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人間暇だとろくなことをしない。

あれは一週間前、先週の金曜日だったと思う。
婚活中の友人が母親と喧嘩をしたと電話をかけてきた。

家族だからこそ、遠慮なく言葉をぶつけ合ってしまったのだろうか。友人が再現した母親の言葉は心をえぐられるようなものばかりだった。
母親の乱暴な言葉を真似したことで、再び傷ついた彼女が激昂した。
「まじで早く死んでほしい」
放った酷い言葉の罪悪感からか、涙声になった彼女は「こんなこと言ってごめんね」と続けて誤った。
私にできることは話を聞くことくらい。
そんな自分を情けなく感じたが、最後に彼女がスッキリしたと言ってくれたことに救われた。
ただ、電話を切った後も彼女のことが心配だった。
少しでも力になりたい、そう思い本を贈った。

「家族間殺人」・阿部恭子(著)

火曜日にその本が届いたんだろう。

「まじでありえないんだけど。この暇人!!」

と言う文字と共に、大量のお怒りスタンプが送られてきた。

そう、私は暇人だ。
そして暇な私はろくなことを考えていない。
その結果、こうやってろくでもないことをしてしまう。

人間は暇だとネガティブな思考が働くらしい。金曜日の私もそうだった。
「もし喧嘩がエスカレートして最悪の事態になったら…」
そうなる前に手を打たなければ。
彼女の行動を抑制するトリガーになるような何かが必要だ。
それはなんだ?その問いに脳が導き出した答えが「家族間殺人」という本だった。

要するに、暇だったからろくでもない思考が働き、ろくでもない行動を起こしたという訳だ。

じゃあ、私はどうしてこんなに暇なのか。
それは単純に私が無職だからだろうか。

ニュージーランドでは14歳未満の子どもを1人で留守番させてはいけないという法律がある。
子どもを一緒にサポートしてくれる家族や親戚が近くにいない私達が、この状況で夫婦フルタイムで働くのは難しい。小学校はまとまった休みも多く、その都度休ませてくれるパートの仕事も中々ない。
と、まぁ、そんなこんなで、1年前から就職活動中ではあるのだが、なかなか条件にあう仕事が見つからないでいる。だから暇を持て余しているのだ。

いや、違う。暇を持て余す原因が無職だというのはこじつけだ。
世の中には暇があれば学び、出会い、体験し成長する人がたくさんいる。分かってはいたが、やはり問題は私自身だ。
暇を有効活用できる知識も技術もないうえ、暇潰しのレパートリーも少ない。
妄想、筋トレ、睡眠、読書、映画鑑賞、友人への奇怪行動、そのくらいだろう。

でも一昨日はそのどれもやる気分にはなれなかった。

何をして暇を潰そうか。
とりあえず買い物ついでにドライブでもしよう。そう思い車に乗り込んだ。
いつもの道を走っていると、ふっと、標識に「ビーチ」の文字が。
私は導かれるように、海に向かった。

平日の海辺は贅沢だった。
砂浜には犬を遊ばせている老夫婦、そして子連れのグループだけしかいなかった。
太陽の熱視線を感じながら、ヨガマットを砂浜に広げ寝そべった。心地よい風が流れ、波の音が聞こえる。
海の音は雑念を消してくれる。
まさにオアシス。
太陽の暖かさに包まれ心地よくなった私は、20分くらい寝てしまったようだ。

油断したな。

身体が乾燥している。
日焼けしてしまったかな。そう思いながらも海でひと泳ぎし、身体を清め帰宅した。もちろん買い物はし忘れた。

そして、その日の夜だ。
身体に異変を感じた。
いざ寝ようと思うと身体が痒い。一体どうしたことだ。
虫にでもさされたのだろうか。
しばらくすると、全身が赤くなり痒みが出てきた。翌朝になる痒みは本格的になった。鏡で身体を見ると、気色悪い赤いボツボツが全身に広がっていた。麻疹や風疹のような顔つきだ。
心配になった私は子どもたちを学校へ送ったその足で、病院へと向かった。
診察してもらうと、どうやら長時間紫外線を浴びたアレルギー反応ではないか、ということだった。

今、私はかゆみに耐えてこの記事を書いている。

人間暇だとろくなことをしない。

そして今それを体験している。
これからしばらく暇が続くであろう私(無職)は、こんな体験を何度も繰り返すのだろうか。
嫌だ。
絶対にこの連鎖を断ち切るんだ!
しかしそんな強い決意もすぐに痒みに消し去られた。

かゆいかゆいかゆいかゆい。

脳内が「かゆい」で満ちてくる。
痒みというのは痛みより厄介かもしれない。
痒み止めを塗っても全く抑制できない。夜も眠れぬほどの強敵。
「痒くて気が狂いそうだ」と言う私に「それ以上狂ったらもう終わりだよ」という娘。
反論しようとするも、かゆいかゆいかゆいかゆい。
脳が働かない。

そして気がついた。
今の私は痒みで「暇」を感じる隙すらない。
痒みで暇じゃなくなったのだ。
結果、私はろくでもないことをしない。
大願成就。
ということでいいのだろうか。

かゆいかゆいかゆいかゆい。

どうかこのまま痒みが引きませんように。













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