストオーダーを迎える我々がお会計を済ませると、厨房から「牛かよ」と悪口が聞こえ、涙をこらえたあの日。

そんな日々を乗り越え、ついにトング、スプーンフォークを華麗に使い、どんなトッピングが乗っていようとも端麗に分配できる技術を身につけた。生け花ならぬ生けサラダ。サラダ界の假屋崎省吾とは我々のこと。

サラダ分配修士課程を無事卒業。
首席はM。
サラダを取り分ける彼女はまるで国宝・阿修羅。品があり、その動きには全く無駄がなく優雅だった。

卒業式を終えた我々はMの意中の男子を誘って飲み会を開催。
女子は私とM、そして女子力高めのリナちゃん
男子は私の中学の同級生連中だった。

店に入るや否や全員と知り合いの私は熱燗を注文。サラダを頼むことなんかとっくに忘れ、ホタルイカの沖漬けときゅうりの漬物を頼んだ。全て己を満たすため。
ところがリナちゃんは、飲み物を選ぶ前に「サラダだべたい❤」とほざいたのだ。サラダスキ女子のアピールと共に、サラダ分配で男子を瞬殺するつもりなんだろう。我に返ったMと私は無言で見つめ合いうなずきあった。

決戦の時。

店員が「オマタセシマシタ〜」とサラダをテーブルに置いた。トングを探す我々。
しかし見当たらない。
・・・。
いつの間に!!
リナの手にはすでにトングが握られていた。
早すぎる。まさか自前か?

サラダ分配ができなかった我々はサラダを追加注文。

するとサラダが運ばれてきたその瞬間、リナが「こっちにおねがいしまーす」と言うではないか!

サラダ分配権をも奪われた。

そして我々はリナの技を目の当たりにした。
笑顔ウィズえくぼ、さりげないボディータッチ、上目つかいに、サラダ以外ももれなく分配、しまいには「お酒飲んでないのに酔ったー」なんてとんでもないホラまでかます。全ては計画されているのだ。そしてもはや男子はリナしか見ていない。
今ここでサラダを分けたところで誰が我々を見てくれるのだろうか。
サラダさえ分配すればいいと思っていた我々はいったい。

完敗だ。
そう乾杯だ。

我々はサラダ分配を諦め「全然酔ってねえ」と吐き捨てながら泥酔し、死闘を終えた。

そして先日真夜中。
時差を完全に無視した時刻に電話がなった。Mだった。

Mは数週間前、職場の後輩と飲んでいた。そして注文したサラダを見た瞬間、あの特訓の日々を思い出したそうだ。
そして後輩に言った。

M「昔ね、合コンで男性に好かれたい女性は飲み会でサラダを分配して、気が利く女ををアピールすれば男性を落とせるって詐欺が流行ってたの。
だから友人とサラダとりわける練習とか必死にしたんだよ。まあ、全然役に立たかったけどね。
あ、でも君が私を好きになると困るから君がサラダ分配してくれる?」
笑わせるつもりで言ったそうだ。

すると後輩は言った。
「もう好きですけどね〜」

・・・。
なんと!!
まさかの!!!!

実はMも「いいなぁ」と思っていたのだが、Mの方が7歳年上なので恋心にまでは発展していなかったようだ。しかしこの日を堺に2人は急接近!めでたくカップルになった。
おめでとう!

それにしたって、人生何が起こるかわからない。
夜な夜な集まってサラダ分配を繰り返したあの日々、正直ずっと無意味だったと思っていたけれど。
あの努力が7歳年下彼氏につながるとは。

世界中の偉人が言うように、人生に無駄なことなど一つもないのかもしれない。例えそれがサラダを分配することでも。
そんなことを考えてしまう出来事だった。

皆さん良い週末を。













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