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私はどう生きるか

「ぬいぐるみペニスショック」

引かないでほしい。
決して、私がつくった造語ではない。
若者文化を知ろうと、調子に乗って読んだ本の中で偶然出会った言葉だ。

可愛いしか連想できない単語「ぬいぐるみ」、それとは対照的な生々しい単語「ペニス」。この2つを組み合わせると「男友達(親しい)だと思っていた人から好意を寄せられ抱く嫌悪感」を表現できるそうだ。
その心の現象を指し「ぬいぐるみペニスショック」若者はそう呼ぶらしい。
ショックで私がペニスになりそうだった。

それにしたって、ペニスが生えたぬいぐるみ。
想像すると、確かに嫌悪感しか湧かない。
ペニスよ、すまない。
でも人間だれでも一度くらいはペニス付きのぬいぐるみとなり、人にショックを与えたことがあるのではないか。
生きていれば誰でもなりうる立場、それにもかかわらず自分に好意を持ってくれた男性に対して「ぬいぐるみペニスショック」だなんていとわしい言葉を使ってしまう現代。
令和とはそんな過激な時代なのだろうか。

誰かとこの驚きを共有したい。そんな衝動にかられていると、都合のいいことに電話がかかってきた。

以前住んでいた町で仲良くなった海ちゃんだ。日本に一時帰国していたのだが、先週帰ってきたとメッセージが来ていたことを思い出した。

獲物は決まった。

通話ボタンを押し、声を聞いた途端に口角が上がった。ゲラゲラと下品に笑う懐かしい海ちゃんの顔が脳裏にくっきりと浮かんだ。

海ちゃんは3ヶ月弱日本に帰国していた。
コロナや出産が重なり、5年ぶりの日本だった。

ニュージーランドでは比較的簡単に日本の食品が手に入る。ただ、値段が日本の3倍くらいするのがネックだ。だから帰国した際は持ちきれるだけの食品や、日本でしか買えない便利グッズを大量に買ってくる。
有り難いことに、海ちゃんは私にも調味料なんかを買ってきてくれたようで、それを発送したよ、という連絡をくれたのだった。
お礼を伝え、どんな便利グッズを買ってきたのか尋ねた。

私「今回は何か面白いもの買ってきた?」

海ちゃん「めっちゃ買い込んできた。ダンボール2つ分は食料品。流しそうめんの機械も買ってきたわ〜。それから、こたつヒーターに、子どもの服も安かったから大量買いしちゃった。後はね、ヨニエッグだな」

新出単語を耳にした私は聞き返した。
「ヨニエッグ?」

海ちゃん「知らない?膣に入れるパワーストーンだよ」

知るわけがない。

「尿漏れに良いって聞いてさ・・・」そう切り出し、説明を始めた海ちゃん。
その時点で私の「ぬいぐるみペニスショック」への関心は完全に「ヨニエッグ」へ移っていた。

ヨニエッグのヨニは女性器、エッグは卵を意味する。その名の通り、卵形の天然石に紐がついているものが一般的だが、ワンド形のものもあるようだ。
それを膣に入れることで、癒やし、性への目覚め、女性ホルモンを整える、骨盤底筋を鍛えるなど、様々か効果が期待できるらしい。

卑猥な私は聞いた。
「それは快楽を求めるものではないの?」

海ちゃん「どうなんだろうね。尿漏れ改善が目的で買ったからよくわからん。でも私の場合は最終的にはそっちに走るよね、ガハハハ」そう、下品に笑っていた。

世の中は絶えず進化している。
ぼやっとしていたら、膣にパワーストーンを入れる時代がきていたのか。

ふいに、去年日本に帰国した時のことを思い出した。あの時も私は時代に取り残された存在だった。

何を買っても待ち構えているのは、セフルのレジ。
それを相手にする度、動悸が激しくなる私。

どこへ行っても取得を促されるアプリやQRコードの読み取り。スマホ画面いっぱいにダウンロートしたアプリを全く使いこなせない切なさ。

「ペイ」がいっペイすぎる問題も私には深刻だった。
それ以前に、〇〇ペイという文字を見るたびに、間寛平(ペイ)を思い出してしまった。
もちろんアプリだけはダウンロードしたけれど、チャージの仕方がイマイチ分からず結局現金支払いだった。

他にも、流行りの芸能人ネタ、ファッションなんかも全く手に負えなかった。ぴえん。

そんなことを思い出し改めて不安になった。
私はこれから、この過激な時代を生きていけるのかと。

電話を切った後「ぬいぐるみペニスショック」について思い出した私は、汚友達にメッセージを送った。
アラフォー女子7人に確認したが、誰も「ぬいぐるみペニスショック」も「ヨニエッグ」も知らなかった。
時代に取り残されたのは私だけじゃないようだ。

安堵した私は思った。
そうだよな、現状困っていないのだから無理矢理時代に合わせて生きなくたっていいよな。
必要になった時に、必要なものや情報を取り入れれば充分だ。
でもどうしてだろうか、そんなことを考えながらも過激な時代への興味を捨てきれない自分がいる。
これは必要性の問題ではないのかもしれない。
問題は私がどう生きたいか、だ。

人間の脳は常に新しいもの、刺激を求めるようにできていると聞いたことがある。
だから私はあえて立ち向かってみるべきなのだ。

キャッシュレスな日常。
自動精算機に動揺しない心。
支払いはペイ。
ぬいぐるみにはペニス。
穴には石。

こういう日常を生きてやる。
そう決意した。













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